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◇001/先を見通そうとする者

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  着実に無線が減って来ていた。それは自陣の人数も減ってはいるが、相手側の人数も減り動けない状態とも言える。

──『相手は遊撃班。動き回り臨機応変に対応する事に長けている。故にこちらは迎撃に徹し、相手が踏み込んで来るのを待つべきだ』

  その通りだった。遊撃2班の班員は身を隠しながら少しずつ第6小隊のエリアへと進撃していた。

──『あの2人は2班でも屈指の前線人員。隙を見付けてはそこから攻めて来る。あの2人の体格を舐めてはいけないよ。あの2人は誰よりも軽装を好む。それだけ機敏性と機動力を重視すると言う事だ。君達2人に比べてシンハラは小柄だ。ユーディはそこから更に小さい。それをカバーするだけの技術もある』

  黒曜から聞き出した情報は有難いものだった。書類上からの作戦提案を黒曜にすれば、それなりに補正されて返って来る。

──『僕も同意見だね。多分2班は、班員が活路を開きにやって来る。どうせシンハラとユーディは直ぐには来ないよ。だから前線と中層狙撃で班員を削るのがベターかな』

  黒曜のアドバイスは惜しみなく組み込んだ。それが効いているのか第6小隊員の報告を聞く限り、班員の撃破報告はいくつもあったが榛原とユーディアルライトの報告はまだない。

──『ユーディアルライトは僕ではなくアイゼンを狙ってやって来る。相手側にも事情が存在する』

  リアンが置いた策は着実にアイゼンの元へユーディアルライトを導いた。

『南エリア7高所より通達、敵2名、エリア7Cより8Aへと侵入!』
『補正より、予定通りお願いします』
「南エリア8中層狙撃、確認。只今より狙撃体制に入る」

  3階建ての建物の屋上から、ライフルがアイゼンの居る小屋の入り口付近を狙う。微調整をし、数メートル後ろを行く男を捉えていた。瞬間を待つ。それはまだ来ない。
  ボンっ、と小屋の屋根で小さな爆発が起きた。それは本当に小さな爆発。衝撃で斜めの屋根から雪が滑り落ち、小屋のドアを塞いた。先に建物に侵入した者と後ろに付いていた男を雪が分断した。

──今だ!

  ライフルの引き金の指に力を込めた。弾は射出され、男の胸部に鮮やかな蛍光色が広がった。

「南エリア8中層狙撃より通達!敵1名、被弾確認!」

──演習終了のサイレン、鳴らない!

『補正より、想定通り続行』

──『他の班員を排除していけば、いずれシンハラとユーディがアイゼンの元へと来る。ユーディ主体で来るだろうから、最後にシンハラを落とせば…』

  狙撃主のフードが風によって後ろへと落ちる。短い伽羅色の髪が靡いた。

──『最後にシンハラさんを落とせば、アイゼンとユーディアルライトで1対1になる』

  リアンは知っていた。遊撃手と言うのは臨機応変に動いて行けるが、逆を返せば限られた空間に押し込んで臨機応変の選択肢を減らしてしまえば何も出来ない事を。遊撃手と言うのは機動力を重視する故、基本的に重装備はしない。だからこそ1対1になった時の力押しには弱い事を。そして黒曜の言葉通り、アイゼンとユーディアルライトとの勝負となった。

──アイゼン、取れ!

  暫くの静寂のあと、聞こえたのは無線の音声だった。

『…拠点より通達、敵1名、撃破』

  ヘッドセットからアイゼンの声が零れた。演習施設に演習終了を告げるサイレンと、第6小隊員の歓声が響いた。

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