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四 天、予を喪せり

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 四月の柔らかな雨が、まだ新しい墳墓を濡らす。霧がかかったように霞む風景の中、春勝が手ずから焚いた香の煙が立ち上る。

   お前が生を受けてより三十八年、
   寝台でも儒道を語り合い、共に家業に励んできた。
   雁が並び行くように、鶺鴒せきれいが睦み合うように。
   離れることなくずっと共に生きてきて、喧嘩一つしなかった。
   今、不幸にしてお前の死に遭う。
   わたしは翼をがれた鳥、左右の手を失ったも同然の身だ。ああ、悲しいかな。

 祭文を読み上げる春信の声は、故人の死を悼む人々の胸に沁み入るように響いた。
 春常は、父の傍らにいる。十七歳になった今、身長は父と同じぐらいまで伸びた。
『この二人がおれば、それも遠いことではありません。わたしは三十五ですが、この目が黒いうちに、きっとそれをこの目で見ることが出来ましょう』
 春信ら兄弟が、儒臣として確かな地歩を、幕府に築いてくれる。きっとそれを見ることが出来るだろうと、叔父守勝は頬笑んだ。
 あれからわずか三年で、守勝は亡くなった。享年三十八歳。早すぎる死であった。


          ※

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