どうしてか、知っていて?

碧水 遥

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レイチェルの恋

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「好きな人、かぁ……」

 呟いて、レイチェルは中庭に視線を向けた。

 幼い頃、自分を抱き上げてそこを散歩してくれた人がいた。

 両親に放って置かれている子どもが気になっただけだとしても、それが単なる憐れみで、愛情ではないとしても。

 唯一、自分に関心を向けてくれた人。

「でも、あの人はねぇ……」

 レイチェルは、恋をしていた。確かにそれは、初恋だったけれども。

お嬢さまわたくしに好かれていることを笠に来て好き勝手する、いわゆるクズなのよねぇ……」

 メイドを脅しているところを見てしまった。

『オレに逆らったら、お嬢サマが怒り狂うと思うぜ?だから大人しくオレのものになりな』

 と、俯いて震えているメイドを、口説いて脅していた。

 その時は咄嗟に、わたくし以外に優しくしないで!と言って引き離したのだが。

「何度も繰り返した上に、横領までしたのよねぇ……」

 お嬢さまわたくしに頼まれたから、と嘘をついてせしめた、おやつや小物を買う金を、女に貢いでいた。

 それくらいなら可愛いものだけど、そのうち買うものそれがドレスになり、宝石になり……どこの世界の侯爵令嬢が、ドレスや宝石を買ってきて欲しいと、1に頼むのだろうか。

「それでも……お菓子や小物程度なら見逃すくらいには、好きだったのよねぇ……」

 両親は、とてもとても愛し合っていて。その世界には、子どもである自分すら不要で。だから、いつも独りで。

「今から思えば、単なる無礼者だったんだけどねぇ……」

 あくまで使用人なのだから、仕える対象の自分には一線を引くべきで、馴れ馴れしく抱き上げたりするものではない。
 いくら相手が子どもでも、泣いているからって抱きしめたり、頭をグシャグシャと撫でたりしてはいけないのだ。

 でも、寂しい自分には、それがとても嬉しくて。

「わたくし……男運がないのかしら……」

 その男はとっくにペリアール侯爵家うちを首になっていて、今は平民で組織されている兵士団の副団長になっている。仕事は出来るらしい。

 エヴァンジェリンが言っていたのは、おそらくこっそり見に行ったその男のことだろう。

「でも、あの男はないわ」

 4人で見に行った時には、真面目に団員の指導なんかしていて、ちょっとは見直したのだ。今は真面目になったのだと思って。

 それなら差し入れでもしようかと、1人で許可を取りに向かったら、嫌がる女の子の腕を無理矢理掴んでいた。

 踵を返しましたとも、ええ!

 もちろん、団長に通告しましたとも!

 過去の横領のことまではバラさなかったけれども、ペリアール侯爵家うちを首になったことは言っておきました。

 どう見ても性根が変わってないようだったので、また何かしていたら大変ですからね。

「……婚約者、かぁ……」

 もう誰でもいい、とは言っても、家を傾かせる相手は論外だ。

「いっそ、誰かに紹介してもらおうかしら。高望みはしないけど……できればわたくしより歳上で、背は高い方で、筋肉で、優しくて、誠実で、浮気しない人で、ムキムキで、裏切らない人」

 あら?何か、条件が2つ3つ重なった気がするわ?

「まあ……みんなに頼んでみましょう……」



▼△▼△



「レイぃーっ!!」

 馬車から飛び降り、手を振りながら走って来る愛しい婚約者を、レイモンドはしっかりと受け止めた。

 抱き着いて、ニコニコと見上げるパトリシアを抱き上げ、頬にキスする。

「いらっしゃい。待ってた」

「うん!」

 婚約者恋人たちはテーブルに着き、甘いひとときを……過ごしたりはしなかった。

 怒涛のようなパトリシアのお喋りを楽しそうに聴き、それからお互いの情報を擦り合わせ、ようやく落ち着いたところで。

「……ペリアール嬢の婚約者?」

「うん。心当たりないかな?紹介して欲しいんだって」

「何でまた。ご両親が決めるのでは?」

「もう嫌なんだって」

「ペリアール嬢が?」

「ううん、両親が。決めてやった婚約をダメにしたんだから、今度は自分で何とかしろって」

「どんな両親だ……」

 パトリシアの友達の両親だ、もちろんレイモンドは知っているのだが。

 あまりの言い種に、溜息を吐く。

「条件は?」

「身分は貴族でさえあれば問わないけど、出来れば歳上で、背は高い方で、筋肉で、優しくて、誠実で、浮気しない人で、ムキムキで、裏切らない人だって」

「……は?」

 なんか重なってた気がする。

「だからね……」

「あー、いい……つまり、背が高く筋肉があって、誠実で優しい男、か」

 そりゃ、ジェレミーアレはダメな訳だよ。理想の正反対じゃないか。いや、アレがダメだったから正反対になったのか。

 繊細な美貌を思い出して、レイモンドはやれやれと首を振った。

「判った。何人か推薦しよう」

 騎士団なら、そういう男はよりどりみどりだし。

 レイモンドは、疑いもなくそう思っていた。
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