どうしてか、知っていて?

碧水 遥

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オレ強ぇぇぇ!!

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「わたくしのクラスには、ジム・シュタイン男爵子息という転入生が来まして。“この世界の主人公”だとか、“モテモテでハーレム”だとか、意味は判りますが、言葉が通じませんの」

 口許だけは微笑んでいるエヴァンジェリンに、クローディアスは少々ゾワッとした。

 自分に向けられている訳ではない、と、判ってはいたのだが。

「同性とは会話しているようですが……まあ、変な会話ですけど」

「変な?」

「ええ。『どんな女もオレのものだから、アンタの婚約者も取っちゃうケド、ゴメンな』と、いったような?」

「何だ、それ……」

 クローディアスは、美しく盛り付けられたティーフードの中からスパイスクッキーを選んで口にすると、わずかに表情を緩めた。

 お気に召したらしい。

「で、モテているのか?その男」

「いえ?まったく。他人の容姿をどうこう言うのはよろしくありませんが、その男は何の特徴もない外見ですし、何より言葉が通じませんので」

「それで何でその自信⁉︎」

「さあ?まあ、ほんの少し太り気味なのと、茶髪茶眼なのが、珍しいと言えば珍しいでしょうか。……貴族としては」

 エヴァンジェリンの言葉に、クローディアスはガクッと肩を落とした。

「まあ……その特徴って、ほぼ平民だよねー……」

 まったく、意味が判らない。貴族の中に平民の特徴を備えて混じっていて、何故モテると思えるのか。

「何でも、わたくしがハーレムづくりのきっかけになるとか?わたくしは、“チョロイン”で、“ナデポで即落ち”なんだそうで」

「……はぁ?」

 聞き覚えのない言葉に眉を寄せたクローディアスに、エヴァンジェリンは肩を竦めた。

「意味は訊かないでくださいませ。何度も聞かされたので覚えましたが、言葉自体は判りませんの。……それで、何故か執拗にわたくしの頭に触れようとしていまして」

「なっ……!触れられたりは……!」

「もちろん、していません。ただ、わたくしの護衛が遮るたびに癇癪を起こして騒ぐので、いい加減鬱陶しいのですわ」

「……成程?彼女に通ずるものがあるな」

 クローディアスが諦めたように溜息を吐くと、エヴァンジェリンは、今度こそにっこり微笑んだ。

「そうでしょう?ですから、多少でも会話の出来る同性であり、身分が最も高い、あなたの出番だと思いますの」

「……きみのクラスの男生徒は何をしてるんだ」

「そうですわねぇ。嫌がってまったく近寄らない人と、おこぼれがもらえると信じて取り巻いている人に分かれますわねぇ」

「……おこぼれって」

「彼が飽きた女性を、回してもらえる約束?とか?」

「……嬉しいのか⁉︎それって」

「さあ?男性の感覚は何とも」

 澄ましてお茶を飲んでいるエヴァンジェリンを、クローディアスは恨めしそうに見つめた。

「そんな男の相手を、私にしろと言うの?」

「……ねぇ、殿下。自分がされて嫌なことは、人にしてはいけません。どうしてか、知っていて?」

「……っ、ああもう!!こうやってやり返されるからだよ!」

「ほほほ、今は正解」

 嫌そうにゆっくりと立ち上がって、クローディアスは執務室に戻るため、歩き出した。
 すぐに立ち止まり、愛しい婚約者に耳許で囁く。

「きみの焼いたクッキー、美味しかったよ。わざわざありがとう」

「…………っ」

 ちゅ、と、わざと音を立てて耳たぶにキスすると、みるみる耳が赤くなる。

 可愛いなぁ、と姿勢を戻すと、顔色は変えずにキッと睨まれた。

「殿下!!」

「はいはい、ちゃんとしますよ。……ごちそうさま」

 ヒラヒラと手を振って立ち去るクローディアスに、エヴァンジェリンは今度こそ真っ赤になってテーブルに突っ伏した。

「もうっ……もう!破廉恥ですわ!!」

 その背後に、すすすっと近づく影。

「お嬢さま……お茶を入れ替えましょうか?」

 もちろんその場にいた侍女が静かに尋ねると、エヴァンジェリンはビクッとしたが、テーブルに突っ伏したまま、自棄になって言った。

「ええ!今度はアイスティーにしてちょうだい!ミントでね!」

「……かしこまりました」

 もそもそ姿勢を正すお嬢さまに吹き出しそうになりながら、侍女はお茶の準備を始めた。

 お嬢さまの好みに合わせて、ミントティーを冷やすのではなく、濃いめのアイスティーにミントシロップで甘みをつけたものを淹れるために。
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