3 / 3
後編
しおりを挟む
「なんだあいつ……男とベタベタしやがって」
アンドリューはここに来て、初めて自分以外の男にエスコートされるサフィーラを見た。
手を引かれ、微笑み合い、いつもの貼りつけたような笑みで、挨拶をして回っているサフィーラ。
だが、その貼りつけたような笑みが美しく見え、目を疑う。
「何で……」
「アンディ?どうしたのぉ?」
自分の隣には、ベッタリと身体を押しつけるマイナ。肩も背中も剥き出しで、上から覗けば胸も見えそうなドレスの。
歯を見せて全開の笑顔を浮かべるマイナを、この場にそぐわない、とアンドリューはようやく思った。
「マイナ。リディアーナが仕立てたボレロはどうした?あれ、お前に似合ってただろう?」
「ああ、あんなの」
吐き捨てるように嘲ったマイナは、媚びるような笑みを浮かべ、更にアンドリューに擦り寄った。
「捨てちゃったよー。だってぇ、アンディがくれだドレスが見えなくなっちゃうもん」
「捨てた……?」
王女に下賜された服を。男爵令嬢が。
「えー、いらないでしょ?あんなの。アンディだって、このドレス可愛いって言ったじゃない」
初めて見た時は、色っぽさにニヤニヤした。マイナの胸は大してないが、それがどどーんと大きく見え、似合っているかどうかなどどうでも良かったので。
だが、このパーティに来ている令嬢たちのドレスは、どれも肌を隠していて清楚で、すっきりと涼しげだ。
マイナのようにゴテゴテと宝石を縫いつけたり、大振りのアクセサリーを付けたりしていない。
リディアーナでさえ、ティアラは付けていなかった。
サフィーラの、あの貼りつけたような笑みが嫌いだった。穏やかな声で、いつでも自分に対する文句しか言わない。
だが、貴族令嬢は皆、同じような笑みを浮かべて穏やかに話していた。コロコロと表情を変える者など、1人しかいない。
「ちょっとー、アンディ?何変な顔してるのぉー?」
変な顔はお前だ。
思わず出そうになった台詞を飲み込む。
マイナは、プクッと頬を膨らませ、唇を尖らせていた。
この表情が、可愛いと思っていた。貴族令嬢では決してしない、心のままの表情。
だが……。
心のまま?本当に?マイナだって、貴族だ。令嬢教育を受けた筈なのに?
「マイナ。ちょっと、挨拶をして来る」
何だか混乱して、アンドリューはその場を離れようとした。挨拶をして来る、と言えば、堅苦しいのが嫌いなマイナは付いて来ないので。
「あ、サフィーラさんのとこ?あのカッコいい人の」
「は?サフィーラ?」
「あそこにいるじゃない。あの人カッコいいよねー。あの人もくれないかな」
あそこに、と指差したマイナは、また泣きついてみようかなーなどと上機嫌にニコニコしている。
「何のことだ」
「えー?サフィーラさんにアンディちょうだい、って言ったらくれたんだよ。だから、あの人もくれるかも」
「ふざけるな!!」
いきなり怒鳴りつけられて、マイナはビクッとした。そして、怒っているアンドリューを見ると、慌てて言い訳をし始める。
「別に、乗り換えようとした訳じゃないよー。好きなのはアンディだけ」
「違う!サフィに何を言った!!」
「え?」
呆然としているうちに手首を掴まれ、マイナは引きずられるように連れて行かれた。
「痛い、痛い、アンディ、離して!!」
「うるさい!!」
着いたのは来賓のど真ん中、サフィーラが挨拶をしている場所だった。
「ちょっ……」
「すまなかった!!」
マイナを引きずったまま、アンドリューがいきなりサフィーラに頭を下げる。
サフィーラは終わった……とばかりに遠くを見やって、見なかった振りを……したかった。
「フィラ」
「……判ってますわ……」
サフィーラは周りの来賓に断り、2人について来るように言って、歩き出した。
足を止めたのは国王夫妻の前。2人に向かってカーテシーをすると、ルーファスも礼を取った。が、アンドリューたちはポカンとしていた。
「楽にしなさい。……ランドルーズ嬢、どうかしたのか?そちらは新しい婚約者か」
「ルーファス・ラディ・シードルートでございます」
「うむ。シードルート王国の第2王子だったな」
「はい。前々からサフィーラ嬢に求婚していたのですが、幸運にも」
「何だとっ⁉︎」
話に割り込み、アンドリューがルーファスの胸倉を掴もうとする。
ここぞとばかりに悲鳴をあげようとしたマイナと、アンドリューは即座に近衛騎士に取り押さえられた。
「他国の王族に何をする」
「しかし、父上!サフィは、サフィこそが浮気をしていたのではありませんか!!」
「しておりません」
「何をっっ!!」
「声を抑えてくださいませ。……こうなるのが嫌だから、わざわざ陛下の御前に参ったのですわ」
今、6人の周囲は近衛騎士に囲まれ、あまり見えなくなっている。声さえ抑えれば、何を話しているか、判らないだろう。
「……気を遣わせてすまぬな。やはり、こやつらは来賓の前に出すのではなかった……しかし、このような場も最後だと思い、つい、な」
ついではありませんわ……と言いたかったが、さすがに国王に突っ込む訳にはいかず、サフィーラは顔の前に扇を広げた。
「求婚はされておりましたが、受けてはおりません。他国の王族に対して書簡を出すな、などとは言えないのですから、それで浮気していた、と言われましても……」
「フィラと会ったのも2回だけだしね」
「ええ」
「それに、完全に浮気していた男に言われたくないと思うよ、フィラも」
ぐっ、と詰まったアンドリューは、それで何故サフィーラの元に行ったのか思い出した。
「あ、いや、サフィ。マイナが妙なことを言ったらしいな。すまなかった」
「婚約者ではないのですから、略称で呼ぶのはおやめください。……ドナート嬢のことなら、別に構いませんわ」
「しかし!それで婚約を解消したのなら、さぞかし傷ついたのだろう……?」
妙に甘い笑みを浮かべ、アンドリューがサフィーラに手を伸ばす。触れそうになる前に、ルーファスが位置を入れ替えた。
「いえ、全く。……殿下は、何故わたくしたちが婚約したか、判っておいでですの?」
「それは!互いに愛し合って」
「わたくしの家が、入婿を探していたからですわ」
「はあ⁉︎何を言っている!父上が、俺の意志を汲んでくださったのだろう⁉︎」
「……はあ」
溜息を吐いたのは、王妃だった。
「本当に、お前は何も判ってないのね」
王妃も顔の前に扇を翳しているが、その目は鋭く息子を睨みつけていた。
「王侯貴族の婚姻が、恋愛でどうにかなる訳がないでしょう!お前がランドルーズ嬢に出会ったのも、わたくしが主催したお茶会じゃないの」
そのお茶会には、双子の王子が、それ程苦労せずに暮らしていけるだろう縁談の相手が、集められていた。
高位貴族の次女や三女──婚姻時に継ぐ空爵位がある──や、婿入り希望の一人娘。
その中で1番身分が高く、裕福で、自国内の令嬢であるサフィーラを、アンドリューが見染めたのである。
見染めた、と言うよりはむしろ、騒ぎ立てた、とか、がなり立てた、の方が近かったが。
「こちらが無理やり頼み込んだ婚約だと言うのに、この体たらく。……本当に、大変な目に合わせてしまいましたわ、ランドルーズ嬢」
「いえ、お気になさらず。……もう済んだことですし、新しい婚約も結びましたし」
「何も済んでいない!!マイナが言わなければ、婚約を破棄してなかったんだろう⁉︎だったら、もうマイナのことはいい、なんなら、側妃にすれば……!」
今まで掴んでいたマイナの手を突き飛ばすように離し、アンドリューが迫って来る。が、間にルーファスが入った。
「まだ勘違いは治らないようだね。……何処の世界に、入婿に側妃を許す家があるんだ?」
「何を言ってる⁉︎俺は王子だぞ!!」
「王子、ねえ……」
チラリ、とルーファスがネディラ国王に視線を動かすと、心得たように、国王は口を開いた。
「そなたの王族籍は、学校を卒業したと同時に抹消される。ランドルーズ嬢と婚姻しないのなら、居場所はないゆえな」
「はあ⁉︎」
「勿論、貴族でもない。その娘と婚姻したとて、貴族にはなれんからな。……まあ、まだ半年程はあるし、婿入り先を探すなり、就職先を探すなり、好きにせよ」
「ちょっと!!どういうことよ!!あたしはアンディと結婚して、王子妃になるのよ!!」
マイナが喚くと、つられたようにアンドリューも喚き出した。
「何を言ってるんだ!!俺はサフィと結婚して侯爵になるんだ!!」
「無理ですわ」
サフィーラは、アンドリューの嫌いな美しい社交用の笑みを浮かべた。
「わたくし、もう婚約しておりますの」
「行こうか、フィラ。……陛下、御前を失礼いたします」
「ごきげんよう」
2人は美しく礼を取ると、その場を離れた。近衛騎士が、一斉に道を開ける。
「ね、きみの愛称って、フィラだよね?」
「ええ。サフィは略称でしょうか」
「1人違う名前を呼んでいるのは、妬けるな」
「そうですか?……他の愛称を付けます?フィラは、家族も呼びますし」
「じゃあ……フィーって呼んでいい?」
「ええ、構いませんわ」
婚約者のエスコートをしながら、ルーファスは笑いを噛み殺した。
ほんと、バカだよな。私よりよっぽど、条件が良かったのに。私なんて、何度も断られたんだぞ。
貼りつけた笑みが嫌いって……貴族令嬢が嫌いってことだよな。じゃあ、ちょうどいいのか。平民になって、せいぜい幸せに暮らしてください──。
まあ、本人はその気、全くなかったみたいだけどね。
学校を卒業したアンドリューは、結局マイナと結婚しなかった。いや、出来なかった。王子でなくなるアンドリューに、マイナが興味をなくしたので。
1人市井に放り出されたアンドリューは、仕事もろくに出来ず、酒浸りになり、短い生涯を終えた。
アンドリューはここに来て、初めて自分以外の男にエスコートされるサフィーラを見た。
手を引かれ、微笑み合い、いつもの貼りつけたような笑みで、挨拶をして回っているサフィーラ。
だが、その貼りつけたような笑みが美しく見え、目を疑う。
「何で……」
「アンディ?どうしたのぉ?」
自分の隣には、ベッタリと身体を押しつけるマイナ。肩も背中も剥き出しで、上から覗けば胸も見えそうなドレスの。
歯を見せて全開の笑顔を浮かべるマイナを、この場にそぐわない、とアンドリューはようやく思った。
「マイナ。リディアーナが仕立てたボレロはどうした?あれ、お前に似合ってただろう?」
「ああ、あんなの」
吐き捨てるように嘲ったマイナは、媚びるような笑みを浮かべ、更にアンドリューに擦り寄った。
「捨てちゃったよー。だってぇ、アンディがくれだドレスが見えなくなっちゃうもん」
「捨てた……?」
王女に下賜された服を。男爵令嬢が。
「えー、いらないでしょ?あんなの。アンディだって、このドレス可愛いって言ったじゃない」
初めて見た時は、色っぽさにニヤニヤした。マイナの胸は大してないが、それがどどーんと大きく見え、似合っているかどうかなどどうでも良かったので。
だが、このパーティに来ている令嬢たちのドレスは、どれも肌を隠していて清楚で、すっきりと涼しげだ。
マイナのようにゴテゴテと宝石を縫いつけたり、大振りのアクセサリーを付けたりしていない。
リディアーナでさえ、ティアラは付けていなかった。
サフィーラの、あの貼りつけたような笑みが嫌いだった。穏やかな声で、いつでも自分に対する文句しか言わない。
だが、貴族令嬢は皆、同じような笑みを浮かべて穏やかに話していた。コロコロと表情を変える者など、1人しかいない。
「ちょっとー、アンディ?何変な顔してるのぉー?」
変な顔はお前だ。
思わず出そうになった台詞を飲み込む。
マイナは、プクッと頬を膨らませ、唇を尖らせていた。
この表情が、可愛いと思っていた。貴族令嬢では決してしない、心のままの表情。
だが……。
心のまま?本当に?マイナだって、貴族だ。令嬢教育を受けた筈なのに?
「マイナ。ちょっと、挨拶をして来る」
何だか混乱して、アンドリューはその場を離れようとした。挨拶をして来る、と言えば、堅苦しいのが嫌いなマイナは付いて来ないので。
「あ、サフィーラさんのとこ?あのカッコいい人の」
「は?サフィーラ?」
「あそこにいるじゃない。あの人カッコいいよねー。あの人もくれないかな」
あそこに、と指差したマイナは、また泣きついてみようかなーなどと上機嫌にニコニコしている。
「何のことだ」
「えー?サフィーラさんにアンディちょうだい、って言ったらくれたんだよ。だから、あの人もくれるかも」
「ふざけるな!!」
いきなり怒鳴りつけられて、マイナはビクッとした。そして、怒っているアンドリューを見ると、慌てて言い訳をし始める。
「別に、乗り換えようとした訳じゃないよー。好きなのはアンディだけ」
「違う!サフィに何を言った!!」
「え?」
呆然としているうちに手首を掴まれ、マイナは引きずられるように連れて行かれた。
「痛い、痛い、アンディ、離して!!」
「うるさい!!」
着いたのは来賓のど真ん中、サフィーラが挨拶をしている場所だった。
「ちょっ……」
「すまなかった!!」
マイナを引きずったまま、アンドリューがいきなりサフィーラに頭を下げる。
サフィーラは終わった……とばかりに遠くを見やって、見なかった振りを……したかった。
「フィラ」
「……判ってますわ……」
サフィーラは周りの来賓に断り、2人について来るように言って、歩き出した。
足を止めたのは国王夫妻の前。2人に向かってカーテシーをすると、ルーファスも礼を取った。が、アンドリューたちはポカンとしていた。
「楽にしなさい。……ランドルーズ嬢、どうかしたのか?そちらは新しい婚約者か」
「ルーファス・ラディ・シードルートでございます」
「うむ。シードルート王国の第2王子だったな」
「はい。前々からサフィーラ嬢に求婚していたのですが、幸運にも」
「何だとっ⁉︎」
話に割り込み、アンドリューがルーファスの胸倉を掴もうとする。
ここぞとばかりに悲鳴をあげようとしたマイナと、アンドリューは即座に近衛騎士に取り押さえられた。
「他国の王族に何をする」
「しかし、父上!サフィは、サフィこそが浮気をしていたのではありませんか!!」
「しておりません」
「何をっっ!!」
「声を抑えてくださいませ。……こうなるのが嫌だから、わざわざ陛下の御前に参ったのですわ」
今、6人の周囲は近衛騎士に囲まれ、あまり見えなくなっている。声さえ抑えれば、何を話しているか、判らないだろう。
「……気を遣わせてすまぬな。やはり、こやつらは来賓の前に出すのではなかった……しかし、このような場も最後だと思い、つい、な」
ついではありませんわ……と言いたかったが、さすがに国王に突っ込む訳にはいかず、サフィーラは顔の前に扇を広げた。
「求婚はされておりましたが、受けてはおりません。他国の王族に対して書簡を出すな、などとは言えないのですから、それで浮気していた、と言われましても……」
「フィラと会ったのも2回だけだしね」
「ええ」
「それに、完全に浮気していた男に言われたくないと思うよ、フィラも」
ぐっ、と詰まったアンドリューは、それで何故サフィーラの元に行ったのか思い出した。
「あ、いや、サフィ。マイナが妙なことを言ったらしいな。すまなかった」
「婚約者ではないのですから、略称で呼ぶのはおやめください。……ドナート嬢のことなら、別に構いませんわ」
「しかし!それで婚約を解消したのなら、さぞかし傷ついたのだろう……?」
妙に甘い笑みを浮かべ、アンドリューがサフィーラに手を伸ばす。触れそうになる前に、ルーファスが位置を入れ替えた。
「いえ、全く。……殿下は、何故わたくしたちが婚約したか、判っておいでですの?」
「それは!互いに愛し合って」
「わたくしの家が、入婿を探していたからですわ」
「はあ⁉︎何を言っている!父上が、俺の意志を汲んでくださったのだろう⁉︎」
「……はあ」
溜息を吐いたのは、王妃だった。
「本当に、お前は何も判ってないのね」
王妃も顔の前に扇を翳しているが、その目は鋭く息子を睨みつけていた。
「王侯貴族の婚姻が、恋愛でどうにかなる訳がないでしょう!お前がランドルーズ嬢に出会ったのも、わたくしが主催したお茶会じゃないの」
そのお茶会には、双子の王子が、それ程苦労せずに暮らしていけるだろう縁談の相手が、集められていた。
高位貴族の次女や三女──婚姻時に継ぐ空爵位がある──や、婿入り希望の一人娘。
その中で1番身分が高く、裕福で、自国内の令嬢であるサフィーラを、アンドリューが見染めたのである。
見染めた、と言うよりはむしろ、騒ぎ立てた、とか、がなり立てた、の方が近かったが。
「こちらが無理やり頼み込んだ婚約だと言うのに、この体たらく。……本当に、大変な目に合わせてしまいましたわ、ランドルーズ嬢」
「いえ、お気になさらず。……もう済んだことですし、新しい婚約も結びましたし」
「何も済んでいない!!マイナが言わなければ、婚約を破棄してなかったんだろう⁉︎だったら、もうマイナのことはいい、なんなら、側妃にすれば……!」
今まで掴んでいたマイナの手を突き飛ばすように離し、アンドリューが迫って来る。が、間にルーファスが入った。
「まだ勘違いは治らないようだね。……何処の世界に、入婿に側妃を許す家があるんだ?」
「何を言ってる⁉︎俺は王子だぞ!!」
「王子、ねえ……」
チラリ、とルーファスがネディラ国王に視線を動かすと、心得たように、国王は口を開いた。
「そなたの王族籍は、学校を卒業したと同時に抹消される。ランドルーズ嬢と婚姻しないのなら、居場所はないゆえな」
「はあ⁉︎」
「勿論、貴族でもない。その娘と婚姻したとて、貴族にはなれんからな。……まあ、まだ半年程はあるし、婿入り先を探すなり、就職先を探すなり、好きにせよ」
「ちょっと!!どういうことよ!!あたしはアンディと結婚して、王子妃になるのよ!!」
マイナが喚くと、つられたようにアンドリューも喚き出した。
「何を言ってるんだ!!俺はサフィと結婚して侯爵になるんだ!!」
「無理ですわ」
サフィーラは、アンドリューの嫌いな美しい社交用の笑みを浮かべた。
「わたくし、もう婚約しておりますの」
「行こうか、フィラ。……陛下、御前を失礼いたします」
「ごきげんよう」
2人は美しく礼を取ると、その場を離れた。近衛騎士が、一斉に道を開ける。
「ね、きみの愛称って、フィラだよね?」
「ええ。サフィは略称でしょうか」
「1人違う名前を呼んでいるのは、妬けるな」
「そうですか?……他の愛称を付けます?フィラは、家族も呼びますし」
「じゃあ……フィーって呼んでいい?」
「ええ、構いませんわ」
婚約者のエスコートをしながら、ルーファスは笑いを噛み殺した。
ほんと、バカだよな。私よりよっぽど、条件が良かったのに。私なんて、何度も断られたんだぞ。
貼りつけた笑みが嫌いって……貴族令嬢が嫌いってことだよな。じゃあ、ちょうどいいのか。平民になって、せいぜい幸せに暮らしてください──。
まあ、本人はその気、全くなかったみたいだけどね。
学校を卒業したアンドリューは、結局マイナと結婚しなかった。いや、出来なかった。王子でなくなるアンドリューに、マイナが興味をなくしたので。
1人市井に放り出されたアンドリューは、仕事もろくに出来ず、酒浸りになり、短い生涯を終えた。
107
お気に入りに追加
390
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
【完結】ドレスと一緒にそちらの方も差し上げましょう♪
山葵
恋愛
今日も私の屋敷に来たと思えば、衣装室に籠もって「これは君には幼すぎるね。」「こっちは、君には地味だ。」と私のドレスを物色している婚約者。
「こんなものかな?じゃあこれらは僕が処分しておくから!それじゃあ僕は忙しいから失礼する。」
人の屋敷に来て婚約者の私とお茶を飲む事なくドレスを持ち帰る婚約者ってどうなの!?
お姉様から婚約者を奪い取ってみたかったの♪そう言って妹は笑っているけれど笑っていられるのも今のうちです
山葵
恋愛
お父様から執務室に呼ばれた。
「ミシェル…ビルダー侯爵家からご子息の婚約者をミシェルからリシェルに換えたいと言ってきた」
「まぁそれは本当ですか?」
「すまないがミシェルではなくリシェルをビルダー侯爵家に嫁がせる」
「畏まりました」
部屋を出ると妹のリシェルが意地悪い笑顔をして待っていた。
「いつもチヤホヤされるお姉様から何かを奪ってみたかったの。だから婚約者のスタイン様を奪う事にしたのよ。スタイン様と結婚できなくて残念ね♪」
残念?いえいえスタイン様なんて熨斗付けてリシェルにあげるわ!
【完結】誕生日に花束を抱えた貴方が私にプレゼントしてくれたのは婚約解消届でした。
山葵
恋愛
誕生日パーティーの会場に現れた婚約者のレオナルド様は、大きな花束を抱えていた。
会場に居る人達は、レオナルド様が皆の前で婚約者であるカトリーヌにプレゼントするのだと思っていた。
【完結】今更そんな事を言われましても…
山葵
恋愛
「お願いだよ。婚約解消は無かった事にしてくれ!」
そんな事を言われましても、もう手続きは終わっていますし、私は貴方に未練など有りません。
寧ろ清々しておりますので、婚約解消の撤回は認められませんわ。
王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。
【完結】婚約破棄させた本当の黒幕は?
山葵
恋愛
「お前との婚約は破棄させて貰うっ!!」
「お義姉樣、ごめんなさい。ミアがいけないの…。お義姉様の婚約者と知りながらカイン様を好きになる気持ちが抑えられなくて…ごめんなさい。」
「そう、貴方達…」
「お義姉様は、どうか泣かないで下さい。激怒しているのも分かりますが、怒鳴らないで。こんな所で泣き喚けばお姉様の立場が悪くなりますよ?」
あぁわざわざパーティー会場で婚約破棄したのは、私の立場を貶める為だったのね。
悪いと言いながら、怯えた様に私の元婚約者に縋り付き、カインが見えない様に私を蔑み嘲笑う義妹。
本当に強かな悪女だ。
けれどね、私は貴女の期待通りにならないのよ♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです
ありがとうございます。嬉しいです。