冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

文字の大きさ
上 下
296 / 299

最後の戦い

しおりを挟む
液体となった黒い道をカイウスは突き進んでいく。
神との距離はそう遠いものではない。

カイウスが来た事によって、神はカイウスの方を見つめていた。
表情は塗りつぶされたように真っ黒な顔で分かりづらいが、何だか喜んでいるように感じた。

カイウスは静かに神に向かって剣を向けた。

俺には分からない二人の空気は重く苦しいものに感じた。

元々この黒く蠢いている触手はカイウスから出た力だ。
出たら戻る力が働くのか、カイウスに近付こうとしていた。
カイウスの邪魔はさせまいと、殴って蹴り上げて触手を倒していく。

「カイウス、これが最後だ…私のところに戻ってこい…不完全なこの世界の新しい神として作り直すんだ」

「この世界は確かに未熟だ、けど…この世界はここに生きている者達のものだ、神一人のものではない」

「……甘いな、人間に戻ってなにが出来る?神になれる力があるのに、何故神になる事を拒む?」

「俺は力よりも大切なものを持ってる、神である必要なんて何処にもない……それだけだ」

「そうか、ならば…」

なにかを口にする前に、カイウスの剣が神の体を貫いた。
地面にポタポタと黒い液体により、小さな水溜まりを作っていく。
カイウスの体にもたれかかるように腕にしがみついている。

それをカイウスは、なにかをするわけでもなく空を見上げていた。

俺の頬をなにか冷たいもので濡らして、それはやがて大粒の雨へと変わった。
ゴロゴロと雷が響き、真っ黒い液体は流された。

口から黒い血を吐き出した神は、カイウスの方を見つめていた。

その顔は、とても嬉しそうで口を開いた。

「お前、が…神に、ならぬの…なら、私は、新しい…神を…生み出すまでだ」

「ライム!」

カイウスの言葉に触手への攻撃を止めて、カイウスの方を見た。
カイウスは神から離れて、再び剣を構えた。

カイウスという支えがなくなった神は地面に座り込んで、肩を震わせながら笑っていた。
その笑いは狂気じみていて、嫌な予感がした。

神の体は笑い声を残して、黒い液体となり溶けて消えてしまった。
それと同時に触手も力が抜けたように次々と液体に変わった。
俺とカイウスの足元が真っ黒に染まっていく。

急いでカイウスのところに近付いて、俺も警戒する。

これで終わりならいいけど、そんな簡単なものではない。

足元がになにか触れた気がして足元を見ようと下に視線を向けようとした。
その前にカイウスに腰を掴まれて、体が浮いた。

その瞬間、黒い液体は上に向かって伸びていき間一髪当たらずに済んだ。

屋敷の二階のバルコニーに降りて、カイウスに支えてもらった。

「カイウス、ありがとう」

「安心するのはまだ早い、結界を強める」

そう言ったカイウスは剣を突き刺して、目蓋を閉じた。
カイウスの力が流れてくるのが肌に感じる。

安心する力強い力が、俺だけではなく広範囲に広がっていく。
黒い液体は止まる事を知らずに上に伸び続けていて、空までも真っ黒に染めていく。

雨がやがて黒い雨へと変わっていき、草や木の生命を奪っていく。

この雨に触れたら、普通の生き物はすぐに耐えられなくなる。
でも、今までは実体があったから戦えたのにどうすればいいんだ?

結界は国全体を覆うものになり、黒い雨を防いだ。
それでも雨は降り続けて、カイウスの力でも長くは持たない。

「ライム、君はここにいてくれ」

「カイウスは?」

「黒い力が空を染めたなら、俺も上に向かって力をぶつける」

カイウスは俺にここにいるように言った。

今まで以上の力を放出するから近くにいたら危ないからと、カイウスは一人でバルコニーから降りた。
こればかりは何の役にも立てない、悔しいけど仕方ない。

俺はただ、カイウスが勝てるように祈るだけだ。
俺の歌う力、カイウスが力をくれたからまた出来るだろうか。

この屋敷にはまだ残されている人達がいる。

せめて、その人達を守りたい…その気持ちを歌に込めた。

カイウスは剣を高く上げて、剣先に集中して力を込める。
今まで見た事がないほどの眩い光がカイウスの剣に集まっていく。

その力は大きな線を描いて空に向かって伸びていた。
星も見えない真っ黒な空に小さな穴が開いた。

その穴はやがて大きく広がっていき、強い風となり手すりにしがみついた。
手を離したらすぐに持っていかれてしまう。
結界をしていても、そう感じるなら結界がなかったらどうなっていたのか。

風はすぐに止んで、眩しい光に目を細めた。

カイウスの光ではなく、太陽の光だと分かるには少し時間が掛かった。

真っ黒な空は今では綺麗な青空が輝いていた。

「お、終わった…のか?」

カイウスの方を見ると、力の反動でなのか地面が抉れていた。
その中心にカイウスが倒れていて、慌ててバルコニーから降りた。

ちょっと足が痺れたけど、そんな事を気にしていられずカイウスのところに駆け寄った。

カイウスに呼びかけるが、反応がなくて血の気が引いた。
まさか、力を放出してカイウスの身になにかあったのかもしれない。

抱き起こして、呼吸を確認すると微かだが息をしていた。
大丈夫、まだ生きてる…でも早く病院に連れていかないと…

カイウスを抱えようとしたが、力が入らなかった。
俺の中のカイウスの力は消えてしまっていた。

ただの人間に戻った俺には、俺より身長が高いカイウスを抱き抱える事は無理だった。
離れるのは嫌だったが、誰かを呼びに行こうと立ち上がった。
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...