冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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勝てない相手

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「ローズ、ローズ…」

「…っ」

ローズと戦って、不思議な歌の力で元の姿に戻す事が出来た。
でも、この力が何なのかいまいち分からないし副作用がないとも限らない。

ローズを元の姿に戻す可能性はこれしかなかったから使ったけど、なにかが変わってしまっているんじゃないかって不安な気持ちだった。

見た目は変わらない、戦いの傷がなかったかのようだ。
それでもローズが口を開くまでは油断ならない。

俺の体は少しずつ回復していて、動けるほどだ。

ローズは神に何を言われたのかは分からないけど、罪は償わないといけない。
カイウスの事を想うなら、ちゃんと裁かれてほしい。

裁く権利も許す権利も俺にはない。

ローズは小さな声を出して、ゆっくりと上半身を起き上がらせた。
元に戻ったばかりだからか、フラフラと体を揺らしていて背中を押して支える。

「……」

「ローズ、大丈夫…ではないか」

ローズは虚な瞳で俺を見ていて、緊張する。
また、攻撃してくるかもしれないからローズの腕を掴んだ。

少しの沈黙が俺にとっては長いものに感じた。

ゆっくりと口を開くローズをジッと待つ事しか出来ない。

ローズから発せられた言葉は、想像していたものではなかった。
ローズは不思議そうな顔で俺を眺めていた。

「…誰?」と口にしたローズは、冗談を言っているようには見えなかった。
そんな冗談を嫌いな人に言うような人ではない事くらい分かる。

「俺が分からないの?ライム…ローベルトだよ」

「ライム、ローベルト…?誰ですか?」

ローズは首を傾げていて、俺は他の言葉が出なかった。
思い出すような事もなく、初めて聞いた名前のように口にしていた。

まさか、記憶がなくなる力だったなんて思わなかった。
それとも、俺がローズを殴った衝撃で記憶がなくなったのかもしれない。
原因は分からないが、ローズが記憶喪失という事だけは事実だ。

どうしようかと思っていたら、地面が大きく揺れてローズに覆いかぶさるように倒れた。

早くカイウスを探しに行かないと…でも、記憶喪失のローズを放っておけない。
安全な場所に移動させたいが、俺が連れて行くと安全な場所ではなくなる。

どうしようかと上を見上げて考えていたら、なにかが空に浮かんでいた。
それが何なのか気付く前に、それがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。

ローズを抱えて、なにかはその場から離れると大きな音を立てて落ちてきた。

それを見た瞬間、恐怖でその場から動けなくなった。

飛んできた鎧の男は、ピクリとも動く事がなかった。
普通の兵士とは違う鎧はジークのものだ。

びっくりしたけど、この場から離れなくてはいけないと動こうとしたら、ジークの体は灰になった。
風によって、灰は流されていき…そこには鎧だけになった。

「なんだ、まだ殺していなかったのか」

その声には聞き覚えがあり、声のした方を見た。

そこには、会いたい人と会いたくない奴がいた。
俺の横にいたローズは、小さな声で「カイ…様」と呟いた。

ローズはカイウスの事は覚えているのか、なら忘れたのは俺だけ?

今はそんな事を考えている暇はない、この場をどうするか考えよう。

神とカイウス、二人を相手にするのは無理だ。
カイウスを助けたくても、必ず神が邪魔をする。

それに、ローズを放っておけばローズも巻き込まれて死んでしまう。

「やはり人間か、使えないな」

「……ローズに何を…まさかまた」

「使えない人間を始末するだけだ、お前もそこにいれば巻き込んで殺せるけど」

神はそう笑って言っていて、手のひらに真っ黒い力を集めていた。
ローズを抱えて、その場から逃げるしかなくて何処までいけるか分からないが走った。

足元が大きく揺れて、ローズと一緒に転けた。
ローズは受け身をとったのか、無事だった。

足元を見ると、すぐ近くの地面が大きく抉れていた。
一秒遅かったら、俺の足はなくなっていたかもしれない。

突然腕を掴まれて、驚いて腕を振り払った。
もうすぐ近くまで来たのかと警戒しながら拳を握りしめた。

「おい、大丈夫か?」

「…ユリウス」

「屋敷の中の奴も全滅してるし、なにがあったんだ?」

ユリウスは周りを見渡しながら、俺に聞いてきた。

ユリウスがここにいるって事は、終わったのか…自分のやる事を…
いろいろと考えさせられる事だが、今はまず目の前の事に集中しないと…

ユリウスに「ローズを安全なところに連れて行って」とだけ伝えて、ローズをユリウスに渡した。
よく分かっていない様子だが、俺がユリウスの背中を押すとローズと一緒に走っていった。

後ろから押しつぶされそうなほど強い気配を感じて、後ろを振り返ろうとした。

その前に、神が俺に向かって力を放った。
軽く体が浮いて、地面に叩きつけられた。

口内を切ってしまい、鉄の味が口一杯に広がる。

手足に力を込めて、起き上がろとするとすかさず攻撃されて転がった。
まだ大丈夫だ、このくらいの力なら戦える。
俺を痛めつけて楽しんでいるのか、致命的な攻撃はない。

俺に近付いてくる足音から逃れるように立ち上がる。

「……変だな」

「………?」

「殺す気で攻撃したんだけどな」

神はそう呟いて、俺に向かって魔力を放とうとした。
避けようとしたら、俺の目の前に薄い壁のようなものが見えた。

神の力は薄い壁に当たり、防ぎきれなかった力が俺にぶつかってきた。

これは俺の力じゃない、もしかして指輪?
指輪を見ると、いつものように光ってはいなかった。

触れようとすると、薄い壁はなくなってしまった。
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