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その想いを貫いて
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俺の魔力とローズの魔力がぶつかり合った。
ビリビリと腕が痺れて感覚がなくなる。
それでも俺はローズを守る壁を壊すために力を使う。
押されても全部の体重を乗せて必死にしがみ付いた。
弾き飛ばされるわけにはいかない、俺は必ずローズを止める!
指輪がより輝き出して、俺の腕を包み込んだ。
もっとだ、結界を壊してローズにたどり着くために最大の力を拳に込める。
俺の拳が当たっている結界にヒビが少し入った。
そのヒビはだんだんと広がっていき、やがてガラスのように粉々に割れた。
すぐにローズの手が俺に向かって伸びてくる。
口からも電撃の球を吐き出そうとしている。
空中からは避ける事が出来ない、そのままローズに向かって魔力の拳を叩きつけた。
ローズの叫びを聞きながら、受け身が出来ずに地面に体を打ち付けた。
痛い、けど…大丈夫だ…まだ俺は生きている…動ける。
殴られたローズの体は吹き飛んで屋敷の壁にめり込んだ。
俺の拳がローズの電撃の球も押し込んだからか、自分に食らっていた。
俺は魔力無効の力があるからある程度は防げたけど、それがないとかなりの威力だったんだな。
ローズは全身黒焦げになって、ぐったりしていた。
近付いても反応がない、魔力を与えられたとしても人間だから不死身ではない。
せめて人に戻してあげたいけど、魔力で姿を歪まされたローズをどうやったら戻せるんだろう。
戦う以外で俺に出来る事、なにかなかっただろうか。
記憶を必死に思い出して、指輪に視線を向けた。
そういえば一度不思議な事があったのを思い出した。
ジークが街の騎士を殺した時、俺は自分に出来る精一杯の事で歌ったんだ。
なにか特別な事が起きるとは思っていなかった。
なのに、騎士は息を吹き返したんだ…確かに死んでいたのに…
俺の歌に力があるなら、やってみる価値がある。
歌で人を救う事が出来るなら、救いたい。
口を開いて、ローズに向けて歌った…ローズの中にある悪い魔力を丸ごと浄化する事が出来たら…
ローズが反応するまで歌い続けた、無駄なんて思いたくない。
しばらくすると、俺とローズを光が包み出した。
美しく暖かい光はだんだんと強くなっていく。
そして、ローズの気持ちも俺の中に入ってきた。
※ローズの話
カイ様、カイ様だけが私自身を見てくれていた。
エーデルハイド家の使用人であった両親に同じ歳の話し相手にと私が紹介された。
第一印象は、こんな美しい人がこの世にいるのかと驚いた。
目元を隠しているのは、カイ様が特別な力を持っているからだと両親に聞かされていた。
だから、怖いとは一ミリも感じなかった。
見ていないからなんだろうが、見た目で普通の人とは違うと分かる。
その時はメイドではなく、男友達としてカイ様にいろいろとお話させてもらった。
外に出る事がないカイ様は私の話を一つ一つ興味津々で聞いてくれた。
大した話ではないけど、こんな美しい人でも感情は普通の人と同じなんだと身近に感じて嬉しかった。
両親は生まれたばかりの妹ばかり可愛がっていて、家の中では蚊帳の外だった。
でも、カイ様という友達が出来たからだんだんと寂しさはなくなっていた。
でも、ある日私は母にカイ様に会いに行く事を止められた。
カイ様に今日、目元の布が外せると聞いていたから私の姿を見てもらおうと思っていた。
母は今まで見た事がないほどの恐ろしい顔をして止められた。
ここまで育ててくれた母に逆らう事はしなかった。
私はずっと、母の言いなりに何でもしてきた。
母に言われた通り、メイド服だって着た。
カイ様が成長すると、カイ様の周りにいろんな女性が集まって来ていた。
皆、あの魅力的な人の愛がほしいんだ…それは私の両親も同じだった。
妹をカイ様の婚約者にと、密かに考えていた。
でもまだ妹は赤ん坊で、大きくなるまで待っていたらカイ様が他の人に取られてしまうと考えた。
同じ兄妹である私が、妹の代わりをする事になった。
男らしくない顔だから、女装をしても違和感がなかった。
名前も変えて、私はカイ様の前で妹を演じようと思った。
なのにカイ様は、一言喋っただけで私に気付いてくれた。
私が私でいられるのは、カイ様の前だけだ。
正体がバレてしまったから、両親は私に何も期待しなくなった。
妹が大きくなったらカイ様にアプローチでもさせるつもりなのだろう。
妹は私の5歳下で、今はもう15歳になる。
エーデルハイド家のメイドとして既に働いている。
しかし、妹は私ほど信頼されていないからカイ様と直接話す事は出来ない。
カイ様に見つけられたあの時から、エーデルハイド家にずっと住み込みのメイドをしているから妹の顔も分からない。
贔屓をするつもりはないから、別に会わなくていい…相手も同じ事を思っているから私に声を掛けたりしない。
たとえ妹だとしても、カイ様に相応しい人間などいない。
私はカイ様に救われた、だから今度は私があらゆるものからカイ様をお守り致します。
そのために、傍にいるのに好都合なメイドという仕事を続けている。
私のこの命を捨てる事になっても、カイ様が生きていればそれでいい。
私が望んでいるのは、それだけだった…長く続くものだと思っていた。
だから許せなかった、私達の間に知らない人間が引き裂いていくのを…
いや、嫉妬していたのかもしれない…私が届かないものを持っている彼が…
カイ様の幸せを願っていたのに、私はいつの間にかあの方を母が私にしてきたような事をしようとしていた。
「……ローズ」
付き物が落ちたかのように姿が戻ったローズは静かに涙を流していた。
ビリビリと腕が痺れて感覚がなくなる。
それでも俺はローズを守る壁を壊すために力を使う。
押されても全部の体重を乗せて必死にしがみ付いた。
弾き飛ばされるわけにはいかない、俺は必ずローズを止める!
指輪がより輝き出して、俺の腕を包み込んだ。
もっとだ、結界を壊してローズにたどり着くために最大の力を拳に込める。
俺の拳が当たっている結界にヒビが少し入った。
そのヒビはだんだんと広がっていき、やがてガラスのように粉々に割れた。
すぐにローズの手が俺に向かって伸びてくる。
口からも電撃の球を吐き出そうとしている。
空中からは避ける事が出来ない、そのままローズに向かって魔力の拳を叩きつけた。
ローズの叫びを聞きながら、受け身が出来ずに地面に体を打ち付けた。
痛い、けど…大丈夫だ…まだ俺は生きている…動ける。
殴られたローズの体は吹き飛んで屋敷の壁にめり込んだ。
俺の拳がローズの電撃の球も押し込んだからか、自分に食らっていた。
俺は魔力無効の力があるからある程度は防げたけど、それがないとかなりの威力だったんだな。
ローズは全身黒焦げになって、ぐったりしていた。
近付いても反応がない、魔力を与えられたとしても人間だから不死身ではない。
せめて人に戻してあげたいけど、魔力で姿を歪まされたローズをどうやったら戻せるんだろう。
戦う以外で俺に出来る事、なにかなかっただろうか。
記憶を必死に思い出して、指輪に視線を向けた。
そういえば一度不思議な事があったのを思い出した。
ジークが街の騎士を殺した時、俺は自分に出来る精一杯の事で歌ったんだ。
なにか特別な事が起きるとは思っていなかった。
なのに、騎士は息を吹き返したんだ…確かに死んでいたのに…
俺の歌に力があるなら、やってみる価値がある。
歌で人を救う事が出来るなら、救いたい。
口を開いて、ローズに向けて歌った…ローズの中にある悪い魔力を丸ごと浄化する事が出来たら…
ローズが反応するまで歌い続けた、無駄なんて思いたくない。
しばらくすると、俺とローズを光が包み出した。
美しく暖かい光はだんだんと強くなっていく。
そして、ローズの気持ちも俺の中に入ってきた。
※ローズの話
カイ様、カイ様だけが私自身を見てくれていた。
エーデルハイド家の使用人であった両親に同じ歳の話し相手にと私が紹介された。
第一印象は、こんな美しい人がこの世にいるのかと驚いた。
目元を隠しているのは、カイ様が特別な力を持っているからだと両親に聞かされていた。
だから、怖いとは一ミリも感じなかった。
見ていないからなんだろうが、見た目で普通の人とは違うと分かる。
その時はメイドではなく、男友達としてカイ様にいろいろとお話させてもらった。
外に出る事がないカイ様は私の話を一つ一つ興味津々で聞いてくれた。
大した話ではないけど、こんな美しい人でも感情は普通の人と同じなんだと身近に感じて嬉しかった。
両親は生まれたばかりの妹ばかり可愛がっていて、家の中では蚊帳の外だった。
でも、カイ様という友達が出来たからだんだんと寂しさはなくなっていた。
でも、ある日私は母にカイ様に会いに行く事を止められた。
カイ様に今日、目元の布が外せると聞いていたから私の姿を見てもらおうと思っていた。
母は今まで見た事がないほどの恐ろしい顔をして止められた。
ここまで育ててくれた母に逆らう事はしなかった。
私はずっと、母の言いなりに何でもしてきた。
母に言われた通り、メイド服だって着た。
カイ様が成長すると、カイ様の周りにいろんな女性が集まって来ていた。
皆、あの魅力的な人の愛がほしいんだ…それは私の両親も同じだった。
妹をカイ様の婚約者にと、密かに考えていた。
でもまだ妹は赤ん坊で、大きくなるまで待っていたらカイ様が他の人に取られてしまうと考えた。
同じ兄妹である私が、妹の代わりをする事になった。
男らしくない顔だから、女装をしても違和感がなかった。
名前も変えて、私はカイ様の前で妹を演じようと思った。
なのにカイ様は、一言喋っただけで私に気付いてくれた。
私が私でいられるのは、カイ様の前だけだ。
正体がバレてしまったから、両親は私に何も期待しなくなった。
妹が大きくなったらカイ様にアプローチでもさせるつもりなのだろう。
妹は私の5歳下で、今はもう15歳になる。
エーデルハイド家のメイドとして既に働いている。
しかし、妹は私ほど信頼されていないからカイ様と直接話す事は出来ない。
カイ様に見つけられたあの時から、エーデルハイド家にずっと住み込みのメイドをしているから妹の顔も分からない。
贔屓をするつもりはないから、別に会わなくていい…相手も同じ事を思っているから私に声を掛けたりしない。
たとえ妹だとしても、カイ様に相応しい人間などいない。
私はカイ様に救われた、だから今度は私があらゆるものからカイ様をお守り致します。
そのために、傍にいるのに好都合なメイドという仕事を続けている。
私のこの命を捨てる事になっても、カイ様が生きていればそれでいい。
私が望んでいるのは、それだけだった…長く続くものだと思っていた。
だから許せなかった、私達の間に知らない人間が引き裂いていくのを…
いや、嫉妬していたのかもしれない…私が届かないものを持っている彼が…
カイ様の幸せを願っていたのに、私はいつの間にかあの方を母が私にしてきたような事をしようとしていた。
「……ローズ」
付き物が落ちたかのように姿が戻ったローズは静かに涙を流していた。
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