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与えられた力

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壁に手を付いて、支えながらゆっくりと歩き出した。

ビリビリと手が熱くて、痛い。

でも、カイウスのなんだって思うだけで気持ちは楽になる。
カイウスが傍にいてくれる、一緒に戦うんだ。

先ほどよりも少し足を早めて歩いていたら、天井からなにかが降ってきた。
小さな砂のようなものがパラパラと見えて、考えるより先に後ろに下がっていた。

その瞬間、大きな音と共に立っていられないほど激しい地震が起きた。
地震はすぐに止まったが、天井が壊されてなにかが降りてきた。
砂煙が凄くて、咳をしながらも目の前から目を離さなかった。

俺が一人になる瞬間を見計って神が襲撃してきたんだと思った。

警戒しながら砂煙が消えるまで、何も出来なかった。
すると砂埃から俺の方に目掛けて、なにかが飛んできて転がるように避けた。

さっきまで俺がいた方を見ると、数本のナイフが床に突き刺さっていた。

砂埃は一瞬にして消えて、天井から降りてきた人物は俺に姿を見せた。

「…なんで、ここに…」

俺の前にいるのはローズで、俺を冷ややかな瞳で睨みつけていた。

ローズが屋敷にいたのはハイドレイから聞いて知っていた。
そして、ローズもカイウス同様にローベルト卿に捕まったんだって思っていた。

でも今ローズはここにいる、全身の黒い服を着ている。
いつものメイドの格好ではないから少し違和感だった。

神と戦うからといって、ローベルト家の人間が捕まえた人達を解放するとは思えない。

自力で出たのか?でも、ハイドレイはローズがメイドの格好をしているのを見ていた筈だ。
着替えたのか、よく分からないが…これだけは分かる。

ローズは俺に対して憎悪を抱いて殺すつもりなんだ。

「そこを退いてくれ、急がないといけないんだ」

「カイ様の敵は私の敵、カイ様のためにお前を殺す」

全く話を聞いていない、カイウスのためならカイウスがこのままでもローズはいいのか?

ローズは懐からナイフを数本取り出して、俺に向かって投げつけた。
避けると、腕に熱を持った痛みが走り腕を見た。
服が破けて、血が滲んでいる…さっきのナイフは全て避けた筈だ。

他に人がいるのかと思って、周りを見渡した。

俺の横の壁に刺さったナイフがあり、このナイフに腕を傷付けられたのが分かる。
そのナイフはカタカタと、まるで生きているかのように動いて刺さっていた壁から抜けた。

浮いているナイフは、ローズが投げた分生き物のように俺に襲い掛かってきた。

腰を低くして避けて、ジャンプしたり体を捻らせたりした。
それでもナイフは壁から抜けて、また俺に向かってくる。

これは魔力か…だとしたらローズも薬を飲んだのか?

なんで、どうして…カイウスはそんな事望んでいなかったのに…

ローズは顔色一つ変えず、新たなナイフを持っていた。
体力が削られているのは俺だけだ、このまま避けていても仕方ない。

カイウスの力がどのくらい使えるのか分からないが、リーズナから借りた力だ…今使わないでどうするんだ。

ローズが新しいナイフを投げてきて、俺は拳を握りしめてナイフに向かって殴りつけた。
ナイフを押し返すように力を込めると、カイウスの力と指輪が繋がったような気がした。

魔力でナイフが動くなら、同じ魔力で対抗するんだ!

俺の拳は、ナイフまで届く事はなかった。

ナイフに触れるタイミングが合わなくて、空気を殴るカタチになった。
俺の周りから強い突風が吹いて、俺に向かうナイフを弾き飛ばした。

これが、リーズナが与えてくれたカイウスの力?

加減が分からなくて、とにかく先に進みたいという気持ちが強すぎてやり過ぎてしまった。
やった本人である俺が一番怖いと感じた。

突風は周りのドアも窓も吹き飛ばしていて、廊下はガラスの破片が散乱していた。
また何処からかナイフが来るのかと思っていたが、何処にもそれらしいものはない。

窓やドアとは違い、ナイフは生きているみたいだし何処からか飛んできても不思議ではない。

とりあえず今は目の前のローズに警戒しておこうとローズの方を見た。

服が黒いから分かりづらいが、破れている服からして無傷ではないみたいだ。

破片が当たったのか、息を乱してフラフラと体を動かしていた。

「まだ、終わるわけには…」

「もうやめよう、カイウスだって望んでないよ…こんな事…」

「あの方を知ったような口を利くな!」

ローズがそう叫んで俺に向かって走ってきた。
手にはナイフを握っていて、投げるのは無駄だと分かったのか突撃してきた。

なんでそんな無茶な戦い方をするんだ…自分が死んでもそれでいいのか?

ローズのナイフを避けて、後ろに下がると走り出した。
俺はローズを殺したくない、それは俺がする事じゃない。

ちゃんと国でローズをどうするか判断してもらった方がいい。
俺一人が決められるような事ではないと思っている。

後ろからローズの足音らしきものが聞こえる。
神を足止めするのに、ローズまで相手にするのは厄介だから、何処かで撒ければ…
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