上 下
265 / 299

少しだけ縮む距離

しおりを挟む
カイウスは今、死を覚悟している事を話した。
ユリウスはカイウスの家族なんだから、カイウスの事を知ってほしかった。

「…アイツが、死ぬ?そんなわけあるか、アイツを誰が殺すって言うんだ」

「カイウスだよ」

「は?何言ってんだよ」

「カイウスは貴方が言っている特別な力に殺されてしまう」

「……」

「本当に力があるのが幸せなのか?貴方だって薬を大量に飲んだ人間がどうなるか知ってるだろ」

薬の中にある魔力を大量に摂取した人間は力に耐えられず死んでしまう。
カイウスの今の状態が、それに近いんだ。

普通の人とカイウスが違う部分は、魔力を受け入れる器が体内にあるかどうかだ。
今のカイウスは器を壊されて、魔力に耐えられなくなっている。
カイウスの中に眠る人格が、カイウスが死んだ後乗っ取ろうとしている。

人格は全て同じカイウスだと思っているが、誰一人として消えてはいけないんだ。
全部同じカイウスなんだ、消えていい人格なんてない。

ユリウスにカイウスの器の話をしても、いきなりそう言われて信じてはくれなかった。
カイウスにとってユリウスに知られたくない事だったのかもしれない。

でも、このままお互い憎しみ合ってほしくなかった。
目指すべき敵は似たようなものだ、ユリウスを見ていて改心すればまだ間に合う気がした。
ユリウスを利用した俺が言えた事ではないが、俺はユリウスと共にカイウスを助けたい。
俺一人じゃ出来ない事でも、皆で力を合わせれば…たとえ神が相手でも平気だ。

ゲームだって、ユリウスは改心出来た。
マリーとの恋を知って変われた、だったら俺は別の方法でユリウスを改心させる。

「俺もずっと悪魔の子だって忌み嫌われていた、でもたった一人でも俺を見てくれて俺を助けてくれた人がいた、だから幸せだよ」

「…たった一人」

「皆に愛されなくてもいいじゃん、自分を大切にしてくれる人がいるだけで幸せだよ」

ユリウスにはそういう人はいないの?

ずっと誰かを恨み続けていたから、周りが見えていなかったんじゃないのか?
周りを見たらもしかしたら、ユリウスを想ってくれている人が案外近くにいるかもしれないよ。

それまで俺が、ユリウスを支えるよ。

いらないって振り払われても、これ以上ユリウスを悪に染めたりしない。

俺がゲームのように悪役にならなかったのはカイウスのおかげなんだ、未来は誰にだって変えられる。

「貴方がカイウスより上にならなくても、必要としている人はいるよ」

「……は、ローベルト卿の事か?アイツは俺じゃなくて俺の肩書きにしか興味なんてないだろ」

「俺は貴方を必要としてるよ……言い方はアレだけど、利用もしちゃったけど」

「あ?」

「俺の事を知りたくて、貴方に聞いてもらったのはごめんなさい」

「………変だとは思ったがやっぱりな」

ユリウスはそう言ったが、さっきのように本気で怒ってはいなかった。
利用されっぱなしではなく、俺もローベルト卿の事を聞いたからその事を許してくれた。

今のユリウスもなにか思う事があるから、何でも怒りっぽくはなくなっていた。
利用してしまったが、今は協力したいと思っている。
嫌なら無理強いはしない、決めるのはユリウスだから。

ユリウスに手を差し伸ばしたら、その手をジッと見つめていた。

「俺はカイウスを助けたい、そのために貴方…ユリウス様に協力してほしいんだ」

「カイウス?ふざけるな、そんなもの協力するわけないだろ!」

「…そっか、分かった…諦めるよ」

ユリウスの手が必要だったけど、嫌なら他の手を考えるよ。
しつこくユリウスにお願いしても、ユリウスの性格からして押しに負ける事はなさそうだ。

それに、ユリウスが長年恨んでいたユリウスを助けるって話だ。
ユリウスが決めないといけない事だから。

話は終わりだと言いたげに、壁に寄りかかっていた。
呆然とユリウスを見ると、嫌そうな顔をしていた。

「何だよ、さっさと掃除して終わらせろ」

「工房、貸してくれるの?」

「一度いいって言ったから今更ダメなんてそんな小さい事言うかよ」

てっきり貸してくれないのかと思っていた。
ユリウスに「ありがとう」って言うと「お前の仲間にならないって言ってんのに、何お礼言ってんだよ」と呆れられてしまった。

それとこれは違うと思うよ、貸してくれるんだからお礼は言うよ。

掃除を終わらせて、早速作業をしようと思っていたら地下の階段を降りる足音が聞こえた。
階段の方を見たら、ユリウスが降りてきた。
掃除に夢中になっていたからユリウスが地下からいなくなっていた事に今気付いた。

トレイに料理を乗せていて、テーブルに置いた。
俺に濡れた温かいタオルを渡してきた。

「ちゃんと拭いてから食えよ」

「いいの?」

「勘違いするな、俺からじゃなくてあのメイドがさっきのお礼に持って行けってうるさいからな」

「ありがとう、マリーにもお礼を伝えて下さい」

「自分で言え、こんな事をするのはこれっきりだ」
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...