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潜入準備

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「ハイドレイ、俺…何度かあの人達に狙われた事があるんだ」

「じゃあ探してたのってライムの事なのか?」

「うん、でも…なんでローベルト卿が俺を隠すのか分からない」

ハイドレイには俺の話を知り合いに聞いた時から俺がローベルト卿の息子だって知っている。
でも、何故かまでは知らないみたいだった。

さすがに一般兵士にそこまでは聞いたりしないよな。
ローベルト卿の部屋の会話を聞きたいが、盗聴器なんて便利なものはない。
それにドアに張りつこうものなら、ドアの前にいる兵士に追い返される。

あそこの部屋に隣の部屋はない、だとすると残る方法は一つだけ。

俺が屋敷を出ると、ハイドレイが付いて来た。
我慢出来なかったのか、お弁当箱に入っている料理を食べていた。

庭に出て、頭の中で屋敷の内装を思い出し壁に目を向けながら進む。
確か奥の部屋だから、ここの窓からローベルト卿の部屋に行ける。
窓にたどり着くには、壁を張って行かなくてはいけない。
二階だし足場がないから、一度手が滑ると大怪我をする。

それに庭には巡回の兵士が何人かいるから、誰かがいたらすぐに気付かれる。
だから聞き耳を立てようとするスパイはいないだろう。

カイウスみたいに風で飛べたらいいんだけどな。
巡回の兵士が来たから、一度その場から離れた。

イヤーカフの糸も引っ掛けられるところがないからどうしたものか。

「ライムはあそこの上に登りたいのか?」

「うん、あそこがローベルト卿の部屋だからね…なにか聞けるかもしれないと思って」

「でもここは見張りが多いよな」

ハイドレイも気付いたのか、どうしようかと考える。
思いついたのか、軽く手を叩いてキラキラしたような顔で俺を見ていた。

ハイドレイも一応兵士としてここにいる。
だから巡回の担当になれば、俺を見逃す事も出来ると思っている。

確かにそうだけど、それは誰もが最初に思い付く事だ。
そしてそれはローベルト卿だって例外ではない。

兵士の巡回は複数人だ、一人が裏切り者でも他の人に見つかったら終わりだ。
だからハイドレイの作戦は残念ながら使えない。

他の方法を考えないとな、夜中も考えたが大事な問題がある。
そもそも夜中に壁に張り付いてても、ローベルト卿は寝てるだろ。
秘密の会話が聞きたいのに、それじゃあ意味がない。

ローベルト卿の部屋に忍び込む事なら出来るかもしれない。
かなり危険だけど、それしかないな…窓が開く状態ではないからそれの準備も合わせてやらなければ…

一応ハイドレイにも説明した、真夜中だからハイドレイは協力出来ないが知ってもらった方がいいと思い、話した。

「俺にもなにか出来る事はないか?」

「ハイドレイにはいろいろしてもらったから、これは俺一人でやるよ」

「一人で大丈夫なのか?」

「うん、ありがとう」

一日だけ、カイウスに会えないけど…すぐに行動した方がいい。
ジークは今日、ローベルト卿に報告をしている筈だ。
なにか今後の作戦とかを話し合うのかもしれない。

それに、ハイドレイが明日なにかあるのか聞いたら薬の配給日らしい。
このチャンスを逃すわけにはいかないんだ。

ハイドレイは騎士の仕事に戻り、俺は屋敷に戻った。
ちょうど俺の部屋から出てくるジークを見つけて、俺を探しているんだと分かった。

まだ婚約者の気分なんだろうか、そんなのは婚約者でも何でもないのに…

ジークが探し回るから、いなくなるまで近くの部屋に入った。
せっかくローベルト卿の部屋に忍び込むつもりなのに、怪我でもしたら失敗に繋がる。

何処の部屋かは分からないが、鍵が開いていない部屋に入った。
灯りを壁に触れながら探していたら、なにかが指先に触れた。
ランタンのようなカタチだけど、火は今持っていない。

仕方ない、イヤーカフを外して糸を出そうとして手を止めた。
そうだ、このまま触れたら指が切れるところだった。
改めて危険だなぁ、と思いつつ服を引っ張り糸を出した。

糸から電流が流れて、その部屋を照らした。
そこは、ガラクタの倉庫のようで整理されずに放置されていた。

電流でランタンに火をつけようと思ったが、長らく使われていなかったからか埃が凄く被っていて危ないから止めた。

周りを見渡して、適当に手にしてみた…武器にもなりそうにないものばかりだ。
錆びていて折れたクワとかなんでこんなところにあるんだ?
クワを眺めていて、使えるかも…と考えた。

もしかしたらここはガラクタではなく、宝の山なのかもしれない。
他にもないかな、と探して…布袋を掴んだ。
そこに穴が開いているから何も入れる事が出来ない。
でも、俺には他の使い道が見える…他も探してみる。

とりあえず、折れたクワと穴が開いた数枚の布袋とガラス瓶を貰った。

ここは糸の電流では暗すぎてよく見えない。
部屋がいいけどまだジークはいるのかもしれない。

婚約者って関係になるくらいなら、敵同士の方がマシだったな。
倉庫の前に誰もいないか耳をすませて足音を確認する。

ランタンの劣化具合から、ここ最近は誰も近付いていない事が分かる。
だから俺を探しているジークですらここにいるとは思わないだろう…そうであってほしい。

ゆっくりとドアを開けて、顔だけ出して確認する。
うん、誰もいないな…今のうちに部屋に戻ろう。

部屋に戻りさえすれば、ジークだって同じ場所はすぐには調べないだろう。
ジークは外にでも行ったのかな、エントランスには居なかった。
二階の廊下にもいない、今がチャンスだと思って思い直した。
さっきは部屋は安全だと思ったが、俺の部屋で待ち伏せしているかもしれない。

何処にジークがいても不思議ではない、ジークが何処にいるのか考えるだけで疲れる。
何処にいても可笑しくないから余計にな。、

部屋に戻るのは止めて、食堂に向かう事にした。
お昼過ぎだから、そんなに人はいなかった。
食べに来たわけじゃないからいいけどね。

ウェイターさんにテーブルを借りますと一言言って、一番目立たない奥のテーブルに向かった。
またウェイターに変な顔をされてしまった。
そりゃあ毎回来る理由が食べに来たわけじゃないから当然か。

テーブルは食事をするところだから机の下で作業する。

折れたクワでガラス瓶に傷を作って、布服で包んでクワの持ち手の部分で叩くとガラス瓶が割れた。
布袋を開くと、二つに割れたガラスが出来上がった。
綺麗ではないが、錆びたクワなら当然だよな…まぁ俺は歪なガラスの断片が欲しかったからいいけど…
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