冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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知ってる事知らない事

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膝に置いているお弁当箱を見ているから、表情は見えないが声は元気がなさそうに感じた。
俺の幻聴かもしれないけど…待っていてくれてたらカイウスには悪いけど、嬉しい。

お弁当作ってて遅れた事を話して、内心今度は早めにお弁当を作ろうと決意した。

お弁当箱を開けると、色鮮やかな料理が出てきた。
小さな声で「メシアは人間の食べ物は毒だと言っていた」と呟いた。
やっぱり、メシアが食べさせるわけないよな。

じゃあ精霊の食べ物って何?まさか、食べなくてもいいから食べさせないのか?

カイウスだって食べる楽しみを知っている、俺と一緒に食べる時間を大切にしてくれている。
彼はカイウスだから、食べる楽しみを理解出来る筈だ。

フォークの握り方を押して、手にして料理に差し込んだ。
柔らかい部位のお肉だから、簡単に刺さりにおいを嗅いでいた。

食べられるか分からないんだよな、俺がお手本を見せようとお弁当箱の端に詰めた小さいおにぎりを一つ取った。
お肉の方が安心させるにはいいんだけど、フォークがないと食べるのに抵抗がある。
さすがに今のカイウスとフォークを共有するのはカイウスに悪い。

俺の姿を見て、一口食べてもぐもぐと口を動かしていた。

「…どう、かな」

「初めて食べたのに、何故か懐かしい味がする」

カイウスは最初は警戒していたが、全部食べてくれた。
美味しいかどうかはよく分かっていないみたいだけど、食べられるなら良かった。

カイウスの食べているところをジッと見つめすぎていて、不思議そうに俺を見ていた。
すぐに目を逸らして、立ち上がって手で顔を仰いだ。

暑くないのに、真っ赤になる顔を隠すように「ここ暑いね!」と笑った。
むしろカイウスの魔力で寒いと思うのに、自分でも変な事を言ってるなと思う。
俺はカイウスの氷は寒いとは思わないけど。

「暑い?そうか?」

「あ、はは…俺だけかな」

カイウスの周りの氷がだんだんと広がっていき、冷気を感じた。
吐く息が白くなり、肌も寒さで鳥肌が立ってきた。

震える唇で「もう頭が冷えたから大丈夫だよ」と言うと、冷気はなくなった。

涼しくなったというより頭が冷静になってきた。

気を取り直して、今日は完璧に歌うんだ。
カイウスが気に入ってくれた歌に、俺の想いを乗せて…

口を開いて、歌を奏でると蝶と精霊が近付いてきた。
カイウスだけをまっすぐと見つめて、俺は歌い続ける。

一曲歌が終わり、二曲目を歌おうかと思っていたらカイウスに手招きされた。
初めての事で何だろうとカイウスの前までやって来た。
自分の横のソファーを軽く叩くから、なんだろうと座る。
次はカイウスの横で歌うのかな、そのくらいにしか思っていなかった。

カイウスの行動は俺が想像もしていなかったもので、驚いた。
俺の肩に触れて、そのままカイウスに引き寄せられた。
身長差があるからカイウスの胸元に顔を埋める格好になり、冷えたと思っていた顔がまた熱を持ちそうだ。

「か、かか…」

「冷やしすぎたか?震えてる」

「…ぁ、ぅ…」

「人間はすぐに死ぬ生き物だ、いくら体を傷付ける事が趣味でも加減をしないと死ぬぞ」

小さな声で、言葉にならない声しか出なかった。
それでも、見過ごせない事を言われた気がする。

体を傷付ける趣味って、最初にカイウスと会った時の事を言っているんだよな。
あれは違うって、俺はそんな趣味なんかない!

違うとちゃんと否定したくて、顔を上げると至近距離にいるカイウスと目が合った。
少し背伸びしたら、唇が触れ合うほど誓い。
心臓が、さっきよりもうるさくて…何も考えられなくなる。
目の前のカイウスの事で頭がいっぱいになる。

「あの日地下で初めて会った」

「……へ?あ、うん」

「なのに、何故かずっと前から知っていた気がする」

見つめ合いながら、カイウスは囁くように言った。
それは元のカイウスの記憶が残っているからか、このカイウスと一度会った事があるからなのか分からない。

どちらでも、カイウスの中に俺という存在が残っている。

自然と瞳を閉じる…カイウスはキスを知らない、今の俺との関係はまだ知り合い程度だ。
カイウスは俺が何をしているのか分からないんだろうけど、それでも俺の愛が溢れてくる。

カイウスがずっと膝に乗せていたお弁当箱が床に落ちた音がする。
俺の唇がなにか柔らかいものに触れ合った。
最初にしたのにまさか、と思って目を開けるとさっきよりも近い距離にカイウスがいた。

目を開けていて、瞳の距離がとても近い。
口の中にカイウスの舌が入ってきて、俺の舌に触れられる。
くちゅくちゅと響いて、逃げ腰になる俺の両頬を両手で押さえて、より深く口付けする。

キスの時の息の仕方も忘れてしまい、苦しくなる。
カイウスの服を掴む事しか出来ずにカイウスが与えるキスを受け入れる。

カイウスには悪いけど、知識は小さな子供だと思ってた。
だから日常的な事を教えようと思っていたのに、なんでこんな大人な知識を持ってるんだ!?

唇を離して、お互いの唇が唾液により濡れていた。

記憶が戻ったのかと思ったが、その考えはカイウスの言葉でなくなった。

「……君の名前は?」

「ら、ライム…」

「そうか、ライムか」

記憶が戻ったら、俺の名前を聞いたりしないよな。
残念だったが、記憶がないままならなんであんなキスをしたんだろう。

カイウスの知識はカイウスの近くにいる人から学んでいる。、
だとしたら、思い出すのは一人しかいない。

また取り乱しそうになり、深呼吸してカイウスの方を見た。
口を開くと、カイウスの顔がまた近付いてきた。

「待ってカイウス、聞きたい事が…んんっ!」

会話をしようと口を開いたら、カイウスに舌を入れられて会話にならない。
それどころか、頭の中も気持ちよくてボーッとしてしまい力が抜ける。
体がいつもみたいにピクピクと反応する。

キスだけで、イってしまいそうで…なんとか我慢する。

我慢してるのに、カイウスは俺の方に身を乗り出してソファーに押し倒された。
俺の足の間にいるカイウスはいろいろとヤバい。

押し倒されてもキスを止める気配はなく、密着しているから反応しているのが分かってしまう。
その知識は忘れている事を願うばかりだ。
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