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切なくて苦しくて

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「何をそんなに見ているんだ?」

「お、起きてたの?」

突然目を開けるからびっくりして、心臓が止まるかと思った。
カイウスの寝顔はいつも見ていた筈なのに、この髪色のカイウスは見慣れていないからか新鮮な気持ちになる。

ゆっくりと起き上がって俺に向かって首を傾げる。

素直に「カイウスが、綺麗だから…」と言うと変なものを見るような顔をしていた。

本当の事なんだけど、なにか変な事言ったかな。
呆れたため息も吐いていて、気持ち悪いと思われてしまったのかと不安になる。

「メシアみたいな事言うなよ」

「えっ!?寝顔見せたの!?」

「…なにか問題でもあるのか?」

ダメだ、このカイウスは警戒心がなさすぎる。

神がカイウスに恋愛感情を持ってなくても、なんかあの神からは嫌な感じがする。
カイウスはもうちょっと警戒心を持たないと今後何されるか分からない。
カイウスへの執着は俺でもヤバい事くらい分かる。

俺が守りたいのに、今の俺じゃ神の仲間と戦うので精一杯だ。
それでもカイウスに危機的状況を教えないと…

「俺がカイウスを守るんだ!」

「何から守るつもりだ?」

一人でそう誓っていたら、後ろにいるカイウスは不思議そうにしていた。
この場合の危険って、どう教えたらいいんだろう。

もしカイウスが襲われそうになっても一人で何とかしてしまう気がする。

いや、もしかして分かってないからされるがままかもしれない。
チラッとカイウスを見ると退屈そうに虹色の蝶を見つめていた。

今の俺とカイウスの関係って、芸人と見物人の関係だ……カイウスもただの見せ物に世話を焼かれたくないかもしれない。
カイウスが恋人だって知っているのは、俺だけだから…

「ところで、今日は歌わないのか?」

「あ、うん…そうだね」

カイウスの前で歌って、もっと人に興味を持ってもらうのが今の俺の役目。
それ以外は、カイウスにとって余計なお世話なんだろうな。

今日は精霊達が顔を出して来なかった。
どうしたんだろう、いつもと同じように歌っただけなのに。

カイウスも昨日と違い、あまりいい顔はしていなかった。

歌は体調や気持ちに左右されやすいもの。
今の俺はカイウスに集中出来ていなかった。
カイウスの身を守る事も大切だけど、今はカイウスに楽しんでもらう事を考えないと…

「それは、歌か?」

「ごめんなさい、今…気持ちを切り替えるから」

「今日はもういい、帰れ」

「…でも」

「それが歌だと言うなら、もう聞きたくはない」

はっきりカイウスに言われて、泣きそうになるのを堪えた。
カイウスに頭を下げて、小屋から出た。

カイウスの言っている事は当然だ、中途半端な歌を聞かせたのは俺だ…怒るのも無理はない。

屋敷に向かう道は遠くて、ぽろぽろと涙を流した。

もう、会えないかもしれない…やっと会えたのに自分で手放してしまった。
そんな自分に腹が立つ、カイウスといる時はカイウスの事だけを見ていなくてはいけなかったのに…

どんなに後悔しても、してしまった事には変わりはない。
屋敷に向かう途中の庭で、一人しゃがんでいた。

カイウスの前ではこんな情けない姿を見せられない。

『こんなところで何してんだ?』

「…っ、リーズナいたの!?」

『カイが心配で…』

「もしかして昨日も?」

『いいだろ別に!…そんな事よりなにかカイにあったのか?』

リーズナは俺に近付いてきたけど俺は今、酷い顔をしてるから誰にも見せたくない。
背中を見せて背中を丸めると、リーズナは呆れたため息を吐いていた。

リーズナに背中越しで話すのを謝ってから、心配しなくても大丈夫だと伝えた。
カイウスには何も起きてない、なにかあったのは俺自身の問題だ。

カイウスを楽しませる事が出来なかったのも、嫌われてしまったのも全部俺が悪い。
他の事に気を取られて、嫉妬しちゃった俺の心の狭さがダメにした。

今は恋人でも何でもないのに、カイウスも鬱陶しかったんだろう。
涙を袖で拭って、リーズナの方に振り返って笑った。

「本当に大丈夫だから、行こう!」

『そんな酷い顔されて大丈夫はねぇだろ』

リーズナに尻尾で顔を叩かれて、自分が思っているよりも酷い顔なんだなと反省した。
両手で顔を覆えば見えないな。

リーズナから顔を隠すと、また呆れられてしまった。
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