冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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二人の時間

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カイウスが歩くと、蕾だった花も一気に咲いていた。

神秘的な見た目と雰囲気で、本当に神様になってしまったんじゃないかと錯覚してしまう。

遠くに行ってしまう不安でカイウスに近付くと、俺の手首に触れた。
そのまま指輪を眺めて、触れていた。
持ち主は元々カイウスだから、カイウスは拒絶されなかった。

俺に指輪をくれた事も忘れているから、不思議そうだ。

「俺に似た力を感じる、人間じゃないのか?」

「…ただの人間だよ」

「そう、じゃあそろそろ本題に行こうか」

カイウスはすぐに指輪への興味がなくなったのか、俺から手を離した。

カイウスを楽しませる…どうするか、俺にはこれくらいしかない。
芸も何もない俺は、口を開いた。

歌を歌い、カイウスに想いを届けたいと思った。
歌っている途中で、何処に隠れていたのか…精霊が花の後ろから顔を出して、俺の周りをぐるぐると回っていた。

歌を止める事なく、最後まで歌い終わり深呼吸してカイウスの方を見た。

つまらないって言われたらどうしよう、他に出来る事なんて思いつかない。

「それは?」

「え?歌、だよ」

「うた……聞いた事がない、でも…悪くない」

カイウスにそう言われて嬉しかった。
もっと聞かせてほしいとカイウスにリクエストをもらい、歌を歌った。
カイウスのためならいくらでも歌うよ。

俺が唯一出来る事がカイウスに気に入ってもらえて良かった。

しばらく歌い続けて、カイウスは後ろを振り返った。
あそこは多分地下に続く入り口があるんだろうな。

「そろそろメシアが帰ってくるな、思ったより楽しめたよ…またおいで」

「カイウス、外に出れば俺以外に歌を歌っている人はいっぱいいるよ、聞いてみたくない?」

「引かれないな、君の歌で充分だから」

カイウスはそう言って奥に向かって歩いていった。

まだまだカイウスを連れ出す事が出来ないな。
外に出たくなる都合のいい歌はないものなのかな。

神が帰ってきたら、カイウスともう会えないようにされるから大人しく今日は帰ろう。
明日の約束をしたから、明日また行こう。

部屋に戻ってリーズナに報告しようと俺も小屋から出た。






次の日の真夜中、また俺は小屋にやって来ていた。

「カイウス?いる?」

名前を呼びながらドアを開けたが、小屋には誰もいなかった。
また遅れてくるのかな、と銀色の花を眺めながら待っていた。

少し待っても来る気配がなくて、だんだん不安になった。
なにかあったんじゃないのか?カイウスは大丈夫?

奥の個室に入るなとは言われていないが、何となく行くのをためらっていた。
地下に続く道になっているなら、なんとなくダメなのかと思っていた。
カイウスとの仲はせっかく普通にはなっているのに、嫌がる事はしたくなかった。

でも、カイウスになにかあったんなら助けたい。
個室の扉を開けて、中を覗き込んだ。

個室の中は休憩所のようで、小さな噴水が真ん中にあって豪華な装飾がされた大きなソファーがあった。
ソファーを囲むように銀色の花が集まっていた。
虹色の見た事がない蝶も噴水の近くを舞っていた。
一瞬蝶が精霊に見えたけど、精霊の一種だけど俺がいつも見ている人型の精霊とは違った。

ソファーで寝ている人が見えた。

起こさないように近付いて、寝顔を見つめた。
カイウスが寝ている、今日はお疲れだったのかな。
何をしてたのかは分からないけど、なにかあったわけじゃなくて良かった。

起こさないようにしようと、ソファーを背にして座った。

昨日は歌っている時間があっという間に感じたけど、今日はゆっくりと時間が進んでいるようだ。

蝶に向かって人差し指を向けると、軽く触れて飛んでいってしまった。
地下に続く扉があると思ったけど、なさそうだな。
それとも何処か隠し扉でもあるのかな。

後ろを振り返るとカイウスの寝顔が見える。
美しい彫刻のような完璧なカイウスはずっと見ていられる。



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