冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

真夜中の訪問

ローベルト卿の命令で何処かに行くんだろうけど、こんな大勢で何をするんだろう。
集団の先頭にいるのは、ジークのようだった。
昨日はしつこく追いかけてきたのに、今日は諦めが早いと思っていた。

俺が一発殴っただけで諦める男じゃない事くらい分かる。

なるほど、ローベルト卿に呼ばれて俺より優先したのか。
確かに昨日もローベルト卿に呼ばれていた。

やっぱりローベルト卿が婚約破棄してくれたら丸くおさまるのにな。
ジークを傍に置きたいだけなら、他の方法なんていくらでもあるだろ。
ローベルト卿に忠誠を誓っているんだから。

ジークが出かけたなら、ひとまずは安心だ。

ジーク達がいなくなり、屋敷の中に戻った。
俺は戦力外にされているのか、とりあえず今のところは何の呼び出しもない。
でも、ローベルト家に入ったからにはいつかは悪事を働かなくてはいけなくなる。

その前にカイウスをこの屋敷から出さないと…

焦っちゃダメだ、焦ると上手くいくものもいかなくなる。

とりあえず今はイヤーカフを直そう、危ない糸をリーズナが持ってきたけど護身用に中に入れておこう。
いろいろと万全に備えた方が、あらゆる事に対処出来るから。

部屋に戻ると、リーズナが置いて行った糸が入っている入れ物と手袋を掴んで椅子を引いた。

机の上にそれを並べて、耳に触れイヤーカフを取った。
丁寧に中に巻いてある短くなった糸を全て外した。

「今までありがとう」

糸を丁寧に束ねて机の上に置いた。

手袋をして、入れ物の蓋を開けた。
切れ味がいいとリーズナが言っていた糸を取り出してイヤーカフに巻き付ける。
前入っていた糸よりは硬い感じがして、確かに切れ味は凄そうだ。
光の反射で銀色に輝く糸を見つめて、今のカイウスの髪色みたいだなと思った。

全て巻き終わり、耳に付けると安心出来た。

このイヤーカフを使う時は、俺じゃどうしようもなくなった時だろうな。
人相手だと、指輪と俺の拳さえあれば勝てる。

カイウスがピンチになったら、俺は迷わない。
そして、その相手はきっと人間ではないだろうな。

窓から見える景色を見つめながら、遠くない未来…そうなるんだろうなと思っていた。

カイウスを縛り付けている神との戦いはすぐそこまで来ているんだ。






時刻は皆が寝静まった真夜中。

この日のために、仮眠をしたから準備万端だ。

今日はあれからジークは来なかったから半日平和に過ごす事が出来た。

そして今、小屋の前までやって来ている。
見た目では昼過ぎに見た小屋と何も変わっていない。
本来なら、ドアに触れようとしたら結界が侵入者を拒む筈だ。

無理さえしなければ、少し触れたくらいで腕が使い物にならなくなるほどの怪我はしない。
ちょっと痺れるだけだ、痺れるだけ…

そう言い聞かせても、腰が引けていて情けない格好で腕を伸ばして少しずつ近付く。

もう少し、もう少しで触れられる…後少しで…

痛みに耐える心の準備をしながら目蓋をギュッと閉じる。

手のひらがなにかに触れて、感触を確かめるように撫でてみる。
ゆっくりと目を開けると、いつの間にかドアにたどり着いていた。

カイウスの言っていた裏ってやっぱりここの事だったんだ。
ドアノブに触れて、ゆっくり開くと小屋の中に入った。
そこは、俺が想像していた場所ではなかった。

普通の部屋だと思っていたから、視界いっぱいに銀世界が広がるとは思っていなかった。

外の花はいろんな花が咲いていたのに、中の花は全て銀色だ。
床も雪が積もったかのようで、ここだけ別の世界のようだ。
これもカイウスの力の影響なのかな。

それに中が小屋と言っていいのか分からないほどに広い。
奥の方には透明なガラスで覆われた個室のようなところがある。
あの先に地下に続く扉があるのかな。

銀色に咲く花に触れてみると、俺の指輪が反応した。
どちらもカイウスの力だから、力同士惹かれるものがあるのかもしれない。

「面白いものを持っているんだな」

声のした方を見ると、少し先にカイウスが立っていた。