233 / 299
拒絶の痛み
しおりを挟む
この感覚、地下への扉を開けようとした時に似ている。
まさか、ここと地下が繋がってるのだろうか。
だとしたら、このドアを開けられたらきっと…
「何をしているのですか!」
「あ、ごめんなさい!」
花の世話をしていた使用人に見つかってしまい、すぐにその場を離れた。
ドアの前に立っていれば、当然といえば当然なんだけどね。
怪しまれたが、すぐに使用人は自分の仕事に戻った。
変な行動をしても、中には誰も入れないと使用人も分かっているからだろう。
仕方ない、使用人がいない夜に調べる事にして武器庫に向かおう。
俺も一応兵士だから武器庫を解放してくれるだろうかと、少しだけ期待して向かった。
当然のように武器庫の前には兵士が二人いた。
「あのー…武器庫の中を見せてくれませんか?」
「ローベルト卿の許可は?」
「……許可がないと、ダメですか?」
「許可を貰ってからお越しください」
普通に追い返されてしまった。
ローベルト卿の許可って、なんて言えばいいんだ?
糸があるか聞くのか?俺の糸は武器だから糸が短くなったと本当の事を言ったら、不自然な事は何もない。
武器庫の入り口は正面しかないし、聞いてみるか。
他に聞きたい事がいろいろあるし…昨日は通してくれなかったが、武器庫はローベルト卿に会う立派な理由だよな。
そう思ってローベルト卿の部屋に向かった。
兵士二人は当然のように俺に昨日と同じ言葉を口にしていた。
「武器庫に入りたいんです、通して下さい」
「入る理由は?」
「俺の武器が壊れたからです、通してもらえますか?」
兵士二人は目を見合わせていて、少し沈黙していた。
これなら立派な理由だと思っていたら、兵士は「今はローベルト卿は不在なので改めてお越しください」と言われた。
いないのか、兵士は勝手に武器庫の許可を出せないみたいでまた追い返された。
いないなら仕方ないな、少し経ったらまた来てみよう。
ローベルト卿の部屋から出て、屋敷の中を探索でもしようと歩いた。
なにかカイウスに近付ける方法があればいいんだけど…
結局、そんな場所が兵士に一般解放されているわけではなく、俺が入れるのは食堂と大浴場と庭くらいだった。
そんなところにカイウスはいないよな、と大浴場から出ようとして体を引っ込めた。
大浴場の扉を閉めて、ドアに背中をくっつけた。
びっくりした、心臓が早く動いていて緊張が全身に伝わってくる。
いるだろうとは思っていたが、こんな早く会うとは思わなかった。
いつでも出会う危険がある、呑気に屋敷探索も出来ないな。
常に何処かにいるように警戒しておかないといけない。
俺が見たのは神の分身である、目を隠している男だった。
本当に前が見えないのか分からないが、気付いてはなさそうでホッとした。
もしかしたら、目が見えない代わりに気配で見ているかもしれないと思っていたが、そのまま素通りしたみたいで良かった。
警戒しながら大浴場のドアを開いて周りを見渡す。
通る使用人達が不審な顔をしていたが、あの男がいないなら良かったと大浴場を出た。
地下の扉の前に立って、いろいろな感情が溢れてきた。
あの男は普通に人と一緒に暮らすわけがない。
だからきっとここから出てきたんだよな。
俺も行きたい、カイウスのところに…傍にいたい。
手を伸ばしても、弾かれてしまう…まるでカイウスに拒絶されているように感じる。
それでも諦めずに手を伸ばすと、結界の拒絶が強くなった。
これ以上すると、腕が壊れてしまうと分かり手を離した。
座り込んで、自分の手のひらを見つめた。
火傷のように赤くなっていて、血が滲んでいる。
こんな痛み、カイウスに会えるなら痛くもない。
手のひらに水が落ちて、痺れるような痛みを感じた。
これは水じゃなくて、俺の涙だ…こんな近くにいるのになんでカイウスの姿も見る事が許されないんだろう。
俺とカイウスの距離がどんどん離れていくようだ。
そんなの嫌だ、あと一回…もう一回試したい。
無駄だと分かっていても、もしかしたらという希望があるなら俺はその希望を信じたい。
もう一度扉に触れようとすると、肩まで鋭い痛みが走った。
「あぐっ!!」
「そこで何をしている!」
俺の声に気付いた兵士が駆け寄ってきた。
腕を押さえる俺を見つめていて、怒っているみたいだが、それどころではなかった。
兵士はなにかを掴んでいて、俺は嫌な汗が流れる。
男が掴んでいるものは、腕だった…しかも俺の….
可笑しい、なんで男に掴まれているのに触れられていると感じないんだ?
指を動かそうとしても、ピクリとも動かない。
兵士は俺の事など構わずに、腕を引っ張って扉から離そうとする。
痛みがないから感覚が分からなくて、腕を引きちぎられる怖さで兵士に合わせて立ち上がる。
離された腕はだらりとぶら下がっていた。
何をしていたのかとかいろいろ聞かれたが、俺自身がそれどころではなくなっていた。
下を向いて、動かない腕を見つめていた。
腕が使い物にならなくなっていて、どうしようかと考える。
医務室はあるけど、治せるだろうか…兵士の方を見ると、急に目が合ったから兵士は驚いていた。
「ちょっと好奇心で入ろうとして…」
「ここは許可なくして立ち入る事は出来ない」
「……ごめんなさい」
「本来なら拷問室行きだがその腕に免じて見逃してやる、反省しろ!」
そう言われて兵士は行ってしまった、自業自得なのはその通りだって俺でも思う。
見逃されるほど腕が酷い状態って事だよな。
それだけじゃなくて、俺が息子というのもあるんだろうけど…
医務室に入ると、物凄く苦しそうな声が聞こえて耳を塞ぎたくなる。
片腕が使えないから、防ぐ事も出来ない。
医者と助手が忙しいそうに歩き回っていた。
「診てもらいたいんですが…」
「今忙しいんだけど、見て分からないかな」
「ご、ごめんなさい」
「先生、この患者さんは…」
「あー、可哀想だけどもう無理だね…地下の担当になってから分かってた事なんじゃない?本人も」
地下…その言葉に反応して、声のした方を見て片手で口を押さえた。
惨い姿になっている人が横たわっていて、助手が何処かに運んでいた。
まさか、ここと地下が繋がってるのだろうか。
だとしたら、このドアを開けられたらきっと…
「何をしているのですか!」
「あ、ごめんなさい!」
花の世話をしていた使用人に見つかってしまい、すぐにその場を離れた。
ドアの前に立っていれば、当然といえば当然なんだけどね。
怪しまれたが、すぐに使用人は自分の仕事に戻った。
変な行動をしても、中には誰も入れないと使用人も分かっているからだろう。
仕方ない、使用人がいない夜に調べる事にして武器庫に向かおう。
俺も一応兵士だから武器庫を解放してくれるだろうかと、少しだけ期待して向かった。
当然のように武器庫の前には兵士が二人いた。
「あのー…武器庫の中を見せてくれませんか?」
「ローベルト卿の許可は?」
「……許可がないと、ダメですか?」
「許可を貰ってからお越しください」
普通に追い返されてしまった。
ローベルト卿の許可って、なんて言えばいいんだ?
糸があるか聞くのか?俺の糸は武器だから糸が短くなったと本当の事を言ったら、不自然な事は何もない。
武器庫の入り口は正面しかないし、聞いてみるか。
他に聞きたい事がいろいろあるし…昨日は通してくれなかったが、武器庫はローベルト卿に会う立派な理由だよな。
そう思ってローベルト卿の部屋に向かった。
兵士二人は当然のように俺に昨日と同じ言葉を口にしていた。
「武器庫に入りたいんです、通して下さい」
「入る理由は?」
「俺の武器が壊れたからです、通してもらえますか?」
兵士二人は目を見合わせていて、少し沈黙していた。
これなら立派な理由だと思っていたら、兵士は「今はローベルト卿は不在なので改めてお越しください」と言われた。
いないのか、兵士は勝手に武器庫の許可を出せないみたいでまた追い返された。
いないなら仕方ないな、少し経ったらまた来てみよう。
ローベルト卿の部屋から出て、屋敷の中を探索でもしようと歩いた。
なにかカイウスに近付ける方法があればいいんだけど…
結局、そんな場所が兵士に一般解放されているわけではなく、俺が入れるのは食堂と大浴場と庭くらいだった。
そんなところにカイウスはいないよな、と大浴場から出ようとして体を引っ込めた。
大浴場の扉を閉めて、ドアに背中をくっつけた。
びっくりした、心臓が早く動いていて緊張が全身に伝わってくる。
いるだろうとは思っていたが、こんな早く会うとは思わなかった。
いつでも出会う危険がある、呑気に屋敷探索も出来ないな。
常に何処かにいるように警戒しておかないといけない。
俺が見たのは神の分身である、目を隠している男だった。
本当に前が見えないのか分からないが、気付いてはなさそうでホッとした。
もしかしたら、目が見えない代わりに気配で見ているかもしれないと思っていたが、そのまま素通りしたみたいで良かった。
警戒しながら大浴場のドアを開いて周りを見渡す。
通る使用人達が不審な顔をしていたが、あの男がいないなら良かったと大浴場を出た。
地下の扉の前に立って、いろいろな感情が溢れてきた。
あの男は普通に人と一緒に暮らすわけがない。
だからきっとここから出てきたんだよな。
俺も行きたい、カイウスのところに…傍にいたい。
手を伸ばしても、弾かれてしまう…まるでカイウスに拒絶されているように感じる。
それでも諦めずに手を伸ばすと、結界の拒絶が強くなった。
これ以上すると、腕が壊れてしまうと分かり手を離した。
座り込んで、自分の手のひらを見つめた。
火傷のように赤くなっていて、血が滲んでいる。
こんな痛み、カイウスに会えるなら痛くもない。
手のひらに水が落ちて、痺れるような痛みを感じた。
これは水じゃなくて、俺の涙だ…こんな近くにいるのになんでカイウスの姿も見る事が許されないんだろう。
俺とカイウスの距離がどんどん離れていくようだ。
そんなの嫌だ、あと一回…もう一回試したい。
無駄だと分かっていても、もしかしたらという希望があるなら俺はその希望を信じたい。
もう一度扉に触れようとすると、肩まで鋭い痛みが走った。
「あぐっ!!」
「そこで何をしている!」
俺の声に気付いた兵士が駆け寄ってきた。
腕を押さえる俺を見つめていて、怒っているみたいだが、それどころではなかった。
兵士はなにかを掴んでいて、俺は嫌な汗が流れる。
男が掴んでいるものは、腕だった…しかも俺の….
可笑しい、なんで男に掴まれているのに触れられていると感じないんだ?
指を動かそうとしても、ピクリとも動かない。
兵士は俺の事など構わずに、腕を引っ張って扉から離そうとする。
痛みがないから感覚が分からなくて、腕を引きちぎられる怖さで兵士に合わせて立ち上がる。
離された腕はだらりとぶら下がっていた。
何をしていたのかとかいろいろ聞かれたが、俺自身がそれどころではなくなっていた。
下を向いて、動かない腕を見つめていた。
腕が使い物にならなくなっていて、どうしようかと考える。
医務室はあるけど、治せるだろうか…兵士の方を見ると、急に目が合ったから兵士は驚いていた。
「ちょっと好奇心で入ろうとして…」
「ここは許可なくして立ち入る事は出来ない」
「……ごめんなさい」
「本来なら拷問室行きだがその腕に免じて見逃してやる、反省しろ!」
そう言われて兵士は行ってしまった、自業自得なのはその通りだって俺でも思う。
見逃されるほど腕が酷い状態って事だよな。
それだけじゃなくて、俺が息子というのもあるんだろうけど…
医務室に入ると、物凄く苦しそうな声が聞こえて耳を塞ぎたくなる。
片腕が使えないから、防ぐ事も出来ない。
医者と助手が忙しいそうに歩き回っていた。
「診てもらいたいんですが…」
「今忙しいんだけど、見て分からないかな」
「ご、ごめんなさい」
「先生、この患者さんは…」
「あー、可哀想だけどもう無理だね…地下の担当になってから分かってた事なんじゃない?本人も」
地下…その言葉に反応して、声のした方を見て片手で口を押さえた。
惨い姿になっている人が横たわっていて、助手が何処かに運んでいた。
44
お気に入りに追加
8,302
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる