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拒絶の痛み

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この感覚、地下への扉を開けようとした時に似ている。

まさか、ここと地下が繋がってるのだろうか。

だとしたら、このドアを開けられたらきっと…

「何をしているのですか!」

「あ、ごめんなさい!」

花の世話をしていた使用人に見つかってしまい、すぐにその場を離れた。
ドアの前に立っていれば、当然といえば当然なんだけどね。

怪しまれたが、すぐに使用人は自分の仕事に戻った。
変な行動をしても、中には誰も入れないと使用人も分かっているからだろう。

仕方ない、使用人がいない夜に調べる事にして武器庫に向かおう。

俺も一応兵士だから武器庫を解放してくれるだろうかと、少しだけ期待して向かった。

当然のように武器庫の前には兵士が二人いた。

「あのー…武器庫の中を見せてくれませんか?」

「ローベルト卿の許可は?」

「……許可がないと、ダメですか?」

「許可を貰ってからお越しください」

普通に追い返されてしまった。

ローベルト卿の許可って、なんて言えばいいんだ?
糸があるか聞くのか?俺の糸は武器だから糸が短くなったと本当の事を言ったら、不自然な事は何もない。

武器庫の入り口は正面しかないし、聞いてみるか。
他に聞きたい事がいろいろあるし…昨日は通してくれなかったが、武器庫はローベルト卿に会う立派な理由だよな。

そう思ってローベルト卿の部屋に向かった。

兵士二人は当然のように俺に昨日と同じ言葉を口にしていた。

「武器庫に入りたいんです、通して下さい」

「入る理由は?」

「俺の武器が壊れたからです、通してもらえますか?」

兵士二人は目を見合わせていて、少し沈黙していた。
これなら立派な理由だと思っていたら、兵士は「今はローベルト卿は不在なので改めてお越しください」と言われた。

いないのか、兵士は勝手に武器庫の許可を出せないみたいでまた追い返された。

いないなら仕方ないな、少し経ったらまた来てみよう。

ローベルト卿の部屋から出て、屋敷の中を探索でもしようと歩いた。
なにかカイウスに近付ける方法があればいいんだけど…

結局、そんな場所が兵士に一般解放されているわけではなく、俺が入れるのは食堂と大浴場と庭くらいだった。

そんなところにカイウスはいないよな、と大浴場から出ようとして体を引っ込めた。
大浴場の扉を閉めて、ドアに背中をくっつけた。
びっくりした、心臓が早く動いていて緊張が全身に伝わってくる。

いるだろうとは思っていたが、こんな早く会うとは思わなかった。
いつでも出会う危険がある、呑気に屋敷探索も出来ないな。
常に何処かにいるように警戒しておかないといけない。

俺が見たのは神の分身である、目を隠している男だった。
本当に前が見えないのか分からないが、気付いてはなさそうでホッとした。
もしかしたら、目が見えない代わりに気配で見ているかもしれないと思っていたが、そのまま素通りしたみたいで良かった。

警戒しながら大浴場のドアを開いて周りを見渡す。
通る使用人達が不審な顔をしていたが、あの男がいないなら良かったと大浴場を出た。

地下の扉の前に立って、いろいろな感情が溢れてきた。
あの男は普通に人と一緒に暮らすわけがない。
だからきっとここから出てきたんだよな。

俺も行きたい、カイウスのところに…傍にいたい。

手を伸ばしても、弾かれてしまう…まるでカイウスに拒絶されているように感じる。
それでも諦めずに手を伸ばすと、結界の拒絶が強くなった。

これ以上すると、腕が壊れてしまうと分かり手を離した。

座り込んで、自分の手のひらを見つめた。
火傷のように赤くなっていて、血が滲んでいる。
こんな痛み、カイウスに会えるなら痛くもない。

手のひらに水が落ちて、痺れるような痛みを感じた。
これは水じゃなくて、俺の涙だ…こんな近くにいるのになんでカイウスの姿も見る事が許されないんだろう。

俺とカイウスの距離がどんどん離れていくようだ。

そんなの嫌だ、あと一回…もう一回試したい。
無駄だと分かっていても、もしかしたらという希望があるなら俺はその希望を信じたい。

もう一度扉に触れようとすると、肩まで鋭い痛みが走った。

「あぐっ!!」

「そこで何をしている!」

俺の声に気付いた兵士が駆け寄ってきた。
腕を押さえる俺を見つめていて、怒っているみたいだが、それどころではなかった。
兵士はなにかを掴んでいて、俺は嫌な汗が流れる。

男が掴んでいるものは、腕だった…しかも俺の….

 可笑しい、なんで男に掴まれているのに触れられていると感じないんだ?
指を動かそうとしても、ピクリとも動かない。

兵士は俺の事など構わずに、腕を引っ張って扉から離そうとする。

痛みがないから感覚が分からなくて、腕を引きちぎられる怖さで兵士に合わせて立ち上がる。

離された腕はだらりとぶら下がっていた。

何をしていたのかとかいろいろ聞かれたが、俺自身がそれどころではなくなっていた。
下を向いて、動かない腕を見つめていた。

腕が使い物にならなくなっていて、どうしようかと考える。

医務室はあるけど、治せるだろうか…兵士の方を見ると、急に目が合ったから兵士は驚いていた。

「ちょっと好奇心で入ろうとして…」

「ここは許可なくして立ち入る事は出来ない」

「……ごめんなさい」

「本来なら拷問室行きだがその腕に免じて見逃してやる、反省しろ!」

そう言われて兵士は行ってしまった、自業自得なのはその通りだって俺でも思う。
見逃されるほど腕が酷い状態って事だよな。
それだけじゃなくて、俺が息子というのもあるんだろうけど…

医務室に入ると、物凄く苦しそうな声が聞こえて耳を塞ぎたくなる。
片腕が使えないから、防ぐ事も出来ない。
医者と助手が忙しいそうに歩き回っていた。

「診てもらいたいんですが…」

「今忙しいんだけど、見て分からないかな」

「ご、ごめんなさい」

「先生、この患者さんは…」

「あー、可哀想だけどもう無理だね…地下の担当になってから分かってた事なんじゃない?本人も」

地下…その言葉に反応して、声のした方を見て片手で口を押さえた。
惨い姿になっている人が横たわっていて、助手が何処かに運んでいた。
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