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食い違う話
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「お前はまだ俺に感情があると思っているのか?」
「だってさっき俺は殺さなくていいって…それに俺を殴ろうとした時、怒りの感情があったんじゃないかって思って」
「お前を殴ろうとしたのは、刃向かう相手は叩きのめすと教育されているからだ」
教育って、ローベルト卿がしたのか?
じゃああれは感情ではなく、本能のようなものなのか?
もう死んでいるのに、まだ傷付けようとする男の腕を掴んで止めた。
なんでそんな酷い事をするんだよ、同じ人なのに…
男に腕を振り払われて、地面に尻餅を付くと男はさっき殺した剣を俺に投げてきた。
条件反射で後ずさって、剣から離れようとしたが音が俺の道を阻んだ。
「お前が殺した事にしろ」
「ふざけるなよ、ここまでする必要ないだろ!」
「お前にまた力を使われたら困るからな」
力?俺の力は雷だけだ、何を言っているのか分からない。
俺は無惨になった死体に近付こうとしたが、男に腕を掴まれて引っ張られる。
このままじゃ、この人は報われない…せめてお墓とか身内に連絡とかしたい。
そう言っても男の足は止まる事はなく、離れていった。
屋敷まで引っ張られて、扉を開けるとユリウスが立っていた。
真っ先に俺達がどうなったか気になっていたんだろう。
俺は暗い顔をして下を向いていて、ユリウスが近付いてきた。
「ちゃんと殺してきたんだろうな、じゃないと戻ってこれない筈だからな」
ユリウスはいくら薬を飲んだとはいえ、俺に人は殺せないと思っているのかニヤニヤと笑っていた。
男はユリウスに「直接本人に聞け」と言っていた。
ユリウスはその態度に舌打ちしていて、俺の方を見た。
男は俺が殺した事にしろとは言ったが、俺は言えなかった。
あんな恐ろしい姿を思い出すだけで、震えが止まらなくなる。
言葉に詰まってしまい、ユリウスは不審な顔をしている。
「本当に殺してきたのか?…まぁ、いくら婚約者でもローベルト卿の人形が情に流されるわけないか」
ユリウスはそう言って鼻で笑っていて、呆然とする俺を置いて屋敷を出た。
ローベルト卿に報告しに行かなきゃいけないが、それよりも気になる事があった。
誰と誰が、婚約者?話の流れからして、俺の後ろにいる男の話だろうか。
婚約者でもいたのか、知らなかった…知らなくてもいい話だけど。
ローベルト卿のところに行かなきゃいけないが、俺がやったなんてどうしても言えない。
足も自然と重くなって、ゆっくりと歩いている。
後ろにいたのに、いつの間にか男が俺の前に出ていた。
「お前は部屋にいろ、俺が話す」
「…いや、でも…」
「お前のためじゃない、お前がいると目障りなだけだ」
心の底からそう思っています、と言いたげな顔をしてローベルト卿の部屋に向かっていた。
俺がいたら、ユリウスの時みたいに疑われるからだろうな。
俺のためではなく、ローベルト家に必要な力のために。
部屋って、まだ俺の部屋を教えられてないけど前の部屋?
とりあえずここにずっと居ても仕方ない、部屋に行こうかな。
あれ?でも2階のあの場所、よく見たら俺の部屋だった場所じゃ…
これじゃあ帰れないな、俺の部屋っていったい何処に行けば………屋根裏部屋?
「あそこからメイドの子が落ちてきたんだ、なにがあったのかは分からないけど」
「ハイドレイ」
後ろにハイドレイがいて、俺が見ていた二階の穴が開いた場所について言った。
俺の部屋というか、あの部屋で何をしてたんだろう。
それは当人しか分からないから、ハイドレイにも分かるわけがない。
ハイドレイも俺がローベルト家に入れるのか気になっていた。
入れるのか正直分からないから今は何とも言えない。
ハイドレイは屋敷に入る口実で、薬を貰っていたそうだ。
「大丈夫なのか?さっき一緒にいた男」
「う…ん、今のところはまだ…」
「アイツ、カイ様を殺そうとしていた奴だよな」
「…また、戦ったんだ…その時どっちが勝ったの?」
「いや、俺も途中でカイ様に逃してもらっていたからカイ様がどうなったのか分からない」
「そっか、ごめんね…辛い事思い出させて」
「俺もごめん、婚約者なんだよな…あまり悪く言われたくないよな」
え…?また婚約者?でもこの場合は俺の事を言われてるような…
誰と婚約者?カイウス?…でも、俺達の関係を知ってるのはごく僅かだし、ハイドレイに言う人はいない筈。
カイウスが言ったのならそうなんだけど、本当にカイウス?
あの男も婚約者がいるって言っていた、これは偶然だよな。
恐る恐るハイドレイに聞くと、ハイドレイは「俺は何とも思わないけど、なんで婚約者にあの人を選んだんだろうな」と言っていた。
ハイドレイから聞いた話は耳を疑うほどの衝撃だった。
俺は自分の知らないうちに、あの男の婚約者になっていた。
俺、男なのになんで?カイウスと付き合っているけどそれとこれとは違う。
婚約者になったって事は、俺とあの男が結婚する事に決めたって事だろ?
「なんで俺なんだ、妹のサクヤがいるのに…」
「うーん、なんか最初はそうだったみたいだけど好きな人がいるって断ったみたいだぞ」
「俺にも好きな人がいる!」
「それは…どうすればいいんだ?」
ハイドレイは薬を貰った人から聞いただけだから詳しくは知らないらしい。
どうすればいいのかはローベルト卿に直接言わなきゃいけない。
あの男も分かっていたなら、早めに言ってほしかった。
もしかしたら俺が婚約者だからあんなにお喋りだったのかな。
あれは仮でもローベルト卿の仲間になったからかもしれない。
サクヤはカイウスが好きだからって免れたなら、俺もカイウスが好きって言ったら婚約破棄にならないかな。
俺の場合、嘘って思われて終わりな気がするな。
「そもそもなんで一人の兵士と結婚する事になってるんだろう」
「政略結婚みたいなものらしいけど、結婚って好き同士がした方がいいよな…誰かのためにするもんじゃない」
ハイドレイの言う通りだ、俺だって選ぶ権利がある筈だ。
まさか、よりにもよって俺の苦手な人となんて…
ハイドレイはどうすればいいのか悩んでいたが、すぐに背筋を伸ばした。
俺ではなく、俺の後ろを見つめていて振り返った。
そこには俺より頭が二つ分くらい高い背の男が立っていた。
もうローベルト卿との話は終わったのかな、見た感じ今すぐ追い出される雰囲気じゃなさそうだから成功したって思っていいよな。
人が死んで複雑な気分だけど、カイウスを助けるためにはずっと引きずっているわけにはいかない。
「だってさっき俺は殺さなくていいって…それに俺を殴ろうとした時、怒りの感情があったんじゃないかって思って」
「お前を殴ろうとしたのは、刃向かう相手は叩きのめすと教育されているからだ」
教育って、ローベルト卿がしたのか?
じゃああれは感情ではなく、本能のようなものなのか?
もう死んでいるのに、まだ傷付けようとする男の腕を掴んで止めた。
なんでそんな酷い事をするんだよ、同じ人なのに…
男に腕を振り払われて、地面に尻餅を付くと男はさっき殺した剣を俺に投げてきた。
条件反射で後ずさって、剣から離れようとしたが音が俺の道を阻んだ。
「お前が殺した事にしろ」
「ふざけるなよ、ここまでする必要ないだろ!」
「お前にまた力を使われたら困るからな」
力?俺の力は雷だけだ、何を言っているのか分からない。
俺は無惨になった死体に近付こうとしたが、男に腕を掴まれて引っ張られる。
このままじゃ、この人は報われない…せめてお墓とか身内に連絡とかしたい。
そう言っても男の足は止まる事はなく、離れていった。
屋敷まで引っ張られて、扉を開けるとユリウスが立っていた。
真っ先に俺達がどうなったか気になっていたんだろう。
俺は暗い顔をして下を向いていて、ユリウスが近付いてきた。
「ちゃんと殺してきたんだろうな、じゃないと戻ってこれない筈だからな」
ユリウスはいくら薬を飲んだとはいえ、俺に人は殺せないと思っているのかニヤニヤと笑っていた。
男はユリウスに「直接本人に聞け」と言っていた。
ユリウスはその態度に舌打ちしていて、俺の方を見た。
男は俺が殺した事にしろとは言ったが、俺は言えなかった。
あんな恐ろしい姿を思い出すだけで、震えが止まらなくなる。
言葉に詰まってしまい、ユリウスは不審な顔をしている。
「本当に殺してきたのか?…まぁ、いくら婚約者でもローベルト卿の人形が情に流されるわけないか」
ユリウスはそう言って鼻で笑っていて、呆然とする俺を置いて屋敷を出た。
ローベルト卿に報告しに行かなきゃいけないが、それよりも気になる事があった。
誰と誰が、婚約者?話の流れからして、俺の後ろにいる男の話だろうか。
婚約者でもいたのか、知らなかった…知らなくてもいい話だけど。
ローベルト卿のところに行かなきゃいけないが、俺がやったなんてどうしても言えない。
足も自然と重くなって、ゆっくりと歩いている。
後ろにいたのに、いつの間にか男が俺の前に出ていた。
「お前は部屋にいろ、俺が話す」
「…いや、でも…」
「お前のためじゃない、お前がいると目障りなだけだ」
心の底からそう思っています、と言いたげな顔をしてローベルト卿の部屋に向かっていた。
俺がいたら、ユリウスの時みたいに疑われるからだろうな。
俺のためではなく、ローベルト家に必要な力のために。
部屋って、まだ俺の部屋を教えられてないけど前の部屋?
とりあえずここにずっと居ても仕方ない、部屋に行こうかな。
あれ?でも2階のあの場所、よく見たら俺の部屋だった場所じゃ…
これじゃあ帰れないな、俺の部屋っていったい何処に行けば………屋根裏部屋?
「あそこからメイドの子が落ちてきたんだ、なにがあったのかは分からないけど」
「ハイドレイ」
後ろにハイドレイがいて、俺が見ていた二階の穴が開いた場所について言った。
俺の部屋というか、あの部屋で何をしてたんだろう。
それは当人しか分からないから、ハイドレイにも分かるわけがない。
ハイドレイも俺がローベルト家に入れるのか気になっていた。
入れるのか正直分からないから今は何とも言えない。
ハイドレイは屋敷に入る口実で、薬を貰っていたそうだ。
「大丈夫なのか?さっき一緒にいた男」
「う…ん、今のところはまだ…」
「アイツ、カイ様を殺そうとしていた奴だよな」
「…また、戦ったんだ…その時どっちが勝ったの?」
「いや、俺も途中でカイ様に逃してもらっていたからカイ様がどうなったのか分からない」
「そっか、ごめんね…辛い事思い出させて」
「俺もごめん、婚約者なんだよな…あまり悪く言われたくないよな」
え…?また婚約者?でもこの場合は俺の事を言われてるような…
誰と婚約者?カイウス?…でも、俺達の関係を知ってるのはごく僅かだし、ハイドレイに言う人はいない筈。
カイウスが言ったのならそうなんだけど、本当にカイウス?
あの男も婚約者がいるって言っていた、これは偶然だよな。
恐る恐るハイドレイに聞くと、ハイドレイは「俺は何とも思わないけど、なんで婚約者にあの人を選んだんだろうな」と言っていた。
ハイドレイから聞いた話は耳を疑うほどの衝撃だった。
俺は自分の知らないうちに、あの男の婚約者になっていた。
俺、男なのになんで?カイウスと付き合っているけどそれとこれとは違う。
婚約者になったって事は、俺とあの男が結婚する事に決めたって事だろ?
「なんで俺なんだ、妹のサクヤがいるのに…」
「うーん、なんか最初はそうだったみたいだけど好きな人がいるって断ったみたいだぞ」
「俺にも好きな人がいる!」
「それは…どうすればいいんだ?」
ハイドレイは薬を貰った人から聞いただけだから詳しくは知らないらしい。
どうすればいいのかはローベルト卿に直接言わなきゃいけない。
あの男も分かっていたなら、早めに言ってほしかった。
もしかしたら俺が婚約者だからあんなにお喋りだったのかな。
あれは仮でもローベルト卿の仲間になったからかもしれない。
サクヤはカイウスが好きだからって免れたなら、俺もカイウスが好きって言ったら婚約破棄にならないかな。
俺の場合、嘘って思われて終わりな気がするな。
「そもそもなんで一人の兵士と結婚する事になってるんだろう」
「政略結婚みたいなものらしいけど、結婚って好き同士がした方がいいよな…誰かのためにするもんじゃない」
ハイドレイの言う通りだ、俺だって選ぶ権利がある筈だ。
まさか、よりにもよって俺の苦手な人となんて…
ハイドレイはどうすればいいのか悩んでいたが、すぐに背筋を伸ばした。
俺ではなく、俺の後ろを見つめていて振り返った。
そこには俺より頭が二つ分くらい高い背の男が立っていた。
もうローベルト卿との話は終わったのかな、見た感じ今すぐ追い出される雰囲気じゃなさそうだから成功したって思っていいよな。
人が死んで複雑な気分だけど、カイウスを助けるためにはずっと引きずっているわけにはいかない。
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