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最悪な相手と

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会いに来たとはいえ、やはり正面から見ると威圧感で心臓が押し潰されそうだ。
執事と兵士に連れられた俺を見るローベルト卿は最初の一言が「何故戻ってきた」というものだった。

俺は心を落ち着かせてローベルト卿に他の人にした説明をした。
欲深く、欲のためなら命を捨てられる…そんな兵士ばかり集めているのは知っている。
実際に本当に命を捨てられると思っているのは一握りもいないのかもしれない。

それでも、一度でもそう思ったのなら受け入れる。
裏切らないと信用したわけではなく、都合のいい量産型の駒にするために…

だから重役になりたいという欲さえなければ受け入れてくれるだろう。
たとえむすこであっても、量産型の駒の一つとしか思っていない。
今更家族に甘えたいなんて思ってないし、俺が帰って来たのはカイウスを迎えに来ただけだ。

でも、受け入れられるのは何もしてなかった場合だ……俺はいろいろしちゃったからなぁ。

「一度逃げ出したお前を迎えると思っているのか?」

「申し訳ございませんでした」

「謝罪が聞きたいのではない、忠誠心を行動で示せ」

ローベルト卿はそう言うと執事に目線で合図をした。
執事はローベルト卿に頭を下げて、何処かに行ってしまった。

兵士も俺が何をするのか分かっているみたいで、この場で分かっていないのは俺だけだった。

ローベルト卿は「二度の失敗はないと思え」と言って、もう俺の顔を見る事はなかった。

執事が連れてきた人物は意外な相手だった。
出来れば、もう会いたくはなかった…ローベルト家の人間なら会う事は当然だろうけど。

「ライム様、これを」

執事に渡された紙と似顔絵を交互に見つめる。
似顔絵からはよく分からないけど、結構ゴツい?

執事は俺に「この男を殺して忠誠心を見せてください」と言っていた。

頭が真っ白になっていくのが分かった、指先も冷たい。
震える手を必死に握りしめて抑えようとした。
力強かったから、俺の紙がよれよれになってしまった。

固まる俺に秘書は連れてきた男に視線を向けた。

「貴方が一人で行って、ちゃんと殺せたか彼に見てもらいます…彼は感情のない人形、上手く扱おうなんて考えない事ですね」

「……」

「貴方の忠誠心が本物なら、出来る筈ですよ」

俺の目の前にいる鎧の男は、俺を黙って見下ろしていた。
俺とカイウスに散々酷い事をしたこの男が嫌いだ。
…でも、せっかくここまで来たのに追い出されたら二度とローベルト家には入れない。

だからって、人を殺す?この似顔絵の人が何をしたかなんて知らない。
俺には関係ない相手という事は分かる、殺す必要がない人だ。
俺は騎士団なんかじゃない、勝手に裁く権利なんてない。
俺が戦うのは、攻撃をしてきた相手とカイウスを傷付ける奴だけだ。

「話は終わりました、さっさと行動に示して下さい…言っておきますが、ローベルト卿は気の長いお方ではございませんので」

俺と鎧の男と兵士はローベルト卿の部屋から追い出された。
兵士は鎧の男がいるからと、鎧の男に俺を任せて行ってしまった。
思いっきり顔に面倒事はしたくないと書いてあったな。

似顔絵をもう一度見つめて、とりあえず誰かだけでも見に行こうかなと思った。
殺す気は最初からないが、見ていたら何か他にアイデアが思いつくかもしれない。

俺が歩き出すと、少し後ろから鎧の男が付いて来ていて落ち着かない。

執事が人形と言っていた言葉が気になった。
確かに痛みを感じないみたいだけど、人間だと思う。
そこで疑問がいくつか出てきてしまうのは仕方ない事だ。

だってこの男はカイウスに倒された筈なのに、今も何事もなかったかのように歩いている。
そう思うと人じゃないという言葉も説得力がある。

でも俺は、アレを見たら人形ってほどではないように思える。
嫌いな相手だけど、それとこれとは違う。
そもそもローベルト家に忠誠を誓って、俺を殺そうとしていた人を丸め込めるなんて思わない。

チラッと様子を伺うと、鎧の男は俺を見ないで前を見ていた。

俺もすぐに前を向いて、どう考えるだけだった。

屋敷を出て、似顔絵の人がいる建物の近くまで来た。
仕立て屋みたいで、何人か出入りしているのが見える。
外に出てきてもらわないと、分からないな。

自分が狙われているって分かっているから出れないんだろうな。

資料である紙に「脱走者」と書かれていた。

元々ローベルトの兵士かなにかだったのに、逃げたんだろう。
ローベルト家の洗脳が解けたのか、もう罪を重ねるのが嫌なのか…それともどちらもか。

怪しまれて騎士団に通報されないように、壁に寄りかかって鎧の男と向かい合う。
一人だったら怪しさが倍増していたから良かった。

鎧の男も今は鎧をしていないから、目立つ事はなかった。

会話してる風にしないと目立つかな、とはいえ俺とこの人で話題なんて…

「おい」

「…っ!?な、何?」

「何故戻ってきたんだ」

悩んでいたら、まさか男の方から声を掛けられるとは思わなかった。
話しかけられた事にも驚いたが、それよりも皆と同じ事を聞いてきたから疲れた顔になる。
なんでそんなに気になるんだ?やっぱり可笑しいのかな……逃げたくせにと思われても仕方ないと言われたらそうだけど…

でも話題を振ってくれたから、会話をしているように周りが見えてくれれば成功だ。
怪しいとは思われないだろう、ただ俺達は立ち話しているだけだから。
俺はこれまた同じような答えを口にする。
皆これで納得したんだから、それでいいだろ。

「力が欲しくなった、それだけだよ」

「……」

「ローベルト家に入る奴なんて大体がそうだろ」

「……」

自分から聞いたのに、なんで反応ないんだよ。
他なんてないし、男だって俺に興味なんてないだろ。

黙られると会話が終わっちゃうだろ、まぁそんなに話したくないのが本音だけど。

そう思っていたら、突然腕を掴まれて壁に押し付けられた。
向かいの壁に寄りかかっていたのに、至近距離に詰められて見下ろされた。
加減のない強い力で、腕がへし折れそうだ。

まさか、バレたのか?どうして?さっきの会話が怪しかったのか?
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