冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

文字の大きさ
上 下
218 / 299

卑しい負け犬

しおりを挟む
「ハイドレイ、良かったら話してくれない?なんで薬を持ってたのか」

「……いいけど、俺もお願いがあるんだ……カイ様を助けるのに協力してくれ」

ハイドレイの必死な言葉に俺は当然だと頷いた。
ハイドレイが話してくれたのは、カイウスの作戦だった。

ユリウスが怪しいところを見たハイドレイはカイウスに言って、ユリウスとローベルト卿の繋がりを確かめるために二人は潜入した。
カイウスはユリウスを元々疑っていたが、薬との繋がりはまだ分からなかった。

俺もローベルト家に出入りしていた事くらいしか知らなかった。
出入りしているだけで、犯罪を犯しているとまでは分からない。
だから俺もユリウスの事はすっかり忘れていた。

薬と繋がりがある事を知ったから、カイウスもユリウスと戦う事を決意したんだろう。
もっと早くこうしていれば良かったのかな。

でも、ハイドレイの話を聞くかぎりユリウスがカイウスをどうにかしたわけではなさそうだった。
だとしたら、早くても遅くてもカイウスはいつかこうなっていたのかな。
過去の話をしても仕方ない、今はカイウスを助ける事だけを考えよう。

そのためにはなにがあったのか、知る必要があるだろう。
ハイドレイが薬を手にして、ちょっとトラブルがあってその時カイウスの家のメイドがいたと言っていた。

「メイドって?」

「えっと、カイ様の家に訪ねた時メイド長って言ってた気がする」

「……メイド長、ローズがなんで?」

ローズはカイウスを崇拝していて、何よりローベルト家…というより俺が嫌いだった。
そんな俺の家でなんでメイドになんかなったんだ?

ローズの考えている事は分からないが、カイウスも知らない様子だったらしい。
それだけなら怪しむだけで終わるが、帰る時に事件が起こった。
爆発音と共にローズが飛んできて、ローベルト家に囲まれてしまった。

幸いカイウスの後ろにいたハイドレイは顔を見られる事がなくて、カイウスに逃されたそうだ。
それからカイウスがどうなったのか、ハイドレイは見ていない。
カイウスがローベルト家に捕まったと思っているみたいだ。

違う、本当はカイウスの人格が……そうハイドレイに言ったところで元々二重人格なのも知らないからハイドレイに言っても分からないだろう。

ハイドレイは薬を理由にローベルト卿に出入り出来るらしい。
一応ローベルト家の一員になったと言っていた。
薬を飲んでいないからいつかはバレる、その前にカイウスを助けるつもりだと言っていた。

「俺も、紹介してくれない?ハイドレイが紹介されたみたいに」

「…あ、でも俺も貰ったばかりだし…まだ信用ないと思う」

「連れて行ってくれるだけでいいんだ、後は自分でやる」

ハイドレイに出会って良かった、二人で行けば俺だけなら門前払いだが中に通すくらいはしてくれそうだ。
中に入れば俺を知っている人に会える、それからは俺がやる。

ハイドレイは中に入るだけで大丈夫なのかと不安そうにしていた。
それでも連れて行ってくれると言ってくれて、ハイドレイと一緒にローベルト家の屋敷に向かった。

門番はハイドレイが薬の入れ物を見せただけで通してくれた。
門番からしたら、ハイドレイが新人かどうかなんて分からない…ただ薬を持っているから、それだけで信じていた。
俺の事も新人だと言って一緒に通してくれた。

なんで俺の事いつも門番は知らないんだろうな、そんなに影薄い?
単純に出入りしていないから覚えられていないだけだろう。

「本当にここまででいいのか?」

「うん、ありがとうハイドレイ…また何処かで会おうね」

「おう!」

ハイドレイもカイウスを助けるために用があるからローベルト家の前で別れて、俺一人で屋敷の扉を開いた。
実家に戻るだけ…とは言い聞かせるが、こんなに手が震えるのは異常だよな。

屋敷には数人の兵士や使用人がいて、俺の存在にすぐ気付いた。
流石に皆が俺を忘れているわけじゃなくて良かった。

でも、状況的には全然いい状態ではない。

何人かが誰かを呼びに走って、何人かの兵士は俺に剣を向けていた。
襲撃しにきたとでも思われているのかな。
そう思われても仕方ないよな、何度も逃げ出した奴が自分から戻ってきたんだ。

この状態でまともに話が通じそうな人が誰もいない。
とりあえず今は戦う意思がないとアピールするために手を上げた。

「えっと、実家に帰ってきただけなんだけど」

「貴様の居場所はもうここにはないぞ」

数人の使用人に連れられてやって来たのはユリウスだった。
俺の事を鼻で笑っていて、相変わらずだなぁと思った。

俺の事を「住んでいたところから追い出されて戻ってきた負け犬」だと言って、他の兵士と笑っていた。
腹が立つけど、その理由はいいなと考えて俺も笑った。

変に疑われるより、プライドを消せばいい。

ユリウスは帰れと言いたげに、手のひらをひらひらと振ってあっちに行けと態度で伝えていた。
俺は使えないけど、悪魔が召喚出来る事をアピールした。
周りは俺が悪魔を使役していると勘違いしているから信じるだろう。

それと、カイウスに心の中でごめんなさいと謝ってイヤーカフの糸を見せた。
普通の人間には使えない魔法が使える糸だ。

カイウスを助けるために、どうしてもローベルト家に入らないといけないんだ。
イヤーカフにはユリウスも反応を示していた。

「お前、薬を飲んだのか?いつだ」

「…裏道に捨てられた、やつ?」

「あんな失敗作のゴミを食うなんて、野生動物以下だな」

やっぱりあれは失敗作だったのか、もう綺麗に処分したからない…当然食うわけないだろ。
それでも俺は、力欲しさに薬を拾って食った奴を演じなきゃいけない。
ローベルト家の人達は、皆欲深い人達だから…

流石のユリウスもドン引きしていて、周りの人達がヒソヒソと話していた。
顔から火が出そうだ、もう良くないか?まだダメ?

ユリウスは完全に虫ケラを見るような目つきに変わっていた。

「悪魔が居ようと薬を飲もうと、もうお前に用はない…俺達は新しい味方を手にしたからな」

新しい味方って、どう考えてもカイウスの事だよな。
自分で言ったくせに、ユリウスは顔を憎悪に染めていた。
カイウスに劣等感を抱いているから、カイウスが仲間に入った事が気に入らないんだろう。

ローベルト家はカイウスを仲間にしようとしていたが、ユリウスはカイウスを殺そうとしていた。
なのにカイウスが仲間に入り、ユリウスが下になった事が我慢ならないのだろう。

とりあえず俺は用無しだと言って兵士達に合図していた。
摘み出すつもりなんだろう、ここで摘み出されたら全てがふりだしに戻ってしまう。

ユリウスは俺を嫌っているから、せめて父と話すまで諦めない。
全てのローベルト家の決定権は父にあるからだ。

「お願いします、父に……ローベルト卿に会わせて」

「お前はもう必要ない、出ていかないなら殺して死体を放り出してやる」

後ずさっても、どんどん詰められて今にも殺されそうな殺気を感じる。
ここで暴れたらローベルト家に居られないが、死ぬかの二択なら仕方ない。
イヤーカフを握りしめていると、イヤーカフと指輪が同時に少し光った。
なにかに反応しているように温かいものを感じる。
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...