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懐かしの人達

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「次から顔をちゃんと覚えておくよ」

「うん、ありがとう」

「聞くって事はお前もカイウスに隠し事されてるのか?」

カイトの言葉に「そうかもしれない」と言った。
だから今からカイウスに聞きに行くんだ。
そう言うとカイトは納得してくれたみたいだ。

仕事中だったからカイトと別れて、俺はローベルト家の兵士を探していた。
来てほしくない時にいるのに、来てほしい時にいないのって何なんだろうな。

ローベルト家が堂々と街をうろついているわけないか、と思って裏道に向かった。
俺はカイウスのおかげで、指名手配ではなくなったから堂々と歩ける。
でも、ローベルト家の人達はきっと何人か指名手配されている。
平気で人を殺す人達だから、当然といえば当然だ。

あまり通った事がない裏道だから、薄暗くてジメジメしていて嫌な気分だった。
兵士どころか、人もいる気配がしなかった。

早く別の場所に行こうと、背を向けると後ろからコツンとなにかが落ちる音がした。

後ろを振り返ると、小さな瓶のような入れ物で中のものが出ていた。
誰かが落としたのかと思って周りを見渡すが、誰もいない。
よく見たら、奥の方にも入れ物が大量に置かれていた。

ここってもしかして、これ専用のゴミ捨て場なのかな。
他の入れ物の中身は白く溶けていたが、さっき落ちたのは錠剤のようだ。

もしかしてこれ、あの薬なんじゃないのか?

だとしたらなんでここに大量に捨てられているんだ?
もしかして失敗作かな、こんなところに捨てて誰かが知らないで拾ったらどうするんだ。
いくら人が滅多に来ないであろう場所でもあらゆる事を考えないと危ない。

他の錠剤は溶けているけど、もし鳥とかが食べて突然変異したら大変だ。
周りを見渡して、バケツが転がっているのが見えた。

少し遠いけど湖から水を取ってきて、ここら辺を綺麗に洗い流そうと思った。
いつの間にか兵士探しから、掃除をする事に変わっていた。

水がたっぷり入った重いバケツを運んで裏道に行く。

溶けた錠剤も新しく捨てられて錠剤もまんべんなく水に流した。
なんか、さっきより錠剤が増えている気がするんだけど…もしかしてまた誰かが捨てた?

兵士達は力を維持するために毎日薬を飲んでいるんだろう。
だからこそ、失敗作も大量に出るんだ…この錠剤の数だけ精霊達は苦しめられている。

神様だって言うなら、なんでそんな酷い事するんだよ。
後一回くらい必要だなと思って、バケツを持って湖に走った。

重くなったバケツを運んでいると、肩を叩かれてびっくりしてバケツをひっくり返してしまった。
今日はこれで二回目だ、またカイトかと後ろを振り返った。

「悪いライム、驚かせて」

「…ハイドレイ、ひ…久しぶり」

いつぶりだろうか、後ろに懐かしい顔があった。
でも、いつものような明るさはなく…表情が曇っていた。

バケツをひっくり返した事に罪悪感を覚えているのだろうか、誰かに水が掛からなかっただけでも良かったって思わなきゃ。
また水を汲めばいいんだし、そう言ってバケツを抱えて湖に戻る。
ハイドレイも手伝うと俺の後ろを付いて来る。

重いバケツをハイドレイが持っていて、俺の方が申し訳ない気持ちになった。

「本当に俺一人で運べるよ」

「いや、俺がした事だから…持っていく場所を知られたくないなら余計な事だったかもしれないけど」

「そんな事ないよ、ありがとう」

錠剤と水は流れて薄まっているから、ハイドレイに見られても分からないだろう。
でもまた新しい錠剤が捨てられているかもしれないから、ハイドレイに待ってもらって確認する。

うん、大丈夫そうだ…入れ物はまだ片付けてないけど錠剤が入っていたかは分からない筈だ。
ハイドレイは騎士だから錠剤を隠す必要がないけど、今までの経験で…いつも俺が真っ先に疑われるからな。

今はカイウスがいないから、俺の濡れ衣を晴らしてくれる人もいない。
いくら知り合いのハイドレイとはいえ、正直そこまで俺を信じているわけではないだろう。

「ありがとうハイドレイ、運んでくれて」

「……これって」

「あっ!それは俺が不法投棄したわけじゃなくて!」

慌てて言うと、余計怪しい感じがするような気もする。
とりあえずバケツで地面を綺麗にして、入れ物を集める。

ハイドレイの方を見ると、ハイドレイはなにかを手にしていた。
それは俺が今集めている入れ物とそっくりだった。
何の変哲もない白い瓶のような入れ物だから似てるものをたまたま持っていただけだろう。

だってゲームも現実のハイドレイも、真面目で闇堕ちなんてする奴ではなかった。
ローベルト家に何を言われていてもハイドレイなら大丈夫だと思っている。

「ライム、その入れ物の中身知ってるのか?」

「えっ…な、なんで?」

「知らないならいいんだ!変な事言って悪かった!」

突然ハイドレイが挙動不審になっていて、怪しさは十分だった。
ハイドレイの腕を掴むと、びっくりしていた。

違うとは思うが確認しなきゃ、ハイドレイの無実を証明するために…

ハイドレイの持っている入れ物の中身を聞いても教えてくれなかった。
簡単にハイドレイが教えてくれるはずがないか、隠し事してるみたいだったし。

本当は錠剤じゃなくて、別の隠し事という可能性もある。
可能性は低くても、ハイドレイがローベルト家と関わりがない方がいい。

お互い必死になっていて、だんだん察してきた。
俺達の考えている事って、もしかして同じかもしれない。

「ライム、カイ様と仲が良かったよな」

「そうだけど、まさかなにか知ってるの?」

「その聞き方…カイ様になにがあったのか、分かってるんだな」

ハイドレイが真面目な顔をして聞いていて、俺はカイトを思い出した。
まさか、カイトが言っていた騎士ってハイドレイの事?

他にもいるとは思うが、少なくともハイドレイはカイウスのなにかを知っている。

カイウスがいなくなった事は騎士の間でまだ広まっていないみたいだ。
だからパニックになっていないのか、でもカイウスがいなくなったと知ったら大変な事になる。
それもローベルト家の狙いのようで嫌だ。

「カイウスの事話して、お願い!」

「ライムは薬、飲んでるのか?」

「何も飲んでないよ」

「そっか、良かった」

ハイドレイは緊張していたが、胸を撫で下ろしていた。
ローベルト家に関わっているなら、ホッとしたりしないよな。
無理矢理薬を飲ませようとしていたし、もっと飲めと言われるだろう。

でも、ローベルト家と関わりがないならハイドレイは何故薬を持ってるんだ?
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