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カイウスの場所へ

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カイウスが関わってきた結界が全て弱まってきている。
この国の結界もそうだ、誰かに攻め入られる隙を与えてしまう。
カイウスが今まで守っていたから、この国の平和は保たれていた。

リーズナはカイウスが戻ってくるまで、結界を貼り直すと言っていた。
まだ信じてはいないが、リーズナもカイウスに帰ってきてほしいと思っていてくれて良かった。

俺は訓練を続けて、敵に備えた方がいいだろうと思った。
怪我をしていても休んでいる暇は俺にはないんだ。

その時、訓練所の方から爆発音が聞こえた。
慌てて訓練所に走ると、焼けたにおいと煙が充満していた。
なにが起きたのか、俺が喋ろうとしたらリーズナに口を塞がれた。

ジッとしていたら煙の中から声が聞こえた。

「おい、本当にここにいるんだろうな!」

「君は牢獄に入っていたから気付かなかったんだろうけど、俺が見つけた」

『正確には俺だけどな!』

「何でもいいけど、いねぇじゃん」

「……やっぱり、手足を切り離しておくべきだった」

聞き覚えのある声に俺とリーズナは一歩一歩後ずさった。
幸いな事に煙と爆発音で俺達が訓練所に入ってきた事に気付いていないみたいだ。

でも、訓練所にいないとなるとすぐにここもバレてしまう。
アイツらが狙っているのは俺だろう。

すぐに洋館から出て、走って街に向かった。
俺が行っていい場所なんて何処にもない。
何処にもないけど、行くべき場所は一つしかない。

「お前、これからどうするんだ?住む場所ないだろ」

「家に帰るよ」

「家にって、ローベルト家の屋敷か!?バカ言うなよ!殺されるぞ!」

「ずっと逃げてきたんだ、悪い事がしたくなくて…利用されたくなくて…俺をずっと息子じゃなく駒だと思っている人達のところに」

「…そりゃあ、誰だってそうだろ」

「カイウスと会えなくなるのが一番辛かった、いつも部屋に閉じ込められてたし……その度にカイウスが迎えに来てくれた、勿論リーズナも」

「俺はカイに言われたからやっただけだ」

「うん、でも今カイウスはローベルト家の屋敷にいる、だったら俺もカイウスのところに行きたい」

カイウスが俺を迎えに来てくれた時のように俺もカイウスのところに迎えに行くよ。

リーズナは「どうやって入るつもりなんだ」と言っていた。

あんなに屋敷内で暴れた後だ、すんなり俺を入れてくれるか分からない。
でも、俺が悪魔を召喚したとローベルト家の人達は思い込んでいる。

だったらまだ、父は俺を必要としてくれるかもしれない。
もうカイウスがいるから必要なくなったかもしれないが、父は誰も信じない性格だ。
一人の力を信じてローベルト家を任せる事はしない、駒が多ければ多いほど裏切り者が現れた時対応出来る。

まだ俺の力を必要としているなら、これは最大のチャンスだと思う。
俺はただ家に帰るだけだから、ローベルト家に入るのは簡単だ。

でも、いきなり戻ってきたらそれこそなにか企みがあり、裏切るかもと思われそうだ。
一番いいのはローベルト家の人と一緒に帰る事だ。

俺がまだ必要なら、探しているかもしれない…自惚れかもしれないけど…

「一人で大丈夫か」

「うん、リーズナは結界を元に戻す仕事があるでしょ」

リーズナはカイウスほどの魔力はない、
結界を維持するにはずっと結界を張ったところにいなくてはいけない。
少しなら離れても大丈夫だが、ずっと俺といる事は出来ない。
俺一人で大丈夫だ、リーズナの手を煩わせないよ。

俺一人で大丈夫、なにかあった時のためにリーズナとの連絡方法を考える。
リーズナは俺のしているカイウスの贈り物である指輪を指差した。
指輪はいつも通り、輝きを失ってはいなかった。

「その指輪だけ、まだカイウスの力を感じる」

「そうなの?」

「その指輪ならカイウスの代わりになる、俺がいつもカイウスと脳内で会話している事が出来る筈だ」

リーズナと連絡を取る時、俺が指輪を触るのが合図でリーズナと繋げる事が出来るようにしてくれた。
どんな些細な事でもリーズナと連絡を取り、どんなカイウスと出会っても俺は冷静でいろと約束された。

頷いて、リーズナと別れるとリーズナは人間の姿から猫の姿に変わった。
冷静…リーズナと約束したけど、俺は変わったカイウスをまだ見ていない。
どうなるかなんて、誰にも分からないけど…俺が会うのはカイウス…それは変わらない。

それだけ覚えていれば大丈夫だ、大丈夫…大丈夫。

街を見渡すと、騎士ばかりでローベルト家の兵士は見当たらなかった。
久々に街を見渡したけど、こんな状態じゃなければな。
本当はカイウスと一緒に見たかったな、いや…これが終わったらきっと一緒に行ける。

兵士の姿を探していたら、誰かに肩を叩かれて驚いた。
条件反射で後ろにいる人を殴ってしまった。

「いってぇ!!」

「あ、ごめんなさい」

騎士が一歩よろけていて、慌てて近付いた。
その姿に見覚えがあり、懐かしかったが申し訳ない気持ちが今は大きい。
俺を軽く睨んで、ため息を吐きながら殴られた頬を触っていた。

「久々にあったのに、挨拶ありがとう」

「ごめんなさい!人違いで…」

「またなにかと戦ってんのか?」

騎士の服を着ているカイトがいて、カイウスが言っていた事を思い出した。
もう一度頭を下げて、やっと「久しぶり」と言えた。

カイトは俺がまだ幽霊だと思っているのか、俺の体を調べている。
じろじろ見られていい気分はしなくて、普通の人間だと言うと何故かカイトはつまんなさそうにしていた。
カイトが元気そうで良かった、でも今俺はそれどころじゃない。

思い出話はまた今度しようと言って、行こうとした。

「そういえばカイウス、最近見ないんだよな」

「…あ、それは…」

「騎士の一人が俺になにか隠してるみたいでさ、お前も知らない?」

カイトが不思議そうに首を傾げていて、俺も気になった。
カイトに隠し事というところではない、カイウスの事を知っているって事か?

カイトに聞こうとして、詰め寄るとカイトの顔が引きつっていた。
カイウスの事を知っているなら、あの場にいたって事だよな。

人の顔を覚えるのが苦手なのか、一生懸命考える。
いくら待っても思い出せなくて、カイトは諦めていた。
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