冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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決断

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「…い、おい、起きろ!」

「ん…ぅ…」

誰かが耳元で大きな声を出していて、ぼやける視界を見つめる。
誰かが俺の腕を掴んで引っ張っていた。
あれ?カイウス、帰ってきたの?おかえり…

覚醒しない頭でぼんやりと考えていたら、目の前がバチッと火花のようなものが見えた。
一気に目の前が見えるようになり、目の前にいるのがカイウスではない事に気付いた。

リーズナは眉を寄せていて、俺から手を離した。
俺もここで起こった事を思い出して、リーズナの肩を掴んだ。

「リーズナ、大変なんだ!早くカイウスに知らせないと…」

「この状態見れば大変なのは分かってる、だけどこっちも最悪な事が起きた」

リーズナは周りを見渡して、マシンガン跡が多く残る訓練所に対して言っていた。
こっちでもなにかあって、リーズナのところでもあったんだ。

リーズナの話を聞くと、俺が戦っていた時リーズナは屋敷にいなかった。
まさか襲撃されるとは思ってなかっただろうし、当然だ。
カイウスになにか異変を感じて、カイウスの気配を頼りに向かった。

そこでリーズナが見たカイウスはリーズナの知るカイウスではなかった。
全身から魔力が溢れていて、誰も近付く事が出来ない。
カイウスの魔力の化身であるリーズナですら、魔力に拒まれて弾かれた。

カイウスの名前を呼んでも、それはカイウスには届いていなかった。
青い髪がどんどん銀色に変わっていって、顔は同じなのにリーズナの知るカイウスではなくなっていた。

周りの人間達もカイウスの魔力に直接触れていなくても、やられて倒れていた。
薬を飲んでいても、やはり中身は人間だとリーズナが言った。

その時、奥の部屋から子供が出てきてリーズナは危ないと声を出した。
猫の姿なら力がある者にしか分からないが、慌ててやって来ていたリーズナは人間の姿をしていた。
だからリーズナの声が分かる筈だったが、子供はリーズナを無視してそのままカイウスに近付いた。

いつの間にか子供の後ろには二人の男が立っていた。
その中の一人に見覚えがあった、カイウスが捕らえた三つ編みの男だ。

「そんな、だって力がなくなって牢屋にいるんじゃ」

「…考えられるのは、カイの非常事態で他に使っていた魔力が全部カイに戻って結界とかが弱体化したんだろう」

「だからここの結界も…」

「カイは、俺の事すら分からなくなっていた」

カイウスの魔力が落ち着いてリーズナはカイウスの名を呼んだ。
でも、カイウスはリーズナの方を向かなかった。

子供は嬉しそうな顔をして、カイウスの傍に近付いた。
それも無視して、カイウスは屋敷の奥に向かった。
子供と二人の男もカイウスの後を付いて行って、地下への扉を開けた。

リーズナは必死にカイウスの名前を口にして、カイウスの中に入ろうとした。
リーズナが入るとカイウスは暴走状態になる、それでも今の状態よりはマシに思えた。

人の心を失った、そんな冷たい瞳をしていた。
カイウスがリーズナの方を初めて向いた、そして…リーズナに向かって真っ黒な魔力の塊をぶつけた。
リーズナの体は簡単に吹き飛んで、屋敷の外に追い出された。

高いところからの着地は、長年猫だったから得意だった。
でも、リーズナの体はカイウスの攻撃により穴が開いていた。

「穴って、すぐに手当てしないと…」

「カイの力は俺の源だ、カイが何になってもそれは変わらない…俺が死ぬわけないだろ」

そう言ってリーズナは服を捲って腹を出していた。
大丈夫とは言えない傷がぽっかりと開いていた。
普通の人間なら、こんな会話なんて出来ない…それどころか死んでいる。

リーズナは放っておけば大丈夫だと言うが、信じていいのか分からない。

やっぱり手当てはしといた方がいいと言うと、思いっきり両頬を叩かれた。
痛みでヒリヒリしていたら、両頬を掴まれた。

「他人の心配してる場合かよ、お前…頭から血が出てる…ついでに鼻血も」

「あ…止まってなかったんだ」

「人間はすぐ死ぬ生き物だろ、ちゃんとしろよ…こんな状態だからこそ修行みたいな無茶はするな」

リーズナは手当てするから部屋に入れと引きづられたら。
いつの間にか雨は止んでいたが、俺の心は止む事はなかった。

カイウスが恐れていた事が、こんなに早く起きるなんて…
今朝までは普通だった、いったいカイウスになにがあったんだ?

とにかく、リーズナが言っていた三つ編みの男ともう一人は俺を襲撃してきた男か?
だとすると、子供は神である確率がとても高くなる。

「カイはああ言ってたが、いざそうなると決断しなきゃな、ライム…お前の決断だ」

「俺の…決断?」

俺の髪を水魔法で綺麗にしてくれて、救急箱から消毒液を取り出していた。
頭がズキズキと痛くなりながら、これは治療だと言い聞かせて我慢した。
包帯を頭に巻かれると、やっと終わったとホッとした。

リーズナは救急箱にしまいながら、これからどうするか聞いてきた。

リーズナの中で俺が決める道は二択らしい。

「ここに留まってひっそりと暮らす」か「この国を出て、誰も知らないところに行く」かだ。

「なんでその選択にカイウスを助けに行く選択がないの?」

「お前はまだ未熟だからだ、カイは俺に攻撃をしてきた…躊躇ない本気で殺す力だ」

「リーズナを忘れてるなら…俺の事も忘れてるよな」

「カイを止める方法はカイを殺す以外にない、お前に出来るのか?カイを殺す決断が」

「…っ」

リーズナの瞳は本気だった、本気でそれしか方法はないと言っていた。
カイウスの姿を目の当たりにして、助けるなんて浅はかな考えだったとリーズナは思い知らされた。
カイウスの元の人格がまだ残っているかも分からないし、最悪…もうカイウスはいないのかもしれない。

本気のカイウスに敵う人は例外なく、誰もいない。
俺も戦う決意をしても、死に行くだけだから逃げる事を考えていた。

リーズナもカイウスに近付く事が出来ないから、何も出来ない。

カイウスを助けるなんて、夢物語だったんだ。

……夢物語、だとしても俺はとっくに決断している。

「カイウスは今、一人で自分自身と戦ってるんだよ…俺はカイウスを一人にしない」

「一人にしないってどうする気だ、まだお前の力じゃ何も出来ないだろ」

「やる事は沢山あるよ、俺は絶対にカイウスを殺さない…守るって決めたから」

それしか方法がないって言うなら、俺は他の方法を絶対に探す。
時間が掛かっても、カイウスを助けるために…

カイウスと過ごした大切な時間は夢になんかしない。
リーズナは「お前は殺す覚悟より、死ぬ覚悟を選んだのか」と言っていた。

死ぬ覚悟なんかしてないよ、だってカイウスが戻ってきたところを俺は見たい。
どちらが欠けても意味がないんだ、人生に欠かせない存在になったからね。

「…まぁ、カイウスの話はこのくらいにしてお前の話を聞くか、なにがあったのか」

「マシンガンを持った人と喋る鷹が来た」

「……は?」
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