冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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カイウスの話42

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ローズは普通に俺にするようにお茶を出して部屋を出て行った。

ローベルト家に寝返ったのか?でも昨日会った時は普通に感じた。
ローズが何を考えているのか分からない。
ローズの事が気になるが、今はローズの事よりハイドレイに集中しよう。

ローズが部屋に入って来たからか、ハイドレイは冷静さを取り戻した。
同期に謝ると、部屋から追い出された。

目的は達成出来た、ユリウスが関わっている事も分かった…もう十分だろう。

『ハイドレイ、もう戻ってこい』

「でも、まだ薬だけじゃ弱いです」

『薬だけじゃない、ユリウスとの関わりも分かったし、ユリウスも一緒に調べる事が出来る…慌てていたら失敗に繋がる…だから』

「でも、せっかくローベルト家に潜入出来たのに薬だけなんて」

『お前はローベルト家に入る事が出来た、これから自由に入れる…疑われたらそれで終わりだ…戻ってこい』

ハイドレイはさっき同期に疑われた、それ以上疑われたら本気で命が危ない。
行きたい気持ちを押し殺してハイドレイは「はい」と返事をした。

これからハイドレイは、薬を口実にいつでも入れる。
慌てる必要はない、ユリウスとの関わりを知っただけで成果がある。

まだユリウスを指名手配出来るほど情報はないが、ユリウスを調べていけば見えなかったなにかにたどり着くかもしれない。

ローベルト家がなかなか尻尾を出さないから行き詰まっていたところだ。
あの捕まえた男も何をされても神については言わなかった。

少しでも進展すると思っていたが、何も変わらなかった。

ユリウスならそこまでの忠誠心はローベルト卿になさそうだから期待できる。

ハイドレイは正面から出る事が出来るから、屋敷の玄関に向かった。

「もう、帰るの?」

後ろから声が聞こえて、ハイドレイと繋がっている目がチリッと痛みが走った。
片目を押さえて、俺は咄嗟に「振り返るな!!」とハイドレイに叫んだ。

もう遅くて、ハイドレイは後ろを振り返っていた。

後ろにいたのは真っ白な着物に真っ白な髪の少年だった。
ハイドレイも俺と繋がっているから、片目を押さえていた。
そこを押さえられるとハイドレイの行動が分からなくなる。

なんで呼び止められたか分からないが、とりあえず優しく声を掛けていた。

あの顔はアイツだ、ハイドレイをアイツの近くに居させるわけにはいかない。

『ハイドレイ、早く屋敷から出ろ…その子供に構うな』

「カイウス」

子供の口から俺の名前が出てきた、どんな姿でもやはり神には変わりない。
俺の魔力に気付いたらしく、俺の名前を連呼する。
その度に頭が痛くなる、ハイドレイは頭まで痛くはなってなさそうだ。
ハイドレイの目を通して俺に直接語りかけているんだろう。

振り払えば玄関は目の前だから簡単だが、ハイドレイはそれが出来ないみたいだ。
相手がどんな凶悪な奴か分からないから呑気なんだろう。

その時、何処からか爆発音が聞こえた。

上を見ると二階から煙が出ていて、外にいた兵士達が皆中に入っていく。
ハイドレイは一階にいるからハイドレイではない。

覆っていた手を外して、ハイドレイの目線が見えるようになった。
もうそこには子供は居なくて、ハイドレイは周りを見渡していた。

今なら周りに人はいない、ハイドレイを連れ出すチャンスだ。
正面のドアを開けると、ハイドレイが立っていて俺に気付いた。

「あ、カイさ…」

「さっさと行くぞ」

「分かりました」

爆発音の正体が何なのか分からないが、ローベルト家の内輪揉めで構っている暇はない。

行こうとしたら二階から何かが投げ出された。
咄嗟に手を伸ばして、それを受け止める。

服がところどころ破けていて、いつもと違う姿をしていた。
ハイドレイだけは逃そうと、早く屋敷から出ろと言った。
戸惑っていたが、俺達に背を向けて行った。

ハイドレイが騎士でも、人間のハイドレイが薬で強化された人間と戦って無事で済むわけがない。
さすがの俺も敵の本拠地で二人を守るのは難しい。

「…カ…イ…さま」

「何しにここにいるのかは後で聞く、後ろにいろ」

ローズを壁に寄りかからせて、剣を引き抜いた。
リーズナにライムを頼んだから俺はリーズナなしで戦う。
剣に力を込めて、氷をまとい俺達の周りにいる兵士達を見つめる。

皆薬を飲んでいるのか、手に魔力の気配を感じる。
その真ん中には、あの鎧の男が立っていた。
この男の魔力はやっぱり感じないが、力は人間の中では一番強いのではないかと思う。
鎧の男が向かってくるのと同時に、周りもいっせいに魔力を解放した。
剣を振り、周りを氷漬けにした。
他の兵士の魔力を打ち消して、剣を前に振って、男の攻撃を受け止める。、

すぐに振り払って、ローズの前まで戻り兵士の攻撃を剣で払う。
俺がローズを守っている事に気付いてローズに攻撃してきたか。

鎧の男は俺達の方に距離を縮めて攻撃を仕掛ける。
片手で剣を使って受け止めて、もう片方の手で魔力を込める。
風の力を手のひらに込めて、前に手を伸ばして一気に放出した。

鎧の男を突き抜けて後ろにいる何人かの騎士が吹き飛んだ。
鎧の男は吹き飛ばず、無表情で重い一撃を振り上げた。

剣を握る手を両手に戻して、剣を受け止めると足が床をへこませた。
重い、少し気を緩むと俺の体は真っ二つだろうな。
剣を握る手に力を込めると、剣をまとっている魔力がより強くなり冷気に満ちていく。
その冷気は剣と重なっている鎧の男の剣まで凍っていく。

鎧の男はすぐに俺の剣を振り払い、距離を取った。

その時、背中に強い衝撃を感じてなにが起きたのか一瞬分からなかった。
体が熱い、なんで突然こんな熱くて苦しくなるんだ。

誰かが俺を後ろから抱きしめている、ライム?…いや、違う…コイツは…

「ロー…ズ」

「カイ様を助けられるのは私だけなんです、お許しください…全ては貴方のため」

ローズが俺から離れて、手には小さなナイフが握られていた。
俺の中のなにかにヒビが入っていく、それが広がっていき中のものが溢れてくる。

俺の全身から、魔力が溢れてくる…その異常な力の量に耐えきれず叫んだ。

俺が俺でなくなる、俺という器が破壊される音が聞こえた。
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