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二人のカイウス

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「そんな事があったんだ」

「でも心配しなくていい、あれは神が惑わそうとしていただけだ…俺はもうあんな自分を好き勝手させないから」

カイウスに聞いた話は、新人を教育していて俺に似た姿のなにかを見つけて向かったらカイウスと同じ顔の人がいた事だ。
その人は普通の人じゃなくて、その人になにかを当てられたらカイウスの魔力が可笑しくなった。

なんでかは俺にも分からないけどいい事でない事は分かる。
カイウスはああ言っているが、心配するなと言う方が無理がある。
本当に神の仕業?だとしたら、カイウスが危ない。

本当は安全な場所にいてほしい、危険な目に遭ってほしくない。
でもカイウスはそういうわけにはいかない立場だ。
カイウスは騎士団長だ、この国の人達を守っている。

今の俺はただ、カイウスを送る事しか出来ない。
俺にもっと力があれば、今すぐ飛んでいけるのに…

「ライム、泣いているのか?」

「……えっ?」

カイウスが俺の目元を指で拭ってくれるまで気付かなかった。
濡れている指を見て、自分でも目を拭う。

俺がカイウスを抱きしめていたのに、今度は俺が正面から抱きしめられていた。
カイウスの体温はいつも通り温かくて、優しかった。
背中を撫でられると、気持ちが良くてカイウスの背中に腕を回す。

リーズナは気まずそうに『そろそろ俺の話もいいか?』と言っていた。
リーズナの事すっかり忘れていて、カイウスに向けていた顔をリーズナに向ける。
カイウスは俺をずっと見ながらカイウスの話を聞くつもりらしい。

「どうした、リーズナ」

『外に黒い鳥が飛んでいた』

「鳥?…魔力のある生き物は俺の許可なくして入れない筈だ」

『俺の思い過ごしならいいけどな、二回も見たからな』

本当はリーズナは今日しか鷹を見ていない。
でも、俺が見たとなると修行がバレて訓練所が閉鎖されでもしたら困る。
だから見たのはリーズナだけとして、カイウスに話していた。

小鳥も会話に参加しているのか小さく鳴いていた。

カイウスは鷹に心当たりがないのか、よく分かっていなかった。
でも、怪しいものは警戒が必要だとリーズナに言っていた。

それ以外に何か言いたそうだったが、俺の事をチラッと見て何も言わなかった。
俺に言えない話?…二人にしか分からない会話もあると思うし、俺は先にお風呂入ってくると言って食堂を出た。

一回入ったけど、まぁいいかな…お風呂から上がったらまたカイウスをマッサージしよう。






※カイウスの話

ライムはリーズナの気持ちを分かって外してくれた。

「ライムに聞かれたくない話ってなんだ?」

『お前が心配掛けたくないって思うからだ、カイ…お前が聞かせたくない話だ』

俺の体の中で起きた異変は、俺よりも生まれる前から俺の魔力の中にいたリーズナの方が詳しい。
一時的でも異物が入ってきて、リーズナはなにかに気付いたんだろう。

リーズナは『お前の中にノイズが混じってる』と言った。
ノイズ…それが、あの異物の事だろう。

危うくリーズナも引っ張られて、俺が完全に裏の人格になるところだったと怒っていた。
それは悪いと思ってる、リーズナもある意味俺だから…

突然知らない奴に好き勝手掻き回されたらリーズナもいい顔はしない。

『お前に似た男がいたんだな』

「…あぁ、誰かは分からない」

『それって本当にカイなんじゃねぇの?』

俺が分裂したとでも言うのか?そんな事をした覚えはない。
そう言うと、リーズナは疑うような顔を向けていた。
こんな事で嘘をついたって俺に何の得もないだろ。
それに心当たりがあればとっくにそう言ってる。

リーズナは『なにかきっかけがあったなら、それが分裂の原因かもしれないんだけどな』と真剣な顔をして言っていた。
俺が二人存在した事があるとか言っていたが、そんな事をしてたら真っ先にリーズナが分かるだろと思った。

暴走した俺は人格こそ離れていたが、体は一つだ、二人存在する事にはならない。
そもそも二人いたら誰かが言ってもいいものだが、話を聞いた事はない。

そういえば、不思議な事は前にあったな。

俺がライムにプレゼントした覚えがない耳飾り、そこから俺の魔力を感じた。
この世界に作られたものではない魔力を出せるのは俺か神くらいだ。
ライムが神から貰ったものを大切に身につけるわけがない。

それに糸から流れる電流は、やはり魔力だ。

「やっぱりライムにも話す」

『いいのか?心配掛けたくないんだろ』

「ライムはなにか知っている気がする、それにライムに隠し事はしたくない」

立ち上がって、食堂を後にしてライムがいる風呂場に急いだ。
隠し事はしたくないが、巻き込みたくないという気持ちもある矛盾。
きっとこの話をしたら、俺を手伝いたいと言ってくれるだろう。

本当にライムにこの話をする事が正しいのか分からない。
無駄に心配掛けるだけだって、ライムの事を思うなら、一人で調べて解決した方がいいって思う。

風呂場の扉の前で足を止めて、こんなに近くに来たのにまだ迷っていた。
巻き込んでしまった事はもうどうする事も出来ないだろう。
だからこそ、これ以上ライムを悲しませたくない。

俺の勝手な願いだ、ライムを失うかもしれない…それが怖い。
俺の、一番弱く神に利用される隙を与えてしまう心だ。

風呂場のドアが開いて、ライムが驚いた顔をしてこちらを見ていた。

「カイウス?どうしたの?話は終わった?」

「ライム、俺が俺でなくなったら…」

俺がライムを傷付ける前に、少しでも俺という人格が残っている間に…俺を…
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