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魔力禁止

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だけど、リーズナがいない状態だと器に蓋をしていない。
そうすると俺がキスをしても、安定出来るかどうか分からない。

その状態でカイウスが暴走し続けると、器がカイウスの魔力に耐えられなくなり破壊してしまう。
その後カイウスは底なしの魔力に体が蝕まれて、どうなるかは分からない。

カイウスの髪色が見た事がない色をしていたのは変化の前兆だとリーズナが言っていた。
今のカイウスの器は壊れるまではいかなくても、器が傷付いているのかもしれない。
実態がないから、今器がどうなっているのか分からない。

あの時は元に戻ってくれたが、また同じように事があれば…

「俺の力でもカイウスをどうする事も出来ないなんて…俺の力もカイウスと一緒に成長出来たら」

『悪魔の力はどうなのか分からねぇが、俺は感謝してるぞ……お前がいるからカイは安定してる』

「確かにそうかもしれないけど、カイウスに魔力を使わせてしまうのも俺のせいだ」

今後、カイウスに魔力を使わせないようにしようとリーズナと約束した。
使わなければカイウスの器が壊れる事はない。

ちょうどその時、カイウスが帰ってきて話を終わらせた。

宮殿は修復するのに時間が掛かり、他の安全な場所に連れて行ってもらった。
カイウスの屋敷も完全に安心とは言えない。
何処になにがいるのか分からない。

だからローベルト卿が来る事が出来ずに、カイウスが安心出来る場所。

来たのは騎士団の兵舎がある敷地内で、首を傾げた。
今は夜遅いからか、消灯時間なのか…真っ暗で静かだった。

さすがに騎士団の人達に紛れて生活していたらいずれバレてしまうのではないか?

そう思っていたら、兵舎をそのまま素通りして裏庭にある茂みを掻き分けて歩く。

そこにあったのは、何年も使われていないのか建物のほとんどが苔で覆われていた。
見た目は広そうな洋館だが、人が住んでいるとは思えない。

「ここは?」

「騎士団の旧兵舎だ、城から遠いし立地も悪いから閉鎖されたんだ」

「そうだったんだ」

「ライムをこんなところに住まわせたくはなかったが、最終手段はここしかないんだ…我慢してくれ」

「俺は全然大丈夫だよ!慣れてるし!」

カイウスは俺の言葉に眉を寄せていて、慌てて「大丈夫だから!」と無理矢理誤魔化した。
ローベルト家でも、寮でも似たような場所に住んでいたから大丈夫。

カイウスがずっと渋っているのは、苔だらけの洋館以外に理由がありそうだった。

「ここは本当に最後の最終手段だ」と念を押していた。

洋館は悪戯に誰かが入ったり壊したりしないようにカイウスが結界を張っていたみたいだ。
手に触れると結界は壊れて、持っていた鍵で扉を開けた。

俺に手を差し伸ばしてきて、俺は怖くないから平気だと言った。
カイウスと手は繋ぎたいけど、ここで住むならちゃんとしているところを見せたい。

そう思ったが、カイウスは強引に俺の手を握って洋館の中に入った。

明かりはないのか、カイウスが魔力で明かりを灯そうとしていた。
だから俺はカイウスの手を握るとびっくりしていた。

「ライム、危ない…どうしたんだ?」

「大丈夫!俺が明かりを付けるから!」

「待てっ!ライム!」

カイウスに魔力を使わせるわけにはいかない。
俺のイヤーカフの糸からは電流が流れる。
だから上手くすれば明かりが灯る筈だ、俺でも出来る事は積極的にやる!

カイウスと手を繋いだままだと、カイウスに当たってしまう。
俺程度の力なんて何とも思わないんだろうけど、カイウスに当ててしまう事は一番嫌だ。

カイウスから離れて明かりが灯りそうな場所を探す。
カイウスは慌てていたが、ここに敵なんているわけないから心配しすぎだ。
暗いから電流で周りを照らそうとイヤーカフに触れた。

俺がその後すぐにカイウスの頑なに手を握っていた意味を理解した。

足元が大きな音を立てて、沈んでしまった。

カイウスが怖いからという理由だけで、手を握るわけないよな。
慌ててカイウスは俺に近付いてきて、助け起こしてくれる。
真っ暗で見えない筈なのに、リーズナの冷ややかな視線を感じる。

「先に言っておくべきだった、もしかしたら大丈夫かと…」

「俺が一人で突っ走った自業自得だから」

手入れを長年していなかったから危ない場所になっていたみたいだ。
カイウスが魔力で洋館を照らそうとしていたから、俺はまたカイウスを止めた。
二回も止めたら、さすがのカイウスも変に思うだろう。

カイウスも自分の事だから器の事は知っている筈だ。
でも、器が心配だからという理由だとカイウスが知ったら、きっと大丈夫だと言うだろう。
俺に自分の事を心配されるのは嫌だろう、そうなったら大丈夫だと証明させるためにさらに無理をさせてしまう。

だからカイウスには俺が器の事を知っていると知られてはいけない。

だから俺は自分の住む場所くらい自分でどうにかしたいとカイウスに言った。
明かりを付ける事くらい、俺でも出来る。

「…ライムがしたいなら…でも、無理だけはするなよ」

カイウスは寂しそうな顔をしていたから、カイウスを正面からギュッと抱きしめた。
突然の事に驚いていたが、背中に腕を回してくれた。

俺はカイウスを尊敬してるし、信頼してる。
他の誰かじゃなくて、この命を宿してからずっとカイウスだけだ。
だから、ごめんね…カイウスのためなら俺は隠し事を貫き通す。

カイウスから離れて、イヤーカフを耳から外して糸を出した。
また何処の床が抜けるか分からないから、明かりを灯す場所はカイウスに見つけてもらった。

「古いがまだ使えそうだな…埃が被ってるが、それを利用すれば小さな力でも十分な明かりになる」

カイウスは壁に掛けてあった蝋燭を見つけた。
そこに集中して、電流をまとった糸を投げると蝋燭の先に擦れて小さな火花が起きた。
一つだけでもかなり洋館の中は明るく照らされていた。

あまり明るすぎると、誰かが住んでいると騎士団の人にバレてしまう。
もう一つくらいで、足元を照らすのは十分だ。

もう一度、同じようにして明かりはこのくらいで大丈夫だろう。

「床は抜けやすくなっているし、そうでなくても二階は危険だから二階には行くな」

「うん、一階だけでも部屋が多いし二階は行かないよ」

「床の状態を調べるからちょっと待ってて」

「俺も手伝うよ!」

この広い洋館の中、カイウス一人にやらせるわけにはいかない。
「俺がライムを呼んだんだから俺が調べるのは当然だ」とカイウスは言うが、それなら住むのは俺だから俺が調べるのも当然だ。

カイウスは俺が足を床に持っていかれた事が衝撃だったのか、手を繋ぎながらならと許してくれた。
今度はしっかりと外れないように握りしめていた。

軽く踏むと、丈夫な床と脆くなった床が分かる。
脆い場所は分かりやすいように×印を書いた。
ついでに掃除もして、終わった頃には外は明るくなっていた。

掃除も、最初よりはマシになった程度でまだ掃除する必要もあるが、カイウスは仕事があるから後は俺がやると言った。
抜ける底の場所は一応全てやったからもう大丈夫だ。

リーズナを傍に置いてくれるみたいで「なにかあったらリーズナを通して知らせてくれ」と言ってカイウスを玄関前で見送った。
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