冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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戻ってきた元の場所

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遡る事、数十分前。

カイウスの防御が破られて、俺は自分の身は自分で守る事にした。
刃を通さないほど強い糸が俺の手を守ってくれていて、槍を払った。

一瞬驚いていたが、男はすぐに槍を俺に向けて振り下ろした。

俺の手には電流が流れていて、殴る事が出来たら人じゃなくてもダメージを与えられる。
槍を殴りつけて回避しながら距離を縮めていく。

男は眉を寄せながら槍を上に向けていて、初めての行動に何をするのか分からなかった。
槍を振り下ろしたから、さっきのように拳で払おうと思った。
もう少し、後もう少しで俺の手が男に届く筈だ。

そう思っていたら、槍は俺に向けられたものではなく地面に突き立てられた。
大きな地震となり、足で立っているのがやっとの状態になった。
バランスを整えていたら、男は俺の襟を掴んで引き寄せた。

「調子に乗るなよ、人間が」

そう言って俺の体を簡単に投げ飛ばして、空間の壁に強打した。
頭がガンガンする、全身痛い…でも、ここで負けたらカイウスに会えなくなる。
そんなのは嫌だ、絶対にカイウスに会うんだ!拳を握りしめて向かう。

男の槍の攻撃はさっきよりも早くなり、避ける事が出来なかった攻撃は俺の体に傷を作る。
それでも走る事を止めず、男に向かって殴りつけた。

俺の攻撃が通って、男以上に俺の方が驚いていた。
足で踏ん張られて、吹き飛ばす事は出来なかったがダメージは与えられた。
ポタポタと地面を濡らす真っ赤な血がだんだんと広がっていく。
鼻血を服の袖で拭って、地面に出来た血を踏みつけた。

「マジで面倒くせぇな、早く死ねば楽になるのによ!」

男が槍を握りしめて俺に向かってきて、距離を取ろうと後ろに下がった。
その時、後ろから誰かに引き寄せられて前に集中していたからびっくりした。

男は俺に向かって攻撃するのをすぐに止めた、まるで後ろにいる人物を傷付けないかのようだった。
カイウスが来てくれた、それが嬉しくて…カイウスの名前を呼んだ。

でも、カイウスはいつもと様子が違って苦しそうだった。
カイウスの後から神がやって来て、男と話をしていた。

神がカイウスになにかしたのか、普通じゃないカイウスの姿に怒りが込み上げて来た。
カイウスはそれ以上に情緒不安定な状態になった。

俺が傷を負ったから、カイウスの顔はみるみる悲しい顔になった。
魔力も暴走して、カイウスの髪が真っ黒に変化した。
黒髪のカイウスにはもう何度も会っているが、それだけじゃなかった。
髪の色素が抜けたように、灰色に変化してしまっていた。

この色は、まるで神の髪色のようで凄く嫌だった。

カイウスを助けないと、取り返しが付かなくなる前に…

カイウスを全身で受け止めて、元のカイウスに戻るように願った。

そしてカイウスは元に戻ってくれて、宮殿も取り返す事が出来た。
ただ、派手に暴れてしまったせいで人が住めるような環境ではなくなっていた。

神はいなくて、見捨てられて倒れている男しかいなかった。
カイウスは男の両腕を掴んで、引きずっていた。
手招きされたから、俺も少し後ろから付いて行った。

宮殿を出ると真っ暗で綺麗な夜空が広がっていた。
こんな状態じゃなかったらゆっくりと眺めたいんだけどね。

「コイツを牢獄に入れておく、ライムは少し待っててくれ」

「大丈夫?人じゃないんでしょ?」

「今はただの人だから大丈夫だ、また悪さしないように管理しておかないといけない」

そう言って、カイウスはリーズナを呼ぶと木の影から出て来た。
あの世界にリーズナはいなかったから、久しぶりの感覚だ。

リーズナも心配していたのか、カイウスに『何処で何してたんだ!』と詰め寄っていた。
カイウスはリーズナの質問に一言も答えず、俺を守るように言っていた。
不満そうな顔だが、渋々カイウスから離れて俺の足元にやってきた。

さっきの怪我があるからか、俺を木の影に隠して自分も結界を張っていた。

「神が外までやってきて結界を破るとは思えないからこれくらいしたら大丈夫だろうが、なにかあったらすぐにリーズナに伝えるようにしたから…」

「ありがとう、何から何までごめんね」

「ライムが謝る事じゃない、俺が悪いから」

カイウスは何も悪くない、怪我をしたのは俺の不注意だしむしろカイウスは良くしてくれた。
そう言いたかったのに、その前にカイウスは男を連れて行ってしまった。

自分の鋼の手を見つめながら、俺はカイウスの帰りを待った。

夜は冷えるのに、結界の中はとても暖かかった。
カイウスの優しさを感じて小さな声で「カイウス」と呟いた。

よく状況を分かっていないリーズナは俺を見て首を傾げていた。

『なんだ、その手』

「あ、これはね」

説明しようとしたら、手に巻きついていた糸が解けてイヤーカフの中におさまった。
リーズナだけ知らないのは悪いよな、もう一人のカイウスみたいなものだし…

あの世界で起きた事を話すと、リーズナは地面を見つめていた。
なにか思う事があるのか、考えて最初に口にした言葉は予想外の事だった。

てっきりカイウスの無事を聞くと思っていたが『その世界に俺はいないのか?』と聞いていた。

ゲームではリーズナが出て来たのに、不思議な事にリーズナはいなかった。
神がローベルト卿と一緒に殺したのかは分からない。
ローベルト卿の部屋を使うために邪魔なローベルト卿を殺したのは分かる。
でも、なんでリーズナまで殺す必要があるんだろう。

「いなかったよ、なんでなんだろう」

『俺がいないのに、カイは暴走したのか』

リーズナの言葉に、確かにいつもリーズナを吸収して黒髪になっていた。
リーズナを吸収しなかった時もあった、でもあの時は可笑しかった。

地下で黒髪なのに全くの別人に見えたあのカイウスのようだ。
怖くもあり、危ういカイウス…カイウスの体になにが起きているんだ?

リーズナは俺に魔力の器について、一つ一つ話してくれた。

カイウスの心の中には目に見えない魔力を溜める器がある。
その器は普通なら魔力を使うと減って、休むと回復する。
でも、カイウスが暴走すると魔力の回復が尋常じゃない量になる。
下手をすれば、どんなに魔力を使っても溢れて止まらなくなる。

だからリーズナがいつも魔力が溢れないように蓋をしている。
それでもダメな時は俺の力でカイウスの魔力を安定させる。
今では自分である程度の暴走ならコントロール出来るようになった。
そうして、カイウスは今まで普通に暮らしていた。
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