冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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カイウスの話32

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「その大会って、いつの話だ?」

「ついこの間の話です」

「……一年前じゃなく?」

「一年前?何故ですか?」

時間が可笑しい、そしてローズに婚約って何の話か聞こうとしたらローズは当たり前のようにそんな話をしていた。
俺ではない俺が、なにかしたという事なのか?ローズが嘘を付いているようには見えない。

そこで、俺はある事を思い出してそうなのかと思った。

神は宮殿に結界を張り、俺とライムは結界の中に入った。
結界は神の力そのもの…この世界は神が俺に見せている世界だ。
きっとライムも同じものを見ている筈だ、しかもライムを殺そうとしている神の事だ…ライムには嫌なものを見せているのかもしれない。

ライムに会いたいが、まだローベルト家に近付く方法が分からない。

「カイ様、やはりそうなのですね」

「…なにがだ」

「マリーの事を忘れて、気分も悪そうで…」

「忘れてない、マリーもローズも皆覚えている…ただ、身に覚えがない話をさっきからお前がしているだけだ」

「マリーとの出来事だけ忘れてしまったのですね」

ローズはそう納得していたが、俺はそうじゃないと首を横に振った。
忘れた事なんて一つもない、ないものを思い出す事は出来ない。

なのにローズは俺を勝手に「記憶喪失」だと言った。

俺ははっきり言わないといけないと思い、ちゃんと言った。
俺にはマリーではない好きな相手がいて、その子以外なんて考えられないと…

すると、ローズは顔色を変えて俺に詰め寄ってきた。

「カイ様!まさか今日誰かになにか言われたのですか!?カイ様の記憶がない事をいい事に…」

「昨日今日の話じゃない、俺は子供の頃からあの子が好きなんだ」

「子供…それはマリーの事では?」

「……」

「幼少期の頃マリーはカイ様に助けられて、恋に落ちたそうです…カイ様も覚えていたではないですか」

ダメだ、何を言っても無理矢理結びつけられる。

ローズは俺の記憶を取り戻すんだと張り切って行ってしまった。
その日は食事もする気分じゃなくて、そのまま着替えて眠りについた。

この世界をどうにかしないと、俺の怒りが爆発しそうだ。

変な時間に寝たからか、起きたのは真夜中だった。
少し寝たら、だんだん冷静になってきて腹も空いた。

なにか厨房で食べようかと思って部屋を出た。

もう皆寝静まった廊下を歩きながら厨房に向かう。

そういえばリーズナがいなかったな、俺の体から出たが一緒に宮殿には行かなかった。
まだ本調子ではないリーズナにこれ以上負担を掛けるわけにはいかない。

でもこの世界が俺の知らない世界ならリーズナもいるかと思ったが、何処にいるんだ?
まぁリーズナの事だ、また何食わぬ顔で近くにいるんだろう。

そう思って歩いていたら、何処からか大きな音が聞こえた。
まだ誰か起きていたのか?こんな夜中にいったい何をしているんだ?

誰かの部屋から音がするのかと思ったが、ドアが開いた倉庫から小さな灯りが漏れていた。
もしかして、盗人か?何度か見た事はあったが、捕まえていくうちに居なくなったと思っていた。
灯りに近付いて、すぐに捕まえられるように警戒する。
床に置いていた蝋燭台を持ち、倉庫の中を照らした。

てっきり盗人か、使用人の誰かだと思っていた。
そこにいた人物を見て、何故ここにいるのか信じられなかった。

まだ疑心暗鬼で名前を呼ぶと、俺の名前を呼んだ。

…ライム、本当にライムなのか?…でも、なんでライムがここに?

ライムに近付くと、上になにかが乗っているのが見えた。
それは使えなくなった武器だった、あの大きい音の正体はコレか。
ほとんどが折れたり、切れなかったりだから殺傷能力はないが落ちてきたら話は別だ。

急いでライムに近付いて、武器を退かして座らせた。

「腫れてる、痛みは?」

「さっきはかなり痛かったけど、今はそうでもないよ」

「麻痺してるのかもな」

ライムの足は痛々しいほど青く腫れていて、唇に触れて治癒魔法を掛けた。
腫れはみるみる治っていき、綺麗な足に戻った。

「ありがとう」と言うカイウスに微笑もうと思ったら、目を見開いて驚いた。

ライムは何故、俺の家のメイドの服を着ているんだ?
可愛いけど、メイドの服をライムにプレゼントした覚えはない。
ライムも自分の今の格好を思い出して慌てていた。

「こっ、これは違う!!」

「なにが?」

「いや、趣味とかじゃなくて…事情がありまして」

「そう…俺にはどっちでもいい」

感情のままに体が動いて、ライムを無意識に抱きしめていた。
耳元でライムが「カイウス?」と呼んでいる声が聞こえる。

俺の知らない世界で、知らない記憶と知らない人物達がいる中不安だった。
もしかしたらライムも俺の知らないライムなのかもしれないと思っていた。

俺の知らないライムで、俺達の過ごした時間を忘れていたら…俺はどうしたらいいのか分からなかった。

でも、ライムは俺の知っているライムで良かった。

「俺の知ってるライムで良かった」

「カイウスは、俺の知ってるカイウス?」

「ん…?」

「マリーと婚約してるカイウスじゃないの?」

ライムはとんでもない事を言っていて、顔が引きつる。
ライムの口からは言ってほしくなかった、俺自身も分からないんだから…

口で伝えるより、行動で分からせる…それが一番早い。

さっきから誰も俺の話を聞かないから疑心暗鬼になってるのかもしれない。
不思議そうに俺を見つめる愛しいライムの頬に触れた。

最初は軽く唇が触れ合って、ライムの口が少し開いて誘われた。
舌を入れて絡み合って、吸い付いて…ライムの後頭部に触れてより激しくお互いを求めた。

唇を離して、乱れた息をゆっくりと整えてライムの髪に触れる。
赤く色付いた頬に濡れた瞳で見つめられると、ゾクゾクしたものが込み上がってくる。

ライムを押し倒そうと肩を掴むと、その前に俺の肩を押した。

「だ、ダメだって…」

「あ……じゃあ俺の部屋で」

「じゃなくて、俺…初めてだから」

ライムは不思議な事を言う、初めてって…あんなにしたのに何を言っているんだ?
ライムの顔は冗談には見えない、本気で言っているようだ。

確かにこの世界はいろいろと可笑しいが、まさか体を繋げた記憶がなかった事になっているのか?
ない記憶がある事にされるなら逆もあるのかもしれない。

ライムが初めてなら、俺ももしかして未経験なのか?

初めて、か…本当に初めての頃は余裕がなくてカッコ悪いところを見せてしまったよな。

「ごめん、ライム…怖いよな」

「怖いんじゃなくて…初めてだと慣れてないし面倒かと思って……でも、カイウスが俺の知ってるカイウスで良かった」

面倒なんて一度も思った事はない、ライムの感じている顔を見るのが好きなんだから…
だから、そう思わなくていい…また一から一緒に愛を育めばそれでいい。

ライムも俺と同じ事を考えていたのか、この可笑しな世界に二人だけ記憶が元のままなんだな。

ライムを抱きしめて、少しの間でも離れていた時間を埋めるように幸せな時間が流れていった。

その時、腹の音が鳴って…幸せな時間はぶち壊された。
忘れてた、最悪だ…ライムの顔が見えないと思っていたらライムが恥ずかしそうに言った。

「ごめん、俺…ご飯食べるの忘れてて」

「え…?ライムも?」

「その聞き方だと、カイウスも?」

お互いを見て、驚いたがなんか可笑しくて笑った。
さっきの腹はどちらのかは分からないが、そんな事は些細な事だ。

厨房でなにかを作るつもりだったからライムも一緒に行こうと誘った。
でもライムは早朝までに倉庫を掃除しないとと立ち上がってしまった。
掃除?なんでライムが掃除をするんだ?それはメイドの仕事ではないのか?

そこで、ライムの服装をまじまじと見つめる……メイドの服だ。

「ライム、その服って…俺のメイド…?」

「えっと…気付いたらそうなってたっていうか……その…よろしくお願いします、カイ様」

ライムが俺に頭を下げるから、変な感じになる。
いつもみたいにカイウスでいいのに…ライムに様付けされると距離を感じる。

でも、メイドが俺の名前を呼び捨てで呼ぶと…特にローズがうるさい。

二人っきりの時くらい普通に呼んでくれと言った。

棚の埃を取り除いているライムを見つめて、俺のすぐ近くにほうきがあった。
俺もやると、ライムに言うとびっくりされて止められた。

今は誰もいないんだ、俺がやっても誰にも文句は言わせない。
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