冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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カイウスの話31

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「…い、様…カイ様」

「……んっ、ライ…ム」

誰かに名前を呼ばれて、目を開けるとそこには俺が望んでいたのと違う人物がいた。
何故ここに、メイドがいるんだ?

起き上がって部屋を見てみると、いつもと変わらない俺の部屋があった。
俺の家…だよな、でもなんでモーニングコールをこのメイドはしているんだ?

普段は呼んだ時以外メイドが部屋に入ってくる事はない。
朝起こしてほしい時も女のメイドを部屋に入れる事はなくて男のローズに頼んでいる。
ローズもそれは分かっているのか、誰かを代わりに俺の部屋に入れたりしない。

このメイドはローズが勝手に俺専属のメイドにしていたが、やはり俺が寝ている時間は一度も来なかった。

「なんで、ここにいるんだ」

「カイ様がいつでも来ていいとおっしゃってたので、ごめんなさい…迷惑でしたか?」

「…俺、が?」

そんな話をした覚えはない、ほとんど俺は宮殿に住んでいるから部屋に誰もいない時間が多い。
だから誰かが勝手に部屋を出入りする事を許すわけがない。

それに、俺はライムと一緒に宮殿を取り戻しに行った筈だ。
なんで自室で寝ているんだ?此処に来るまでなにが起きたか分からない。

ライムに会いに行こう、何処にいるんだろう…まさかまたローベルト家の奴らの屋敷に…

顔が険しくなって、重いため息を吐くとメイドがびっくりしていた。

「カイ様、どうしたんですか?なんか今日…」

「何でもない、それと君はもう部屋に来ないでくれ…ローズに言われたんなら俺から言っておく」

「…えっ?」

メイドはショックを受けた顔をしていたが、そんなに言い方がキツかっただろうか。
いつもメイドに言っているのて変わらないと思うが…

着替えるからとメイドを部屋から出して、寝間着から騎士服に着替えた。
今の俺がローベルト家に行けば騒ぎになる、でも仕事としてなら不思議じゃないだろう。
国から最重要危険人物とされているから調べていても不思議ではない。
隙を見てライムを連れ出す事が出来れば、それでいい。

部屋を出ると真っ先にローズが近付いてきて、俺と一緒に歩いていた。

「カイ様、マリーに部屋に来るなと言ったそうですね…あまり女性を泣かすものでは…」

「なんで泣くんだ、俺の部屋に勝手に入れる方がどうかしてる」

「それはそうですが…マリーは特別なのでは?」

「何を言っているんだ、メイドに特別も何もないだろ」

確かにたまに騎士の仕事の手伝いをしていたが、それはメイドの仕事内でやっている事だ。
彼女だから許したわけではない、特別というわけではない。

普通の事を言っただけなのに、何故ローズは目を見開いて驚いているんだ?

ローズもメイドもどうしたんだ?なにか変じゃないか?

部屋のドアで見送られて、もやもやとした気分のまま向かった。

俺の知る世界と、何処か違う世界のように感じた。

まずはローベルト卿に関して、俺が知っているのと違う情報が報告書にあった。
薬の話、ローベルト家の兵士が魔法を使う、最重要危険人物になり処刑対象になった。
そのどれもがなく、ローベルト卿の情報は不明のままだった。

「……なにが起きているんだ?」

「カイ様、どうしたんですか?そんなに散らかして…」

嫌な予感がして、資料室で調べていたら後ろから声が聞こえた。
後ろには見回りに出かけていたハイドレイが立っていた。

調べるのに夢中で見ていなかったが、確かに散らかしたな。

片付けながらどうやってライムを助けるか考える。
これじゃあ、ローベルト卿を調べるという理由で行く事が出来ない。
資料を全て片して、資料室を出るとハイドレイがニヤニヤしているのが気になった。

「なにか言いたい事でもあるのか」

「いや、カイ様は幸せ者だなぁ…あんなに可愛い恋人がいるなんて」

「…お前に話した事あったか?」

「あんなに目の前で惚気られたら誰でも察しますよ!俺もいいなって思ってたのに、カイ様に取られて……カイ様じゃなかったら俺もなぁ」

「は?」

「ご、ごめんなさい!調子に乗りました!」

ハイドレイは慌てた様子で走って行って、俺はさらにもやもやした気分になった。

確かにライムとハイドレイは知り合いだったが、まさかハイドレイはライムを狙っているのか?
俺のライムは誰にも渡さない、当然の事だ……感情が激しくなって落ち着かせる。
今はライムがいないんだ、ここで暴走したら騒ぎになる。

ライムと会える事を今は優先しよう、ハイドレイはそれからだ。

でも、その日ハイドレイが言っていた本当の意味を知った。

何故か俺はあのメイド、マリーと婚約している事になっていた。
しかも、騎士団の奴らはほとんどが知っていて祝福モードだった。
だから俺の部屋にメイドがいて、ローズも俺を不思議そうに見ていたのか。

俺からしたら、周りの方が可笑しい話なのにどうなってるんだ。

ローズに詳しい事を聞こうと、仕事が終わって急いで屋敷に向かった。

「おかえりなさいませ、カイ様」

「ローズ、話がある」

「はい」

ローズに声を掛けると、後ろから付いて来て部屋に戻った。
ローズの手には布に包まった細長いなにかを持っていた。

ほうきではなさそうだし、俺への荷物なら帰ってくる時に渡すだろう。
それはなんだと聞いたら、ローズは布を解いた。

中にあったのは折れたガラスの剣で、確か一年前に大会かなにかで優勝した時のかと思い出した。
今まですっかり忘れていた、倉庫に入れた筈だがなんでローズが持っているんだ?

「新人のメイドが壊してしまったのです、罰を受けさせたのでお許しください」

「罰って…今まで忘れていた物だ、いつか壊れる物だから気にしていない」

「……気にしていないって、この剣をお忘れですか?」

「忘れてはいない、俺が作ったものだから」

大会の優勝賞品を何故俺が作ったのかは理由がある。
元々優勝賞品に金があり、俺が参加した理由は騎士団員だったからだ。
あの時はまだ騎士団長ではなかったが、大会は騎士の大会だったから強制参加だった。
力を試すのにいいかと思って、やった結果優勝した。

当然魔法なしの普通の人間として、勝負していた。

賞品を受け取るのは悪いと思って断ったが、ルールだからと押し付けられそうになった。
そこで、何を考えていたのか当時の俺の考えがよく分からなかった。
見に来た観客のためにパフォーマンスのようなものをした。
俺が魔法でガラスを溶かして形を作り、剣にして大道芸のように地面をガラスの剣で凍り付かせた。

結果、俺が優勝賞品を振る舞うようなカタチになり盛り上がって大会は終わった。
終わった後で俺はガラスの剣を壊す気でいたがローズに記念品だからと押し切られて、ローズに預けた。
だから作った本人がもういいと言っているんだから別にいい。

ローズにとってなにが大切だったのかは分からないけど、壊れたんならもう捨てればいい。

「いつまでも気にするな、そんなもの」

「そんなものって、単なる大会の優勝賞品ではありません!カイ様とマリーが愛を誓い合った大切なものです!」

「………は?」

ローズが怒りながら、布に戻して俺に押し付けて来た。
なんだその意味が分からない話は…そもそもこの大会の時はマリーとは会っていない筈だ。

話が噛み合わなさ過ぎて、頭が痛くなってきた。
ローズの頭の中では、俺はマリーのために優勝すると誓って見事勝ち、婚約した話になっていた。
いやいや、俺が参加したのは誰のためじゃない…力試しで戦って優勝しただけだ。

マリーと知り合ってても、マリーのためにはしない……ライムならまだしも、なんで使用人のために戦うんだ?
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