冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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最悪な世界

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カイ…って、カイウス?カイウスがメイドを寵愛?
全然話が見えない、そのメイドっていったい誰の事だ?

サクヤが嫌いなメイドといえば、マリーだけど…カイウスはマリーとそういう関係ではなかった。
乙女ゲームじゃあるまいし、そんな事ありえない。

そこで俺は、そういえばこの世界は乙女ゲームの世界だった事を思い出した。
でも、俺もカイウスももうゲームの世界とは離れて随分経っている。
だから今更きっかけもないのに、カイウスがマリーを好きになるのか疑問だ。

まるで、あのゲームの世界の内容そのものだな。

いや、そんな事……まさかあるわけ、ないよね?

「あの女、マリーを誘き寄せて捕らえるのよ!分かってるわよね」

サクヤの言葉に兵士達が忠誠を誓う中、俺だけが呆然としていた。

カイウス…カイウスに会いたい、カイウスに会えば今の状況を理解出来るかもしれない。
それが俺の知らないカイウスだとしても、会いたい。

目の前のサクヤ達は俺の知らない人達なのは分かっているけど…

引きずられた場所は見た事がない廃屋の中で、こんなところがあるんだと埃っぽくて咳き込む。
作戦のおさらいを話していて、俺は廃屋にあるものを見つめていた。

これって、獣を捕らえる檻だよな…まさかここにマリーを入れるのか?
そういえばそんなものをゲームで見た事があったな。

確か、マリーを捕まえてサクヤがマリーを脅したんだっけ。
それで助けに来たカイウスとサクヤとライムが戦った。
カイウスルートの話だったから、カイウスとマリーは恋人にはなっていないが両片思いだった。

だから寵愛というのも納得出来る、なんでそうなってるのかは分からないけど…

確か、直前のマリーの選択肢でライムって死ななかったっけ?
死ぬか逃げるかして、今後の話に影響をしていた筈だ。

ライムの死亡フラグはいっぱいある、その中の一つだ。
敵の死亡バリエーションをそんなに用意しなくても…と思う。

久々にゲームの事を思い出したから、詳しくは思い出せないが自分の事ならある程度覚えている。

だからマリーが捕まったらダメだ、捕まらないようにするしかない。

「いい?私はここにいるから、アンタ達が捕まえてくるのよ!」

サクヤは楽に待っているつもりで廃屋の中を一緒に待つ騎士に掃除させていた。
さすがに埃の場所に長時間居たくないんだろう。

他の騎士と俺はマリーを連れてくる係みたいだ。

カイウスの屋敷にいるのに、どうやってカイウスの屋敷に潜入するのか…正直サクヤの簡単に話す作戦は分からなかった。
でも、騎士に人気のない場所に連れて行かれた。
カイウスの屋敷がある方向とは別の方向に行くから本当に分からなかった。

俺はマリーを捕まえる事より、カイウスがどうなっているのか気になってるのに…
カイウスがマリーを好きなのを見ても少しはショックを受けるだろうけど、大丈夫だ。
だって、俺の知っているカイウスじゃないって割り切れるから…

何をするのかと思っていたら、突然兵士に服を引っ張られた。
男同士だけど、服を脱がされると顔が青ざめる。

「なっ、何するんだよ!」

「サクヤ様の作戦のためです!ライム様もご了承していた筈です!」

了承って、俺じゃないライムの話をされても分からない。
イヤーカフがあれば動きを封じる事が出来るのに…
いつの間にかイヤーカフがなくなっているだけではなく、俺の体力も落ちている気がする。

まるで俺もゲームのライムになったみたいに感じる。
ゲームのライムはやたら戦闘員にさせられていたが、体力がまるでない。
俺はカイウスに鍛えてもらったし、いろんな事を乗り越えて今の俺がいる。

だからいくら兵士でも、こんな好き勝手されるわけがない!

そう思っても、体は言う事を聞かず服をどんどん脱がされた。

そして完成した姿を見て、顔を引きつらせながら思い出した。

近くの建物の窓ガラスを覗くと、黒い髪の女が覗いていた。

ゲームではサクヤの世話係の女性がメイドのフリをしてマリーに近付いていた。
俺が女装したらバレるに決まってるだろ…サクヤは何を考えているんだ。

こんな姿で人前に出たくないのに、兵士に引きづられてカイウスの屋敷の前まで連れて行かれた。
カイウスに会いたいって思ってたのに、もう会いたくないよ。

兵士は木の後ろに隠れて様子を伺っていて、俺が行かないと早く行けと言わんばかりに石を投げてくる。

「いたっ、痛いって!」

「そんなところで何をしているの?」

投げられた石から逃げようとしたら、声が聞こえた。
可愛らしい高音だが、何処か冷たさのある声だ。

聞き覚えがある声を聞いて、声のした方を見つめる。

そこには腕を組んで俺を見つめるローズの姿があった。

ローズは俺の顔をジッと見つめていて、嫌な汗を掻く。
顔は正直女だって誤魔化せない。

でも俺の顔は長いロングヘアーの前髪で隠れている。
顔を見せなければ、幸薄そうな女だって思われるかもしれない。
幸いなのか、複雑なのか身長は低いし喉仏が隠れる感じのきっちり着込んだメイド服だからヘマしなければバレない。

そう思っていても、緊張する事には変わりがない。
ローズも同じ女装をしているが、この世界のカイウスに信頼されているのはローズだから俺は変態として騎士団に捕まってしまうのかもしれない。

大きな瞳を細めたローズは静かな声で「君…」と言っていた。
自然と背筋を伸ばして返事をした。

「は、はいっ」

「新人?早く仕事に行きなさい」

どうやらローズは俺を新人メイドだって思ってくれたらしい。
声はちょっと低いから心配だったけど、大丈夫のようだ。
サクヤが事前に新人メイドが来ると細工したのだろうか。
犯罪行為をしていなければいいが、サクヤだから大丈夫だと言えない。

ローズにまた疑われないように、小走りで屋敷の中に向かった。
とりあえず屋敷の中に入ったけど、何をすればいいんだろう。
いきなりカイウスに会えるわけないよな、カイウスは普段は気軽に会える人物ではない。

カイウスに何かを運んだり知らせたりする役なら新人メイドでも回ってくる仕事かもしれない。

歩いていると、向かいからメイドの一人が荷物を重ねて台車に運んでいた。

「あっ、ねぇちょっと!」

「…は、はい」

「この荷物、倉庫に運んどいて」

「倉庫って…何処…」

「そんな事も分からないの!?アンタ名前は!?」

急にキレ気味で言われて、びっくりしながら自分の名前を言いそうになって口を閉ざす。
俺の姿を知らなくても、名前だけでローベルト家の人間だってバレるかもしれない。
どのくらいこの人達やカイウスが俺の事を知っているのか分からないから、少しでも危険行為は避けなければいけない。

俺はライまで言ってしまっていたから、メイドは「ライ」という名前だと思っていた。
言い直したら、それこそ怪しい…そのままにする事にした。

今日からの新人だという事を言うと、面倒そうにしながら倉庫の場所を教えてくれた。

台車は使うらしくて、俺は重い荷物を両手に抱えて運んだ。
体力付けていたら楽だったのに、今の体力がない俺ではキツい。

よろけながら倉庫を目指すと、誰かとすれ違った。

あれ?あれってマリー?

慌てているみたいだったけど、マリーかどうか確認する暇は俺にはない。
まずはこの荷物を倉庫に運ばなきゃいけない。
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