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守られるより守りたい

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カイウスと離れて、不安のままローベルト家の兵士の後ろを歩く。
カイウスが迎えにきてくれるなら、カイウスの事を待ちたい。

でも、ローベルト卿がカイウスになにかするって事は対抗するなにかを持っているのかもしれない。
人間だからこそ、なにかをすると感じる方が普通だ。

神相手ではどうにもならないが、相手が父なら俺でもカイウスの助けになる筈だ。
薬で強くなったわけじゃない人間相手なら、俺も戦える。

カイウスに守られる俺ではなくて、カイウスを守る俺になるんだ。

自分の部屋の前にやってきて、ドアを開いて兵士は「入って下さい」と俺を中に入れようとしていた。
ここに入ったら、また俺の自由はなくなる。

カイウスの不安定な人格を見てしまったら、心配でしょうがない。
いつ元に戻るか、またカイウスが暴走するのか分からないし…いつでもそうなる危険がある。
俺のこの悪魔の力はカイウスのための力、カイウスを助けられるのは俺だけだ。

「あの、俺…落とし物をしちゃったみたいで」

「落とし物?」

「それを拾ってきてもいいですか?」

「だ、ダメです!くれぐれも外に出すなとローベルト卿から言われてますので!!」

やっぱり簡単に通してくれないよな、じゃあ自力で取りに行くしかない。
カイウスを助けるために、絶対に必要な俺の力だ。

全く動こうとしない俺に兵士は早くしろと急かしている。
ふと後ろを振り返ると、カイウスの姿が見えた。
やはり、父の部屋に入り…俺には気付いていないみたいだった。

今はまだカイウスを助けられない、イヤーカフさえあれば…

痺れを切らした兵士が俺に向かって手を伸ばしてくる。
鎧を付けていても、弱点の隙は必ずやってくる。

部屋の中に一歩足を踏み入れて、その足を思いっきり回し蹴りした。
まさか反撃されると思っていなかったのか、兵士は少しよろけていてそのまま走り出した。
ここから逃げられるなら、完全に倒れるまでやる必要はない。

そもそも俺達以外の人が大勢いる場所で戦ったら、兵士の人数が増えるだけだ。
武装している兵士を影に隠れて気絶させるなんて暗殺力は俺にはない。

後ろから数人の兵士が追いかけてくるけど、鎧が重いのか俺に追いつく人は誰もいなかった。
イヤーカフを最後に使ったのは屋敷の近くだった。

そこまで戻って、屋敷に戻る事を頭の中で想像する。
カイウスを助けるためには必ず屋敷まで戻る必要がある。
イヤーカフさえ戻ってきたら、兵士を電撃で気絶させられる。
カイウスがいるであろう父の場所まで真っ先に行く事が出来る筈だ。

屋敷のドアに体当たりする勢いで屋敷から出る事が出来た。

そのまま敷地を出ようと走っていたら、地面に太陽の光に反射しているものが見えた。
それはまるで、俺に自分の場所を知らせているかのようだった。

俺のイヤーカフだ、すぐに分かって近付きながら手を伸ばす。
俺を屋敷に運ぶ時に落としたんだ、良かった…見つかって…

ふと、大きな影が目の前を暗くして俺の体はなにかにぶつかった。
横に体が転がり、ズキズキと痛む腹を押さえながら起き上がる。
俺の目の前にリーズナがいた、良かった…無事だったんだ。

元気そうで安心した…と言っていられる状態ではない。
俺とリーズナの間に剣を振り下ろされて、慌てて避けた。

俺を見つめる真っ赤な瞳には確かな殺意を滲ませていた。
カイウスと戦っていた鎧の男がそこに立っていた。

俺は確かに見たんだ、兵士に連れて行かれる時カイウスに負けて死んでいた筈の姿を…
あんな姿で生きているとは思えない、不死身でない限りそんな事…

リーズナは俺のイヤーカフを咥えていて、どうにかしてリーズナに近付こうとする。
しかし、男が剣を振り回していてなかなかリーズナに近付く事も出来ない。
俺を追いかけてきた兵士達も、振り回される大剣に巻き込まれたくないから近付いてこない。

リーズナがここにいるって事は、カイウスの姿は今どうなっているんだ?
最悪の事を考えてしまい、早くカイウスを助けなきゃと焦る。

鎧の男が剣を突き刺して、地割れが起きてバランスを崩した。
避けるというより、転がるようにして移動して…それが精一杯だった。

服が砂まみれになって、体力がどんどん削られていく。
鎧の男は体力も底なしなのか、息を切らす様子はない。
リーズナが鎧の男に向かっていて、俺を狙っているがリーズナも危ない事には変わりがない。

「ダメだリーズナ!今近付いたら…」

『俺の実体はアイツと共にいる!これはただの精神だ!神のところにいる、もう限界も近い…だから!』

俺に向かってイヤーカフを投げて、それを手で受け止めた。
リーズナが言い終わる前に鎧の男に気付かれて、リーズナの体が斬り付けられた。
リーズナの言う通り、それは霧のように空気に溶けて消えてしまった。

目の前でリーズナを斬られた事で動揺しそうになったが、リーズナの言葉を信じて大丈夫だと自分に言い聞かせた。

イヤーカフから糸を出して、鎧の男に向かった。
不死身だろうとなんだろうと、俺には関係ない…俺がカイウスを迎えに行くんだ!

糸を投げると屋敷の二階のバルコニーの柵に引っ掛かった。
鎧の男は剣を振り下ろしたが、俺はワイヤーのように糸に導かれるまま二階のバルコニーに侵入した。
俺の力じゃ鎧の男は無理なのは分かってる、だから無駄な戦いはしない。

俺の優先順位は戦う事じゃない、カイウスを助ける事なんだ。
バルコニーの窓は当然開いていない、どうせ忍び足で入っても兵士達が駆けつけて終わりだ。

コンコンと手を叩いて強度が弱そうなところを確認して、足でガラスを割った。
さすがに素手は痛いかと思って足にしたが、ガラス片が足をかすって痛みが走る。
でも我慢出来ないほどの痛みではない、このまま突き進もう。

誰の部屋か分からないが、部屋を通り抜けようとした。
その前に椅子に掛けてあった大きめの布を掴んだ。
カイウスが元に戻っているなら、隠すものが必要だろう。
布を引っ張ったら、机の上にあったなにかが床に倒れた。

誰かの家族写真みたいだけど、ローベルト家ではなさそうだ。
じゃあ此処は兵士の部屋?でも、こんないい部屋を兵士がもらえるのか?
部屋の外から騒がしい足音が聞こえて、考えるのをやめた。
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