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カイウスの話29

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「もう一度言う、神に会うか死ぬか選べ」

「同じ事を言わせるつもりか?」

せっかくライムの父親だからもう一度チャンスを上げたが、いらないならそれでいい。
氷の剣を振り上げてローベルト卿に向かって走り出した。

その時、床がぐにゃりと体重に合わせて沈んだ。
床から手が伸びてきて、俺の足を掴んで下に引きずり込む。
ローベルト卿がなにかしたのかと思ったが、ローベルト卿も驚いていた。

これがローベルト卿ではないとすると…室内の床に魔力で満ちた空間を作れる奴となれば限られてくる。
それにこの気配……俺は確信して、抵抗する事なく床に出来た空間に身を預けた。

最後までローベルト卿は分かっていなくて、俺に向かって「何処に行くつもりだ!」と言っていた。
俺が逃げたみたいに思われるのは嫌だが、向こうから俺を呼んでいるみたいだ。

手間が省けた。

床を抜けて下の階に落ちるわけではなく、真っ暗な場所に降りた。
部屋とか言い難いその場所は、アイツの気配が充満していた。
息苦しくて、吐き気がする…俺には合わないにおいだ。

「さぁ、こちらにおいで…」

直接脳内に響くような声が聞こえて、まっすぐ進む。
真っ暗が続く空間にほんのりと光が見えた。

ソイツを照らしていて、こちらをまっすぐと見つめていた。

神がいる場所、ここにいる神は本物だろうか。

足を止めて、神をジッと見つめる。
俺と神の間には、鉄格子が塞いでいた。

神ならこんな人間が作ったもの、どうにでも出来るだろう。

「お前が負けるとは思わないが、ローベルトにはまだ利用価値があるからな、今殺されても困る」

「お前は実体があるのか?」

「ふっ、気になるなら触れてみるか?」

「……神が人間に捉えられているのか、笑える」

神の言葉を無視して話題を変えた。
今までよりも立体的に見える、本物なのかもしれない。

だとしたら、何故ここにいる?

神はライムを嫌っているのに、ライムの家にお世話になっているのか。
プライドだけは誰よりもあるであろう神が人間に飼われているとは思えない。

神は俺の言葉にフッと笑っていた。

「私は自分の意思でここにいるんだ、力を誰よりも欲して野望のためには魂を売り払う事も躊躇わない……一番扱いやすいと思わないかい」

「……」

神はローベルト卿の野望に協力している。
ただ、無償でやってるわけではない。

力を欲して野望がある人間なんていくらでもいる。
それが、ローベルト家でなくてはいけなかった。

きっと、ライムがいるからだ…ライムを殺すために利用するつもりか。

力を抑えないと、体の中の魔力が爆発しそうになる。
神の力が充満している理由もあるんだろう。
俺の体には毒でしかない。

「…っ、はぁ…」

「せっかく私の傍に来たから迎えに行こうと精神を地下牢に送ったが、ライム・ローベルトを見たら自分が抑えられなくてな」

「……っ、ラ…イム…には、指一本…触れさせないっ」

「お前が頑張れば頑張るほど私の憎悪はあの男に向けられる、いい加減自分の立場を…」

「俺の質問にだけ答えろ、何故精霊の体の一部を薬にして人間に飲ませたんだ」

ライムの事を悪く言うなら、今すぐその喉を切り裂いてしまいたい。
薬の事を聞いたら、すぐに……氷の剣を握りしめる。

俺の殺気に気付いている筈なのに、神は表情を変えずに笑っていた。
余裕なんだろう、神だから俺より優れていると思っているのか。

だったら試してみるか?俺ならいつでもやってやる。

神は「ローベルトが望んだものを渡しただけだ、人間の体がまともに受け入れられるのは精霊のような弱い力だけだからな」と平然と言っていた。
神と精霊は関わりがないとはいえ、俺にとって精霊は家族のようなものだ。

それを人間に力を与えるためだけに傷付けるなんて…
神の皮を被った魔物だ。
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