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カイウスは舌打ちをして、手に力を込めて氷の剣を作った。
氷の剣は兵士の剣を破壊して、戦意喪失させていた。
座り込む兵士は精霊の力を使っていないから、薬を飲んでいないのだろう。
小さくカイウスの名前を言うと「ライムの前で殺さない、汚いものを見せたくないからな」と言っていた。
内に秘める危うい感じは残るが、さっきの攻撃的なカイウスとは少し違った。
これは俺が知っているカイウス…だよね?
逃げる兵士を見て、すぐに興味を失って俺のところにやってきた。
見るかぎり、さっきと変わったところはない…見た目の話だけど…
なんで急に態度が変わってしまったんだろう。
「なんか変わったところはない?」
「何の話?」
「さっき、変な感じがしたから…」
「分からない、暗いところにいたんだ…いつもみたいに俺はアイツの裏にいた」
アイツとはカイウスの事だろう。
表のカイウスが出ている頃に裏にいつも黒いカイウスはいる。
でも、俺が見たカイウスの姿は裏そのものだった。
性格はどちらとも言いがたい感じがした。
元々裏のカイウスは穏やかな性格ではなかった。
でも表のカイウスがやっている事を否定する性格ではなかった。
表と裏は同じカイウスで、人と精霊のために戦う気持ちは嘘偽りがなかった。
なのにあのカイウスは、精霊のためだけに動いていると言っていた。
確かに精霊を薬にして飲んでいるローベルト家を許せないのは分かる。
でも、あのカイウスは神が俺に向ける以上の憎悪を人間に向けていた。
カイウスが築いてきた全てをなくしても構わないと言いたげだった。
力が溢れているとか、装ってるとか、あのカイウスは変な事を言っていた。
俺を想ってくれているのは分かっていたが、カイウスの本心が分からない。
それに自分の力がまだ万全じゃないのに、神と戦おうとするなんて無謀だ。
あのカイウスはカイウスにとっても、危険な存在だ。
俺を神から守ってくれたカイウスは、表のカイウスのような気がした。
全て俺の想像でしかないが、きっと…そうなんじゃないかと思う。
なんで、もう一人のカイウスが現れたんだろう。
異常なほど力が暴走したせいなのかな。
「ライムの声が聞こえた」
「声?」
「俺を呼ぶ声に導かれたんだ」
声…といえば、あの時俺はカイウスって言わないようにしていたのに口に出していた。
ちかには俺とカイウスと神しかいなかったから、バレてはいないと思うけど…
もしかしてそれでカイウスの人格が変わった?
どんなカラクリなのかは分からないけど、良かった…とため息を吐いた。
この状況は全く良くはないんだけどね。
逃げた兵士が応援を呼んだのか周りに大勢の兵士がいた。
カイウスの服には血がべったり付いていて、地下牢で何をしていたのか誰が見ても分かる。
武器を構える兵士達に、カイウスは俺の肩を抱いた。
魔力を使おうとしているのか、手に電流が流れていた。
「ライム様!悪魔を消して下さい!」
「消すって…そんな事…」
「これはローベルト卿のご意志です!」
「うるさい、ライムを困らせるなら殺して道を開けさせる」
電流の光がさっきよりも強くなっている。
兵士も人だからか、怯えて後ろに下がっていた。
カイウスはイラついていたが、普通の人と同じくらいの感情だ。
俺が見た冷徹無慈悲なカイウスとは、やはり何処か違う。
カイウスと歩くと、目の前の塞いでいた道が開かれていく。
その道は俺達のために開けてくれたわけではなさそうだった。
兵士達が開いた道から歩いてくるのは、あの鎧の人物だった。
今にも戦いそうなほどの殺気を放っていた。
「ライム、目を閉じていてくれ」
「えっ…でも…」
「あの兵士は、道を開けるほど優しくはない…ライムにした事を許す事は出来ない」
「…まだ魔力が不安定なんじゃ」
「すぐに終わらせるから、いい子で待ってろよ」
カイウスはそう言って、俺に向かって手をかざした。
手にまとっていた電流が放たれて、そのまま結界の役割になった。
俺の周りが結界に覆われたから、誰も俺に近付く事が出来なくなった。
カイウスが見られたくないと言うなら、俺は目を両手で覆った。
カイウスが心配だけど、目の前のカイウスは俺の知っているカイウス。
だから信頼が出来る、このカイウスなら無茶はしないと思うからきっと大丈夫。
もっと強くなれたら、カイウスの役に立てるのに…
俺のイヤーカフ、何処にあるんだろう。
魔力が込められたあの武器さえ使いこなす事が出来たら、俺は自分の手でローベルト家の人達を捕まえられるのに…
ローベルト家が処刑対象であっても、俺はただの一般人で人を殺めるのもしたくない。
そこは騎士団に任せるべきだと思っている、カイウスに酷い事を任せるのも辛いけど、その事に関しては俺は何も出来ない。
だからせめて俺は、これ以上ローベルト家が人を殺めないように捕まえる…それが息子として生まれた俺が出来る事だ。
カイウスが剣を使って戦っているのが分かるが、怪我をしているのか心配になる。
あの鎧の人物は痛みを感じない、恐怖を感じない。
それが最大の強みにして、怖さだ。
カイウス、カイウス…カイウスッ!!
俺が心の中でカイウスの事だけを考えていた。
その時、さっきまで聞こえていた剣が混じり合う音が聞こえなくなった。
氷の剣は兵士の剣を破壊して、戦意喪失させていた。
座り込む兵士は精霊の力を使っていないから、薬を飲んでいないのだろう。
小さくカイウスの名前を言うと「ライムの前で殺さない、汚いものを見せたくないからな」と言っていた。
内に秘める危うい感じは残るが、さっきの攻撃的なカイウスとは少し違った。
これは俺が知っているカイウス…だよね?
逃げる兵士を見て、すぐに興味を失って俺のところにやってきた。
見るかぎり、さっきと変わったところはない…見た目の話だけど…
なんで急に態度が変わってしまったんだろう。
「なんか変わったところはない?」
「何の話?」
「さっき、変な感じがしたから…」
「分からない、暗いところにいたんだ…いつもみたいに俺はアイツの裏にいた」
アイツとはカイウスの事だろう。
表のカイウスが出ている頃に裏にいつも黒いカイウスはいる。
でも、俺が見たカイウスの姿は裏そのものだった。
性格はどちらとも言いがたい感じがした。
元々裏のカイウスは穏やかな性格ではなかった。
でも表のカイウスがやっている事を否定する性格ではなかった。
表と裏は同じカイウスで、人と精霊のために戦う気持ちは嘘偽りがなかった。
なのにあのカイウスは、精霊のためだけに動いていると言っていた。
確かに精霊を薬にして飲んでいるローベルト家を許せないのは分かる。
でも、あのカイウスは神が俺に向ける以上の憎悪を人間に向けていた。
カイウスが築いてきた全てをなくしても構わないと言いたげだった。
力が溢れているとか、装ってるとか、あのカイウスは変な事を言っていた。
俺を想ってくれているのは分かっていたが、カイウスの本心が分からない。
それに自分の力がまだ万全じゃないのに、神と戦おうとするなんて無謀だ。
あのカイウスはカイウスにとっても、危険な存在だ。
俺を神から守ってくれたカイウスは、表のカイウスのような気がした。
全て俺の想像でしかないが、きっと…そうなんじゃないかと思う。
なんで、もう一人のカイウスが現れたんだろう。
異常なほど力が暴走したせいなのかな。
「ライムの声が聞こえた」
「声?」
「俺を呼ぶ声に導かれたんだ」
声…といえば、あの時俺はカイウスって言わないようにしていたのに口に出していた。
ちかには俺とカイウスと神しかいなかったから、バレてはいないと思うけど…
もしかしてそれでカイウスの人格が変わった?
どんなカラクリなのかは分からないけど、良かった…とため息を吐いた。
この状況は全く良くはないんだけどね。
逃げた兵士が応援を呼んだのか周りに大勢の兵士がいた。
カイウスの服には血がべったり付いていて、地下牢で何をしていたのか誰が見ても分かる。
武器を構える兵士達に、カイウスは俺の肩を抱いた。
魔力を使おうとしているのか、手に電流が流れていた。
「ライム様!悪魔を消して下さい!」
「消すって…そんな事…」
「これはローベルト卿のご意志です!」
「うるさい、ライムを困らせるなら殺して道を開けさせる」
電流の光がさっきよりも強くなっている。
兵士も人だからか、怯えて後ろに下がっていた。
カイウスはイラついていたが、普通の人と同じくらいの感情だ。
俺が見た冷徹無慈悲なカイウスとは、やはり何処か違う。
カイウスと歩くと、目の前の塞いでいた道が開かれていく。
その道は俺達のために開けてくれたわけではなさそうだった。
兵士達が開いた道から歩いてくるのは、あの鎧の人物だった。
今にも戦いそうなほどの殺気を放っていた。
「ライム、目を閉じていてくれ」
「えっ…でも…」
「あの兵士は、道を開けるほど優しくはない…ライムにした事を許す事は出来ない」
「…まだ魔力が不安定なんじゃ」
「すぐに終わらせるから、いい子で待ってろよ」
カイウスはそう言って、俺に向かって手をかざした。
手にまとっていた電流が放たれて、そのまま結界の役割になった。
俺の周りが結界に覆われたから、誰も俺に近付く事が出来なくなった。
カイウスが見られたくないと言うなら、俺は目を両手で覆った。
カイウスが心配だけど、目の前のカイウスは俺の知っているカイウス。
だから信頼が出来る、このカイウスなら無茶はしないと思うからきっと大丈夫。
もっと強くなれたら、カイウスの役に立てるのに…
俺のイヤーカフ、何処にあるんだろう。
魔力が込められたあの武器さえ使いこなす事が出来たら、俺は自分の手でローベルト家の人達を捕まえられるのに…
ローベルト家が処刑対象であっても、俺はただの一般人で人を殺めるのもしたくない。
そこは騎士団に任せるべきだと思っている、カイウスに酷い事を任せるのも辛いけど、その事に関しては俺は何も出来ない。
だからせめて俺は、これ以上ローベルト家が人を殺めないように捕まえる…それが息子として生まれた俺が出来る事だ。
カイウスが剣を使って戦っているのが分かるが、怪我をしているのか心配になる。
あの鎧の人物は痛みを感じない、恐怖を感じない。
それが最大の強みにして、怖さだ。
カイウス、カイウス…カイウスッ!!
俺が心の中でカイウスの事だけを考えていた。
その時、さっきまで聞こえていた剣が混じり合う音が聞こえなくなった。
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