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相容れない存在

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「すまなかったな、お前の力を信じてやれなくて」

「……信じなくてい…」

ずっと俺の事なんて眼中にないままでいいと思っていた。
でも、どう言っても逃げられないなら利用しようと思った。

前に言った時は信じてくれなかった、でも今ならきっと俺の脅しが通じるかもしれない。

あの時も今もただのハッタリだけど、俺が悪魔を召喚したと思っているならと手の甲の悪魔の紋様を見せた。

ローベルト卿は俺を一瞬だけ見ていて、目を細めていた。
見られて、震えそうな手をもう片方の手を掴んで止めた。

「俺の力を分かったなら、もう貴方達に協力なんてしない……だからもう構わないでくれ」

「それは出来ない、ライム…お前の力は必要なんだ…我が息子よ」

「俺が必要じゃなくて、召喚した悪魔が必要なんでしょ」

ローベルト卿は笑っていて、耳を防ぎたくなる。

カイウスは絶対に渡さない…それにカイウスが簡単に利用されると思えない。
怪我をしていた筈だ、まさか…倒れたところを俺みたいに捕まったのかもしれない。

カイウスが悪魔だって分かってないみたいなら好都合だ。
カイウスの場所に急いで行かないと……カイウスに会いたい。

俺はなんて言われても、協力なんて絶対にしない。
普通に、ただ幸せになりたいだけなんだ…俺の幸せはここにいる事ではない。

「か、彼の場所…教えて」

「彼とは?」

「悪魔だよ、俺の大切な…」

「地下牢にいる」

地下牢ってもしかして神がいた場所じゃないよな?

カイウスは神に会いたがっていたが、今のカイウスの状態が分からないから心配だ。
地下牢の場所は覚えている、早く行こうと部屋を出ようとした。

すると「ライム」とローベルト卿が俺を呼んで足を止めた。

後ろを振り返ると、椅子から立ち上がったローベルト卿は微笑んでいた。
実の息子に向けるような優しさが込められた笑みだった。

それを見つめて、俺の心が揺らぐ事はなかった。

今まで俺にした事、精霊にした事、カイウスにしようとしている事……その全てが許せなかった。
今更息子だと思われたとしても、俺は心から父だと思う事はないだろう。
どうせ、この人も俺を息子なんて心から思ってないのだろう。

「地下牢の場所は分かるのか?」

「一階にある鉄の扉だよね」

「何故、そこが地下牢だと知っている?」

優しく微笑んでいたローベルト卿の顔がみるみる変わった。
知られたくないんだろう、あんな危険な神を閉じ込めているんだから当然か。

俺には薬を飲ませていないから、薬の事も俺は知らないと思っているんだろう。

誤魔化すように慌てて「地下牢みたいな扉だと思っただけ!」と言った。
一瞬でも疑えば何をされるか分からない、それほどまでに神の事を知られたくないんだろう。

ローベルト卿が近付いてきて、心臓が早くなる。
早くカイウスのところに行こうと扉のドアノブを握ったが部屋から出る事が出来なかった。

部屋の前にいて、入り口を防いだのはあの鎧の男だった。

扉から離れて、ローベルト卿を見るとすぐ近くにいた。

「まず先にお前の記憶をなくさないとな」

「……どういう」

「この薬があればお前の悪魔の力もより強くなってローベルト家のために役に立ってくれるだろう、あの悪魔も従順になったお前の言う事を聞くだろう」

ローベルト卿の手には注射器があり、俺の首を掴んだ。

腕を殴って離してもらおうとしたら、床に投げ飛ばされた。
俺の上に乗ったローベルト卿は再び俺の首を掴んだ。

喉が潰れそうなほど苦しくて、逃げる事を諦めずに暴れた。

ローベルト卿は動く俺に眉を寄せていて、兵士に命令して両手を掴まれた。

足元も暴れて、絶対に廃人になんかならないと抵抗した。

その時、ノックもなしに部屋の扉が開かれてローベルト卿は舌打ちをして扉の方を向いた。

「誰だ!ノックもなしに入ってくるな!!」

「も、申し訳ございません!しかし、もう堪えられそうにありません!!」

「…どういう事だ?」

「あの悪魔の事です!」

突然部屋に入ってきた人は兵士のようだけど、着ている鎧が割れていて剥き出しの肌は真っ赤に染まっていた。
なにかと戦ってきたかのように息を切らしていた。

兵士の血が部屋のじゅうたんを濡らしていて、ローベルト卿は眉を寄せていた。
そして鎧の男に顎で指示を出したら、俺から離れた。

やってきた兵士に近付きながら腰に下げている剣を引き抜いた。
そこからは何も見たくなくて顔を逸らすと、叫び声と共にドアが閉まる音がした。
なんで、あんな事を…彼はなにか仕事をしていて報告しに来たのではないのか?

「薬を初めて使うと、しばらく使い物にならないからな……その前に一仕事してもらおうか」

「嫌だ、誰がローベルト家の仕事なんか…」

「お前の悪魔に会いたくはないのか?」

仕事なんてしないと思っていたが、それを聞いて揺らいだ。
仕事は絶対にしないけど、カイウスには会いたい。
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