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カイウスの話26

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ライムが心配だけど、信用していないと思われたくなくて行かせた。

万が一なにかあった時のために、リーズナと意識を繋げている。
これはライムを守るためだ、ローベルト家だけではない…神も相手なんだ…一瞬の油断も許さない。

俺が眠っている間、ライムになにがあったのか知らない。
でも、ライムが大人びた顔になっていたからなにかあったんだろう。
俺の知らないところで成長してしまうなんて、何だか悔しい。

ライムの事は俺が一番知っておきたい事なのに…

それに耳飾り、ずっと宮殿にいた筈なのに何処から手に入れたのか分からない。
俺の知らないライムの秘密が増えていく、いつか本当に手が届かなくなってしまいそうだ。

ライムの成長は喜ばしい事なのに、嫌な気持ちで支配される。
その感情は酷い頭痛がして、吐き気で顔色が悪くなる。

はぁはぁと息を吐いて、落ち着かせながらシャツの襟を緩める。

「カイ様、どうなさったのですか?」

「…何でもない」

「お体が冷えてしまいます、こちらに…」

ローズが家の前に立っている俺に近付いて、毛布を渡してきた。
すぐに異変があった時に出れるようにしている。
だから俺はここから動くわけにはいかない、リーズナとの通信も途切れてしまう。

それを知らないローズは俺の肩に毛布を掛けようと広げていた。

その時、リーズナと繋がっていた筈の意識にノイズが混じった感じになった。
リーズナの目と繋がればリーズナが見ている景色を共有出来るのに、今朝からずっと頭痛と吐き気が酷かった。
心配掛けないようにライムには笑って見送ったが、そこまで意識を繋げる事が出来なかった。

まだなにか後遺症が残っているのかもしれないが、ライムを助けるのにそんなものは関係ない。

ローズに毛布を押し付けて走ってリーズナの意識を辿る。
そこにライムはいる、何故か近付く度に痛みは増していった。

脇腹も痛くなって、押さえるとぬるっとしたものが手にべったりと付着していた。
怪我?俺は怪我をしていない…だとするとリーズナの痛みの意識が共有されたのか。

どんなに暗い場所でも、ライム達を見つける事が出来た。

頭で考えるより先に剣を振り上げて、兵士を吹き飛ばした。
リーズナに触れると、一瞬で小さな猫の姿に戻った。

リーズナはまだ生きているが、放っておくとマズイな。
精霊は人間より丈夫だが不死身ではない、それでも俺の一部だ…リーズナにこんな深傷を負わせるなんて…あの兵士はいったい何者だ?

ライムの方は無事のようで、とりあえず安心した。
安心した途端に、さっきの痛みが一気に押し寄せてきてライムにもたれかかる。

こんな姿、見せにきたんじゃないのに…情けないところを見せてしまったな。

ライムをこのまま宮殿に連れて帰りたいが、野放しに出来ない奴がまだそこにいる。
このまま宮殿を開いて逃げ込んでも、閉じる前にこの兵士が入ってきたら意味がなくなる。
ライムの居場所を踏み荒らされるわけにはいかない。

ライムも一度宮殿に戻ろうと思ったのか、入り口が少し繋がった。
でも、まだ入れるくらいの大きさではなくライムも焦って上手くいっていないのだろう。

俺は自分の血がついた手で宮殿を一気に開いた。
そのままライムを入り口の中に押し込んで、剣を構えた。

宮殿の入り口が塞がるまで、この兵士を引き止めなくてはいけない。

俺が負傷してようが、この兵士がなんだろうとここは絶対に通さない!!

剣が合わさり、兵士の大剣が重くてかなりの怪力なんだと分かる。
力を込めると、脇腹の傷が広がって血がポタポタと地面に落ちる。

息をゆっくりと吐いて、兵士を押し返したが間を開けずまた重い一撃が振り下ろされた。

眉を寄せて剣に魔力を込めて、終わらせようと思った。
もう宮殿の入り口は塞がっただろうし、引き止める必要はない。

鎧を貫くほどの鋭い氷が剣をだんだん覆っていた。
それと同時に兵士の動きは止まり、重かった剣が軽くなっていた。

兵士の体は電流のようなもので縛られていて、身動きが取れなくなって魔力を込めるのをやめた。

兵士の後ろから「カイウス!」と俺を呼ぶ声が聞こえた。
ライムの声?そんな筈はない、だってライムは宮殿に行った筈だ。
まさかまた戻ってきたのか?なんでそんな危険な事を…

兵士が邪魔で全くライムが見えなくて、兵士に警戒しつつ体をずらしてライムの方を見た。

ライムの手に兵士に巻き付いている電流が流れていてびっくりした。

「ライム、その手大丈夫なのか?」

「大丈夫!カイウスは休んでで!俺がコイツを捕まえとくから!」

ライムよりも身長が高いから引き止められるか不安でしかないが、確かにライムの言った通り動きを止められている。
でも、この兵士は痛みを感じないのか暴れている。
そのせいで、体に電流の拘束具が食い込んでさらに痛みが増しているように見える。

ライムも怖いのか「お願いだから止まって!このままだと死んじゃうよ!」と声を上げていた。
死ぬのも惜しくないのか?ローベルト家の兵士はこんな奴らばかりだ。

その時、拘束されている手がゆっくりと動いた。
俺は危険なものを感じてライムの体を抱き抱えた。

その瞬間に兵士は大きく剣を振り下ろして、地面が割れた。
あんなに電流を浴びたというのに、兵士は平然と立っていた。

俺達に向かってくる兵士に、ライムは俺の前に立った。
ライムの手には耳飾りが握られていて、俺は脇腹を押さえながら立ち上がった。
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