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細道のその先

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イヤーカフから糸を出して、屋根裏部屋に投げつけた。
まるで生き物のようにその糸は屋根裏部屋の窓の柵に引っかかった。

そのまま壁を蹴り上げて、2階付近で止まった。

声はメイドだったみたいで、楽しげに話していた。
どうやら俺に気付いていないようでホッとした。

でも、上を見られたらすぐに気付かれてしまう。
屋敷に戻る事を許されていないのに、こんなところにいたら侵入がバレてしまう。
今はまだ警戒していないのに、もし追い返されて警戒が強くなったら今より侵入が厳しくなる。

時間がない俺達はこんなところで立ち止まっていられない。

屋根裏部屋の窓は開いていない、無理矢理こじ開けるとバレてしまう。
何処か開いている部屋はないかと見渡すが、そんな簡単に見つかるわけがない。

そこで、ある事を思い出して上を見上げた。
あそこなら、確実に中に入れる…そこしかないな。
実際入った事がないからどうなるか分からない。

俺には考えている暇なんてない、糸を引いて自分の手元に戻した。
その後すぐに糸を伸ばして、屋根裏部屋よりも上に向かって投げた。

糸は目当てのものに引っかかり、下にいる人達に気付かれないように上に登った。

屋根の上に到着して、糸が引っかかっているところまで歩いた。
屋根を歩く微かな音でも誰かが来てしまうんじゃないかと、嫌な汗が頬を伝う。

煙突の中を覗き込み、真っ暗で何も見えない事を確認した。

この煙突が何処に繋がっているのか分からないし、下で火が燃えていたら俺は黒焦げになる。
煙突の存在は外から知っていたが、カイウスを連れてくるのはいい作戦ではないと思った。
そもそもカイウスが入れるほど大きくない。

俺ですらちょっと無理しないと入れないくらいだ。
糸を煙突に巻きつけたままにして、俺の腰にも糸を巻きつけた。
大丈夫だ、この糸は人を支える力がある…俺の命綱になる。

煙突の中に足を入れて、ゆっくりと体を暗闇の中に沈ませる。
あまり掃除をしていないであろう煙突に全身を擦り付けながら、両手両足を動かして下に向かう。
少しでも熱さを感じたらすぐに引き返そう。

そして、どのくらい経った頃だろうか…俺の体は支えるものを失って宙に浮いた。

糸がなかったら、落ちていただろう。

ゆっくりと降りて、大量の埃が舞って咽せた。
苦しい、喉が痛い……でも、中に入る事は出来た。

糸を引っ張ると、俺の意志のようにスルスルと手元に戻ってきた。
カイウスの力が込められているから普通の糸じゃないんだけどね。

四つん這いで暖炉から出てきて、真っ暗な室内を見渡した。

ここは何処だろう、部屋の電気は気付かれないように点けられない。
この部屋の持ち主が誰か分からないから、早く出た方がいいに決まっている。

一歩前に出たところで立ち止まって、慌てて靴を脱いだ。
見えないけど、あんな汚い場所にずっといたから足跡が残るかもしれない。
ローブも脱いで、靴を包んでゆっくりと歩く。
ここが何処か分からないが、この部屋からどうやって出るかも問題だ。

壁に腕を付けながらドアまで向かう、手も汚いから跡は残せない。
カイウスの服には俺を守ってくれる魔術が込められているから、俺はそれに守られている。
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