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過去編・絶体絶命

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「俺には、守りたい奴もいないし…この国がどうなろうと知った事ではない……そう思ってた」

ゲームのカイトもそんな感じの性格だから、特に驚く事はなかった。

カイトは話してくれた、変わりたいと思う自分の気持ちを…
誰かを守りたいと思った気持ち、俺達に着いてくるのは遊び半分ではないという事を…

カイトを思うと、強く拒む事が出来なくなっていた。

「俺も国民を守る王族だから!」と必死な声で俺の肩を掴んだ。
カイウスに黙って決められない、どうしようかと思っていたら…カイトの後ろに誰かが立っていた。

「カイウス…」

「カイト様の気持ちはよく分かりました」

「だったら!!」

「戦いたいのなら、ちゃんと訓練を受けるべきです…じゃないと行かせられません」

猫ではなく、人間の姿になっているカイウスはそう言った。
確かに、訓練をサボっていたカイトに突然実戦をさせるのは危険だ。

でも、戦う事以外ならカイトも参加させてあげられないだろうか。

カイウスを見つめると、カイウスはカイトを見た。
カイトは下を向いてしまい、拳を握りしめていた。
訓練の事を言われたら、自分のせいだから何も言えないのだろう。

「…カイト様、そこまで言うなら一つだけお願いしたい事があります」

「………」

「王族しか見れない書庫に、神についての本がある筈です…それを見せてほしいんです」

「……書庫なんて入った事ねぇよ」

「お願い出来ますか?」

「………確認してみる」

不満げな顔をしていたが、カイトは小さく頷いた。

カイトは本を探すと、とぼとぼとした足取りで城に向かっていった。
普通の人間相手ならいいけど、相手は人じゃないからな。

俺達はリーズナと神を探す事を再開させて、歩き出した。

もう一度カイウスの家に向かおうか、リーズナがいるかもしれない。

「カイウス、家に行ってみない?」

「そうだな」

行き当たりばったりで選ぶより、居そうな場所から探すのがいいだろう。

カイウスの家に向かおうと思ったら、カイウスはなにかの気配を感じてそっちを見ていた。
そこには特に誰かがいるわけではないが、カイウスは眉を寄せている。

カイウスはそのまま歩き出して、俺も後ろを着いていく。

そこは、街外れの森に続いていて…一度俺達が襲われた場所だった。
戦うのには、こんないい場所はないだろうと思った。

「…アイツらから、俺達を誘導しているみたいだ」

「それって」

「ライム、俺から離れるな」

カイウスと手を握り、一歩一歩警戒して歩く。

森の中に入り、カイウスは誘導する気配を探りながら向かう。
俺には気配が全く分からない、きっとカイウスにだけ分かる気配なのかもしれない。

カイウスは前を向いているから、俺がカイウスが向いていない方角を見渡していた。

ざわざわと、木を風が揺らしているが…特に何もない。

人もいないし、生き物もいない…何もいない。

「なんか、変だな…この気配…神とかリーズナ…というより」

カイウスが立ち止まり、俺の方を振り返った。

俺もカイウスを見ていたら、カイウスが俺の名前を叫んだ。

後ろでなにかが落ちる音が聞こえて、後ろを振り返ろうとした。
すぐにカイウスが俺の腕を引っ張り、身体がカイウスに傾く。

着ていたローブがなにかに引っ張られる感じがして、後ろを向いた。
そこにいたのはカイウス……いや、リーズナだった。

リーズナはカイウスの姿をしていて、剣を構えていた。
俺は、自分のローブを確認するとローブが二つに切れていた。

少し遅れてたら、大怪我をしているところだった。

「ライム、大丈夫か?」

「う、うん…大丈夫」

カイウスに抱きしめられて、本当に大丈夫だよと笑った。

カイウスはなにかの気配に縛られていたみたいで、リーズナの気配に気付けなかったみたいだ。

カイウスはリーズナに向かって、走り出し…捕獲しようとした。
腕を伸ばすと、剣が地面に落ちてリーズナは猫の姿に突然戻った。

手はリーズナを捕らえる事なく、空振りした。
リーズナの目的はあくまで俺なのか、すぐにカイウスの姿に戻り地面に落ちていた剣を拾った。

俺に向かってどんどんリーズナが近付いてくる。

「ライム!逃げろ!」

「…っ」

拳で剣の相手は出来ない、なら逃げてリーズナに隙を与えてカイウスに何とかしてもらうしかない。

逃げようと、後ろに後ずさるとなにかに身体がぶつかった。

後ろを振り返るまでもなく、それが誰だかすぐに分かった。
俺を後ろから冷たい腕で抱きしめて、拘束していた。

耳元で「…ライム」と呼ばれて、鳥肌が立った。
後ろにいる神は笑っていた、俺の死を望む笑いだ。

カイウスは風魔法でリーズナの動きを止めて、足蹴りした。
リーズナは抵抗する事もなく、呆気なく地面に倒れた。
操られているからなのか、それはまるで人形のように感じた。

「ライムを離せ」

「可哀想に、ご主人様に蹴られて」

「リーズナと喧嘩する時は、日常茶飯事なんだよ…普通の猫と一緒にするな」

カイウスは手に炎をまとい、俺達に向かって放った。

俺はカイウスの炎を消せるから、俺には傷つかないと分かっているからの攻撃だ。
神は俺の後ろから手を伸ばして、炎を簡単に打ち消した。

カイウスは険しい顔をして、舌打ちをしていた。

力はカイウスよりも上なのか、神の俺を拘束する腕の力が強まった。
ギリギリと身体が締め付けられる痛みに眉を寄せる。

「来い、リーズナ」

神にそう言われて、リーズナはゆっくりと起き上がる。

カイウスはリーズナの腕を押さえつけて、動かないようにしている。
見た目はカイウスだから、リーズナの力も強いのだろう…ほとんど力は変わらないように思えた。

リーズナは操られているだけだから、カイウスが使える魔法は限られている。
もし、殺傷能力がある魔法を使ったらリーズナが死んでしまう。

神の手から、小さな光のような玉がどんどん大きくなっていく。
リーズナで両手が塞がっているカイウスに攻撃する気なのか?
そんな事したら、カイウスが……そんな事させない!

カイウスから的がズレるように、身体を大きく使って抵抗する。
神は俺を睨みつけて、投げ捨てられて地面に転がる。

「安心しろ、未来のカイウスが消えても…悪魔の子が死ねば…お前は本物の神になれ……っ」

「カイウスには指一本触れさせない!」

すぐに立ち上がり、神に向かって体当たりをした。
神はカイウスに向けていた手を俺に向けていて、俺はその手を握った。
こうすれば力が出せない、でも神は余裕そうな顔をしている。
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