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過去編・助ける者

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「お前、何する気なんだよ」

「リーズナを助けに行く」

「バカじゃねぇのか!?アイツらはお前を殺そうとしてんだぞ!!自殺行為だろ!!」

「俺のせいでリーズナが捕まったんだ、俺が助けるのが当たり前だろ」

「お前一人でなにが出来るんだよ!!」

確かに三人を相手にするのは無理だ、でも俺は戦いに行くんじゃない。
リーズナを助けに行くんだ…それだけなら俺でも出来る。

壁に寄りかかっている華奢な男の横に、筋肉質の男が窓付近に座っている。
その横にリーズナが気絶したまま放置されている。

大丈夫だ、俺は一人じゃない…頼もしい人が傍にいる。

俺はカイウスに向かって走り出した。
ゆっくり話している暇はなかった。

いつでも戦闘態勢な敵が近くにいて、一瞬の気の緩みも見せてはいけない。

大丈夫、きっとカイウスならやってくれる…俺は信じてる。

俺はカイウスにだけ聞こえるほどの小さな声で「援護よろしく」と短く伝えた。
カイウスが俺の方を振り返る前に、俺はリーズナに向かって走り出した。

他は気にするな、リーズナの事だけを考えろ。

距離が近い筈なのに、リーズナまでの道が遠くに感じた。

神が俺に向かって、手をかざしているのが視界の端から見えた。
しかしすぐにカイウスが水魔法を出して弾いていた。

リーズナに向かって、思いっきり手を伸ばす。
あと少しだ、あと…少し…

「いい度胸してるじゃねぇか、クソガキ」

腕を掴まれて、筋肉質の男がニヤリと笑った。
身体が宙に浮いて、投げ飛ばされた。

カイウスに身体を受け止められて、痛みは少ししかなかったが…あと少しのところで邪魔された。

その間にリーズナは神に抱き抱えられていた。

筋肉質の男は華奢な男に「なんであっちに投げるんだ!バカなのか!?」と怒られていた。
俺的には、カイウスのところに戻れて安心した。

「じゃあな、カイウス…未来など変えられんよ」

そう神が言い残し、三人とリーズナは消えていった。

リーズナが居なくなった時点で、この世界は変わってはいないだろうかと心配だった。
そして、後ろにいたカイウスが俺をギュッと抱きしめた。
何の説明もしていなかったから、カイウスに悪い事をしてしまった。

「ごめんね、カイウス…」と言うと「もう、勝手に離れていかないでくれ」と震えた声で言われた。
カイウスの表情は見えないが、どんな顔をしているのか何となく想像出来た。

もう一度謝り、カイウスの腕に触れた。

部屋の外から声が聞こえて、俺達は部屋のドアに視線が向いた。

「…失礼致します、カイ様……あれ?」

「もう、出かけられたのか」というローズの声が遠くから聞こえた。
カイウスの家の壁に俺達三人はへばりついていた。

ちょっと、カイトが登っていた気持ちが分かった……経験はしたくなかったけど…

カイウスが神経を研ぎ澄まして、ローズの動きを感じていた。
俺達がへばりついている壁の近くの窓からローズが離れたところでカイウスに合図されて、壁から地面に降りた。

俺はカイウスと手を繋いでいたから、上手く着地出来たがカイトは尻を地面に強打していた。

「…だ、大丈夫?」

「………う、うぅ」

「また誰かに見つかったら厄介だ、この場を離れよう」

カイウスに言われて、俺達はすぐに離れた。

俺達が寮の空き部屋に戻る前に、カイトを城まで送る事になった。
カイトの顔が曇っている、あんな怖い目にあったら当然だよな。

カイウスも「あのリーズナを見て分かるように関わってはいけないんです、カイト様は城で大人しくして下さい」と少し強めに言っていた。

カイトの手が微かに震えていた。

カイトに対して声を掛けたかったけど、俺もカイウスと同じ気持ちだった。
今ならまだカイトは引き返せる、俺やカイウスみたいに神達と戦う理由もない。

カイトは何も言わず、城の中に走っていった。

俺とカイウスは寮の空き部屋まで力を使ってワープした。

やっと安全な場所に戻ってこれて、足から力が抜けた。
カイウスに支えられて床に座り込んた。

「ライム、平気か?」

「うん、大丈夫…」

まさかリーズナが敵になるなんて想像していなかった。
リーズナはカイウスの姿をしていた…そしてカイウスがこの過去の世界に来た理由…

カイウスが俺を殺して英雄になった。

もし、そのカイウスが操られたリーズナだとしたら…

俺は、リーズナに殺されるのか?

カイウスも分かったのか「リーズナをどうにかしないとな」と言っていた。
苦しげな顔をするカイウスを見て、心が痛かった。

カイウスはリーズナとずっと一緒にいたんだ、いくら操られてもリーズナは家族だ。
俺だってリーズナのおかげでいろいろと救われたんだ。

傷付けずリーズナを助ける方法は一つだけだ。

リーズナを操る元凶……神をどうにかすればきっとリーズナも助けられる筈だ。

「リーズナを助けるためには、神と戦うしかない」

「……そうだな、それしかない」

「でもリーズナがいなくなって、未来は変わらないの?」

「リーズナはたまにいなくなるからな、この時の俺は気にもしていないだろう」

「そっか、でもずっと不在ってわけにはいかないね」

「あぁ、明日…神と戦いに行く」

俺も、カイウスが神と戦えるように二人を引きつけよう……今度こそちゃんと…

グッと拳を握りしめると、カイウスが俺の手を包み込むように握りしめた。
自分の拳を見つめていたが、横を見てカイウスを見つめた。

唇が重なり、深く深く舌を絡ませて口付けされた。

カイウスの服をキュッと掴み、愛を受けた。
絶対帰ってくるんだ、俺達は無事に…元の世界に…

「これはおまじないだ」

「…うん」

少し唇を外して、再び唇を合わせた。

硬く、強く、手を握りしめた。

この世界の未来を変える…なんて大きな事は考えない、ただ…自分の未来を守るんだ。

ギュッと抱きしめ合って、眠りについた。
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