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知らない世界

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カイウスは今と同じように、冷静にカイトの言葉を交わしている。

今はカイトの護衛をしているのかな、カイトの「カ」の字も聞いた事ないけど…

今の時代のカイウス達を想像していたら、カイトは突然不機嫌になり足を踏み鳴らし馬車に戻っていった。

何を言ったのか聞いていなかったが、両親は慌ててカイウスを引き連れて家の中に入ってしまった。

周りの人は驚いた様子だが「やるじゃないかカイ様は」と言っている声が多数聞こえた。
ここからカイ様って言われるようになったのかな、と想像した。

俺の声がカイウスに聞こえたのかな、それとも偶然?

確認したくて、本音はもっとカイウスといたくて…カイウスの後を付いて行った。

この時だけ、すり抜けるのはとても便利だな。

カイウスの家は今と変わらず、きっと部屋も同じだろう。

ならカイウスの部屋にカイウスはいるだろう。

まだマリーや、多分ローズがメイドではない頃だ。
この頃の俺は何をしていたっけ、あまり思い出したくない記憶なのは確かだ。

しばらく行ってなかったから、自信は全くない。
ロビーを抜けて、同じような扉が並ぶ廊下を歩く。

記憶を頼りにカイウスの部屋を探す、えーっと確かここだよな。

俺は今すり抜けられるから一つ一つ覗けばいいんだけど、勝手にプライバシーを見るのはちょっとな。

何となくで歩いていたら、扉の前に一人の女の子が立っていた。
ノックをしたいのか、したくないのか、腕を上げたり下げたりしている。

何だろう、誰かに似ているな…銀髪で肩まで長いゆるふわヘアーで頭にヘッドドレスを付けている。
ヒラヒラのレースのスカートをギュッと握っていた。

「あ、か…い…さっ」

とても小さな声で呟いているが、それじゃあ部屋にいるカイウスには届かないと思う。
だんだん泣きそうになっているのか、声が震えている。

俺はこの部屋がカイウスの部屋だと思い中に入った。
カイウスは目を布で隠しているから何も見る事がなく、ただ部屋の隅っこに座っていた。

昔のカイウスは、俺みたいに一人ぼっちだったんだな。
皆に愛されているカイウス、でも…それは神の子だから?

この時の俺はゲームの事しか頭になかった、攻略キャラクターとヒロインと会わないようにしようと、そればかり考えていた。

俺も同じだ、攻略対象としかカイウスを見ていなかった。
ここはゲームの世界に似ているが、一人一人ちゃんと生きている。
カイウスを一人の人間として、見なきゃいけなかった。

腕を伸ばして、カイウスの頬に触れる…触れた。
伏せていた顔を上げたカイウスと布越しに目が合う。

不思議だな、今のカイウスとちっとも変わっていないように見える。

「カイウス、俺の声が聞こえる?」

「…聞こえるよ、君は精霊?」

「……う、うん」

俺がライムなんて言ったらとんでもない事になる。
まだライムと出会う前なんだし、これから出会うライムとの出会いを大切にしたい。

だから俺は精霊という事にした、幸いな事にカイウスは目が見えないし…

カイウスの周りに、精霊が集まってきて俺の周りにも集まってきた。

「お友達だよ」と、精霊達に紹介されて俺が精霊じゃないとバレるかドキドキした。
でも精霊達は歓迎するように俺の肩や頭に乗っていた。

精霊達は俺の姿が見えている、バレないかヒヤヒヤする。
とりあえず、内緒にしてほしくて「もしこの先俺に会ってもカイウスには…」と唇の前で人差し指を当てた。
何の事か分からない精霊達は首を傾げていた。

俺には精霊の声は聞こえないが、カイウスには聞こえるからね。

「気に入ったみたいだね」

「…え?なにか話したの?」

「いや、この部屋の空気が良くなった」

俺には全く空気が良くなったとか分からない。
カイウスは精霊に愛されているから分かるのかもな。

その時、コンコンとドアを叩く音が聞こえて俺とカイウスはドアを見た。

そうだった、あの女の子が入り口にいるんだ。
ヒラヒラのレースの服を着た…カイウスは「誰だ」と聞いていた。

この時のカイウスも、警戒したような空気を感じた。
このピリピリした緊張感は俺でも分かる…カイウスがこの時信じられるものは精霊しかいなかったんだ。

控えめな声がドアの向こう側から聞こえてきた。

「…カイ、様」

その声を聞いて、カイウスは警戒を解いてドアに近付いて開けた。
名前を聞かないで勝手に開けて、もし暗殺者とかだったらどうするんだ?
俺は誰が来たか知っているが、カイウスは知らないだろ?

俺一人で慌てて、カイウスの後ろに立つ…カイウス以外には俺の姿は当然見えない。

少女はカイウスに頭を下げて、中に招かれた。
俺が見えないから、二人っきりの状態のようで緊張してるのか?
彼女もカイウスと同じ歳か、ちょっと小さい感じだな。

マリーではない、でも見た事がある…もしかして…
俺の考えている事はカイウスによってすぐに確信に変わった。

カイウスは彼女の事を「ローズ」と呼んでいた。
やっぱり彼女は幼少期のローズだったか、俺とローズは驚いた顔をしてカイウスを見つめていた。

おれはまだしも、なんでローズまでそんなに驚いているんだ?

「カイ、様…しばらく離れていたのに私だと気付いていたんですか?」

「当然だ、ローズは俺の友人だからな」

二人になにがあったか分からないが、感動してローズは涙ぐんでいた。

俺までもらい泣きしてしまう、今のローズには嫌われてしまっているが…この時のローズに罪はない。
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