冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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過去編・貢ぎ物

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「んっ、ぅ…くさい」

気持ちよく寝ていたのに、強烈に鼻腔を刺激するなにかに無理矢理起こされた。

眉を寄せて、なるべくにおいを嗅がないようにフードで鼻を覆うがあまり効果はない。
なんだろう、このにおい…生臭いような…好きではないにおいだ。

耐えきれなくなり、パチリと目を開けて勢いよく起き上がった。

俺の横にあったのは、大きな生魚だった。

なんで生魚がここにあるんだろう…よく分からず首を傾げた。

湖から勢いよく飛び跳ねてきたとか?
現実では有り得ないが、現に有り得ないものが目の前にある。

カイトは…まぁないだろう、魚が嫌いと言っていたからな。

とりあえず、この魚をありがたく貰い…リーズナに渡そう。
生臭いけど、我慢して持ち上げて歩き出す。

俺の考えは、過去にないものは見えなくて過去にあるものは人に見えると思った。
つまり、俺が現代から持ってきた服は過去の人に見えないけど魚は過去のものだから見えるだろう。

そうなると、魚が浮いているように普通の人は見えるだろう。
そうなったら怪奇現象だと大騒ぎ待ったナシだ。

だから人がいない夜に移動した方がいいだろう。

でも、魚は生物だから腐らないだろうか…リーズナが都合よく外を歩いていないものかな。
たまに外に出るが、普段は部屋にいるイメージだ。

それか魚を置いて、リーズナを呼んでくれば早くないか?

それなら魚が浮いてる事にならないし、リーズナに新鮮な魚をあげられる。

そうと決まったらすぐにリーズナを呼ぼうと、カイウスの屋敷に向かった。
ばったりカイウスに会わないように、ちゃんと深くフードを被った。

屋敷のドアをすり抜けて、カイウスがいないか警戒しながら進んでいく。

すると、廊下の向こうからカイウスが歩いてきた。

冷や汗が流れて、周りを見渡した。
何処でもいいから身を隠さないと…

目に付いた扉に飛び込んで、床に伏せた。

コツコツと、カイウスの足音が聞こえて俺の心臓もバクバク音を立てた。

しばらく音がして、聞こえなくなり…去っていった事が分かる。
ホッと一安心して、立ち上がった。

電気が付いていないから、真っ暗で何も見えない部屋だ。

ここは何の部屋なんだろう、勝手に電気付けたら部屋の持ち主に悪いよな。

そう思っていたら、パチンと音が聞こえて部屋が明るくなった。
俺、思っていただけなのに特殊能力に目覚めたのか!?

まぁ、そんな事はある筈もなく誰かが入ってきたようだ。
扉の方を見ると、無意識に顔が引きつった。

「……俺の事をバカにしやがって、今に見てろ…俺はお前を必ず…」

そうブツブツ言いながら、フラフラと俺をすり抜けて部屋の奥にある机に向かった。

そうか、ここはユリウスの部屋だったのか。

ガンッと机を叩く音が響いて、突然狂ったように叫び机の上の紙を腕で払い除けた。

ひらひらと床に落ちる紙には目もくれず、汚い言葉でカイウスを侮辱していた。
いくら兄だからって、言っていい事と悪い事がある。

耳を塞ぎ、急いでこの部屋から出た。
ユリウスの笑い声が扉の先から聞こえてくるような気がして、すぐにカイウスの部屋に急いだ。

この時のユリウスは、もうローベルト一族の仲間なのだろうか?
だとしたら、ユリウスを壊したのもローベルト卿か……ミロのように…

早く助けないと、カイウスが不在なのがもしローベルト一族の誰かに勘づかれたら…
カイウスがいるからローベルト一族は派手な事が出来ないんだ。
カイウスという、絶対的な存在がいるから…

もし、そんなカイウスが居なくなったら…帝国は無法地帯のようになるだろう。
それほどに、カイウスという影響力は強い。

今はリーズナがカイウスのフリをしているが、リーズナはカイウスではない…いつボロが出るか分からない。

それにあの神はカイウスに執着しているから、カイウスとリーズナを見分ける事が出来そうだ…普通の人間じゃないんだし…
現代の俺達には敵が多すぎる、早くしないとと足のスピードを早める。

カイウスの部屋まですぐそこだ、そう思って駆け足になる。
部屋のドアが開き、誰かが部屋から出てきて慌てて足を止める。

まさかカイウス?でもさっきカイウスは出かけた筈だ。
じゃあローズか?だったら俺の姿は見えないからいいけど…

しかし、出てきた人物は俺が全く想像していない人物だった。

真っ白なその人の腕には、すやすやと眠るリーズナがいた。
何故リーズナを抱き抱えているのか…いや、そうじゃない…この人はなんでここにいるんだ?

そのまま俺がいる方向とは反対方向に歩き出して、慌てて引き止めた。
今の俺にとって、カイウスを一番分かっているリーズナが必要なんだ!

きっと神なら俺の姿くらい見えているだろう。

「待って!その子に用があるんです」

俺がそう言うと、ピタリと動きが止まった。
ゆっくりとこちらを振り向くその顔には笑みが見えていた。

神がカイウスを大切に思っているなら、今はカイウスの危機だ…きっとどうにかしてくれる筈だ。

俺はいろいろと勘違いしていたんだ。

この人はカイウスに優しい人だと……

そして、この人は俺と出会う前の過去の人だと……

「私も用がある、カイウスを永遠に目覚めないためにも…この使い魔には眠っててもらわないと」

「…………え」

「カイウスがいない帝国は悪で染まる、そうすれば自分がいかに愚かな事をしたか分かるだろう……そして、その時…悪の元凶であるお前を殺すだろう」

この神は俺が悪魔の子や、カイウスが今眠っている事も知ってるのか?

神様だから何でも知ってると言われたらそれまてだけど…

でも、ここで初対面だとしたら…初対面の俺を殺すなんて言うだろうか。
本当に初対面の時はカイウスと別れてほしいと言っただけだった。

それに、その言い方は全て知った上で話している。

まさかカイウスがあんな事になったのは……手を握りしめて神を睨む。

「カイウスが眠っているのは貴方が原因なんですか?」

「………だったら?」

「…っ!」

「私を殺すか?お前に出来るのか?」

挑発するような言葉を聞いて、神も俺と同じく過去から来たんだと分かった。
そしてカイウスになにかしたんだ。

怒りが湧き上がり、神に向かって勢いよく走り出した。
神は逃げる事をせず、俺はそのまま拳を前に突き出した。

しかし、俺の拳は神に当たる事はなく…弾き飛ばされた。
勢いよく、身体が吹き飛んで赤いカーペットの上に叩きつけられた。

背中が痛くて、顔を歪ませながら起き上がろうとしたが…そこにはもう神はいなかった。
当然リーズナも連れ去られて、俺は手も足も出なかった自分が悔しかった。

カイウスを守るって決めたのに、リーズナを奪われてしまった。
神がリーズナを奪うという事は、やはりリーズナはなにか知っていたのだろう。

神がいるところ、この時からローベルト家にいるのだろうか。

いや、違う…過去の神に会ってもリーズナはいない…今の神に会わないと…

カイウスの家を後にして、とりあえず生魚を置いてきた場所まで戻る事にした。
何処かに仕掛けをして、生魚に釣られたリーズナを捕獲しようと考えた。
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