冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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不思議な場所

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夜の宮殿はキラキラした夜空が下の湖まで反射して、まるで星屑が落っこちたようだった。

本当はこんな綺麗な場所、カイウスと二人で歩きたかったな。
カイウスは仕事で仕方ないんだけど、独り占めしているのがもったいない。

見た事がないカラフルな花が足元で元気よく花を咲かせていた。
花の上で、精霊達が座っていてお喋りをしていた。

邪魔しちゃ悪いと思い、音を立てないように離れる。

この場所って精霊の宮殿以外の建物ってないのかな?

進んでみると、奥までありそうな気がしてきた。

先が見えないほど続く道を好奇心だけで、歩き続けた。

宮殿の近くにしか光がないようで、宮殿から少し外れると真っ暗な道が続いていた。
昼間に来た方がいいかも…あまり深くに入ると帰れなくなりそうだ。

後ろを振り返ると、ぼんやり宮殿の明かりが見えて俺の帰る場所を示していた。

足を踏み出すと、優しい風が俺の身体を包み込むように吹いていた。
後ろを振り返ると、そこには何もなく真っ暗な道だけがあった。

俺はこの時、何も考えていなかった……ただ風に呼ばれた…そう感じて真っ暗な道を進んでいった。

どのくらい歩いただろうか、数分…数十分…分からない…ただ無心で歩いていた。
この先になにがあるのか、だんだんと光が見えてきた。
自然と足を掛けて、走り出していた…光に向かって…

「大変だ、すぐに向かうぞ!」

「……え?」

気がついたら、俺は街の真ん中に立っていた。
見慣れた噴水広場…お店や景色…間違いなく俺が住んでいる街だった。

精霊の宮殿は街に続いていたのか?カイウス、そんな事一言も言ってなかったけど…

それに空を見ると、綺麗な青空だ…いつの間に朝になっていたんだ?
まさか、歩きながら寝ていた…とか?俺、そんな事出来たの?

とにかく、カイウスが心配するから戻ろうと思って後ろを振り返った。
でも、後ろは壁で…元来た道が塞がれていた。

触ってみても、レンガの冷たい感触しかしなかった。
ここは骨董屋の壁か、よく分からなかったがとりあえずカイウスに会いに行こうと思った。

とはいえ俺の顔はバレてはいけないから、なにか被るものはないか探した。
木箱、いや…重いよな…布でもあればいいんだけど…勝手にお店のものを拝借出来ないよな。

よろず屋の布を見つめて、そんな事を考えていた。

でも、皆俺を見ても顔色一つ変えていない…まるでそこに俺が居ないようだ。

俺が犯人にされた時も、似てない似顔絵だったし…名前だけで俺の顔は分からないのかもしれない。
俺の顔を見た人も、あれから日にちが経ってるし何の特徴もない平凡顔だから忘れているのかも。

ならコソコソ挙動不審にしていると余計に怪しいな。
堂々と歩けばいい、俺は何も悪い事なんてしてないんだから…

騎士には会いたくはないから、カイウスが外回りしてくれていたらいいなぁ…と思いながら探す。

いない、というか…見回りしている騎士は知らない騎士ばかりだ。

クマさんのところで働いていた時、結構騎士の人達の顔を覚えていたんだけどな。

「団長!」

騎士の一人がそう言っているのが見えて、条件反射で声がした方を向いた。

そこに居たのはカイウスではなく知らない人だった。

あれ?今団長って言わなかった?騎士団長の事ではなかったのか?

団長と呼ばれた人は身体が大きくてお髭が濃い、強そうな人だった。
カイウスと同じ騎士服を着ているからやっぱり騎士団長だよな。

じゃあカイウスは…カイウスはいったい何処にいるんだ?

不安になって、カイウスの家に向かおうと駆け出した。

カイウスの家があり、一安心するが…家の前には人だかりが出来ていた。
なにかあったのか?目の前の人が身長高すぎて全然見えなかった。

背伸びしてみても、飛び跳ねていても全く見えない。

半分諦めていたら、突然周りの人達が動き出した。
しかし、俺は潰される事も踏まれる事もなかった。

皆俺をすり抜けていく、そして一歩も動いていない俺はいつの間にか先頭に立っていた。

なにかじゅうたんのような赤い布が地面に敷かれて、家の玄関と繋ぐ先には高級そうに金色と赤色を使った馬車が止まっていた。
さっきの騎士団長も馬車の近くにいて、布を敷いた騎士も急いで馬車の横に移動した。

騎士団長が馬車のドアを開くと、誰かが優雅な動きで馬車から降りた。

その人物に俺は見覚えがあったが、違和感も同時に感じた。

直接見たわけではなく、それはゲームのシーンで見た事がある。

確かあのシーンは、カイウスとの思い出を話すシーンで出てきた。
カイウスのルートではない、カイウスは彼の事を何とも思っていないからだ。

この帝国の王家には三人の王子がいて、優秀な長男、秀才な次男、そしてどうしようもない落ちこぼれの兄弟だ。

金髪で、少々くせっ毛が跳ねていて歩く度にピコピコと揺れていた。
麗しい碧眼の俺が出会っていなかった、最後の攻略キャラクターである第三王子のカイトだ。

カイトは軟派な奴で女好きで、マリーと出会った頃から口説こうとしているキャラクターだ。

でも、今のこの姿はまだ女好きではない可愛い顔だ。

そうだ、今のカイトはどう見ても6歳くらいの少年だ。
確かカイトはカイウスと同じ歳ではなかったのか?

訳が分からない、俺がすり抜ける事もそうだし…ここは本当に俺がいる世界なのか?

「お待ちしておりました、カイト様」

じゅうたんを歩いて、半分くらいで足を止めた。

そして家から、綺麗な男性と女性が現れて頭を下げていた。
俺は二人より、真ん中にいる少年の方が気になった。

青い髪に、目元を布で隠している姿…俺はその少年を見た事があった。

「カイウスッ!!」

会いたかったその人が現れて、思わず叫んでいた。

やはりすり抜ける身体だから、声は誰にも届いていなかった。
いや、違う…一人だけ俺の声に反応した人がいた。

キョロキョロと周りを見ていたカイウスが、両親らしき二人に引き連れられて歩いていた。

周りの人達は「あの方が不思議な力がある神の子か」とか「神々しい…」とか聞こえている。

カイウスを初めて見たような感想だらけだった。

確かカイトルートの回想でも、カイウスが街の人達に初めてお披露目した日だって言っていた。
だからカイウスが力を防いだばかりなのだろう。

俺とはまだ出会っていないな、なんか俺の知らないカイウスを見ているみたいで不思議だ。

「お前が神の子って言われている奴か?」

「…はい、カイト様ですね」

「そうだ、俺の事を守るんだろ?」

手を腰に当てて、カイトは威張った様子だった。

可愛い子供だと思っていたが、性格は大人になっても変わらないのかな。
大人でも、男には今のような上から目線で男に嫌われているタイプだ。
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