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宮殿での生活の始まり

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「ん…ん」

「ライム、朝だぞ…起きなくていいのか?」

「あと…ごふん」

「そんなにあれば、イタズラが出来るな」

チュッと、頬になにかが当たり…フワフワした頭の中で考える。

あの家で俺にキスするような人はいない筈だ。
リーズナだってそんな事はしないし、するならカイウスぐらいだ。

ボケーッとした頭で目を薄く開けて目の前を見た。
するとそこに居たのは超絶美形な男の顔だった。
毎回思うが、朝にその眩しすぎる顔は目によろしくない。

「おはよう、ライム…」

「……お、はよ」

「起こして悪かった、朝食用意したんだが…まだ寝ていたいならいいぞ」

「ううん、カイウス…一緒に食べたい」

カイウスは朝食を食べたら、すぐに出かけるんだろうし…一緒に食べたい。
出来るだけ一緒に過ごしたい、寝ていたらもったいない。

カイウスは優しく微笑み、俺の背中に腕を忍ばせて抱き抱えられた。

人前だと恥ずかしいが、二人っきりしかいない場所だと思いっきり甘えても許されるよね。

元の綺麗な青い髪に触れながら、カイウスに身体を預ける。

甘えるのもカイウス限定で好きだけど、カイウスに甘えられたい気持ちもある。
カイウスは年上だし、いろいろと甘えるのに抵抗があるのかもしれない。
でも、時々俺に甘えてくるカイウスはいつものかっこいい姿じゃなくてとても可愛く思う。

カイウスに食堂の前で下ろしてもらい、一緒に入る。

「その服、やっぱりでかいな…今日必要なものを買い揃えるからほしいものがあったら遠慮せずに言えよ」

「何から何までありがとう」

「当然だろ、恋人なんだから」

俺は宮殿に来てからすぐに気絶したから、カイウスのラフな寝間着を着せてもらっていた。
シャツは少し肩が出ていて、ズボンも裾が長くて少し引きづる。
体格の差がここまであるのか、大人と子供の差を思い知らされた。

俺が着ていた服はローベルト一族の兵士に支給される服で、Yシャツにローベルト一族の家紋が小さく印刷されている。

家紋が付いた服で、人を殺す仕事なんてしたらローベルト一族がやった事を世間に教える事になるだろう。
昨日は、寝間着に使っていた服のまま行ったからあの服だった。

ミロも気付いている筈だから、怒られるかと思って身構えていたが全然怒らなかった。
何故かは分からないが、初めての仕事の時はわざわざ普通の服に着替えさせられていたのに……ミロは父の命令に絶対忠誠だと思っていた。
もしかしたら、昨日の仕事に俺はいらなかったのだろうか。

父の命令ではなく、ミロが勝手に俺を連れてきたから服を着替えさせる事がなかった?
だから俺を置いて姿を消したのだろうか…でもローベルト一族の家紋をそのままはマズいと思う。
それとも、仕事以外のなにかに気を取られていてそこまで頭が回らなかった?

俺はミロではないから、いくら考えても答えなんて出る事はなかった。

「ライム、どうかしたのか?」

「えっ…ううん、何でもない…それよりカイウス、新聞ある?」

「今日のか?あるよ、持ってくるか?」

「俺も行くよ」

「ライムは先に座っててくれ、すぐに戻る」

カイウスは食堂のドアを開いてから、俺達が来た道に戻っていった。

ここはカイウスの別荘のようなところだし、なにか見られたくないものでもあるのかもしれない。
だとしたら俺はカイウスが戻ってくるまで食堂で待っていよう。

食堂に入ると、テーブルには既に美味しそうな料理が並んでいた。
さっきまでは普通だったのにお腹が小さく鳴って、ここにカイウスがいなくて良かったとホッとした。

椅子を引いて、座って…俺は何もない事を願った。

カイウスに新聞をお願いしたのは、新聞のニュースを見たいからだ。
ミロが誰かを殺したらすぐにニュースに載るだろう、だから平和なニュースだけなら安心出来る。

すぐにカイウスは戻ってきて、俺に新聞を渡してくれた。
ニュースを一つ一つ食い入るように見つめた。

いいニュースも悪いニュースもあるが、人が死んだニュースは何処にもなかった。

「だから大丈夫だって言っただろ?」

カイウスはそう言って、俺の向かいの席に座った。

良かったけど、どうしてミロは仕事をしなかったのだろうか。
心残りはあるが、俺が考えても仕方ない事のように思えた。

朝食を美味しくいただいて、カイウスは仕事に行ってしまった。

俺は宮殿の外に出て、綺麗な桜の木を眺めた。

いろんな事があって、最近歌…歌ってないな。
口を開いて、遠く離れたカイウスに届きますようにと願いを込めて歌を歌った。

スッと嫌な気持ちが晴れるように、桜の花びらに乗せて…

精霊達が集まってきた、まるで昔カイウスと出会うきっかけになったあの頃のようだ。

短い歌を歌い終えると、俺の周りを精霊達が飛び回っていた。

そうだ、カイウスにあの事を話さないとと思い出した。
今カイウスは出かけたばかりだし、帰りは夜遅くになるよな。
居候だし、カイウスに美味しい夕飯を作って待っていよう。

それで、あの話をカイウスにしよう…少しでもカイウスの役に立てるなら…

ポカポカな陽気で、満腹なのもあり…なんだか眠たくなってきた。
ちょっと仮眠しようかな、カイウスはまだ帰ってこないし……

お昼寝なんて、あの家に居たら考えられなかった。
いつも暴力にビクビクしながら過ごして、楽しい事なんて一つもなかった。
リーズナが来てくれて、少しはマシになったけどカイウスとリーズナではやっぱり違う。

カイウスがいるだけで、俺は他に何も望まない。
こんなに人を好きになれるんだって、幸せだな。

「…ライム、ライム…」

「んぅ、かいうす…すきぃ」

「あぁ、俺も好きだ…誰よりも愛してる」

「キス…きすがいい…」

唇になにかが重なり、チュッ…ちゅっと音が聞こえる。
そしてそれは、小さな唇を割って入り絡められる。

身体がビクッと反応して、俺もそれを追いかけるようにして動かす。
軽く歯が当たり、吸われるとゾクゾクした変な気分になる。

あれ?縁側で寝ていた筈なんだけど、俺…今なにしてるんだ?

ゆっくり目を開けると、今朝と似たような光景が見えた。
唇が離れていき、まだ口をポカンと開けたままカイウスを見つめる。

「どうした?まだ寝惚けているのか?なら俺がもっと…」

「わー!!ちょっ、待ってカイウス!!」

カイウスの手がシャツの中に滑り込んでいき、驚いて無意味に両手を上げた。

カイウス、帰ってくるの早すぎないか?俺…まだ数十分くらいしか寝ていないのに…

そう思って空を見たら、もう外は真っ暗だった。
寝ると時間が早く感じるけど、そんな何時間も寝ていたのか?

夜でも、宮殿の周りは丸い綺麗な光で満ちていて明るい。
カイウスは「まだ眠いか?」と聞いてきて、首を横に振った。

もう眠くはないけど、また夜寝れるか心配だ。
昨日は疲れたからその残りの過労でも残っていたのだろうとあまり気にしない事にした。

「ライム、夕食食べれそうか?」

「うん、大丈……!?」

「どうした?」

「カイウス、作っちゃった?」

「…….あ、あぁ…まずかったか?」

「ううん、ありがとう….明日は俺が作るね」

「楽しみにしてる」

本当は俺が作る予定だったが、カイウスが作ってくれたなら明日作ろう。

仕事で忙しいのに、本当に申し訳なく感じた。

さすがカイウス、夕食に手は抜かない…とても美味しそうな料理が並んでいた。
お腹も減っていて、手を合わせてカイウスと食事を楽しんだ。
食べて寝てを繰り返していたら、太ってしまうな…夕食を食べたら少し散歩しようかな。

散歩といっても精霊の宮殿の周りをグルグル回るくらいなんだけど…

「ご馳走様です」

「ライム、ちょっとこっちに来てくれないか?」

椅子から立ち上がると、カイウスが手招きしたからカイウスに近付く。

カイウスは手に袋を持っていて、袋に手を入れてなにかを引っ張った。
それは、今の季節にはピッタリな暖かそうな服だった。

カイウスは「今朝言っていた服だ、ライムが気に入るといいんだが」と少し不安そうにしていた。
カイウスが俺のために買ってくれた服を気に入らないわけないだろ?
服を受け取り、カイウスの頬に軽くキスをした。

「ありがとう、カイウス…大切に着るね」

カイウスに抱きつくと、優しい手つきで頭を撫でてくれた。
明日は恩返しで、とびきり美味しい料理を作ろうと決意した。

俺は早速風呂に入って、カイウスが買ってくれた服を着ようと思った。
カイウスはまだ仕事が少し残っているらしく、宮殿を出ていった。

忙しそうだな、忙しいのに俺と一緒にいる時間をちゃんと作ってくれて…嬉しい。
今の俺にはカイウスしか、話し相手がいない。
でも、ここにいる限り、寂しいなんて弱音を吐いちゃいけないよな。

頬を軽く叩いて、気を引き締めて風呂に向かった。

ふわふわの服に袖を通して、タオルで髪を拭う。
この空間は暑さも寒さもないから湯冷めはしないよな。
タオルを畳んで脱衣場に置いて、俺は散歩をしに外に出た。

この宮殿の外の世界が何処まで続くか知らなかった。
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