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ミロの話・後編

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目が覚めると知らないベッドの上だった。
そこにいたのはローベルト卿と数人の護衛の兵士だった。

ローベルト卿に次の仕事を与えられた、次は酒場の店主を殺せという話だった。
その店主は僕の犯行を見ていた奴だと言っていた。
ライムさんでなく、僕を見ていたようで自分の後始末をしろと言われた。

まさか見られていたなんて、不覚だった…新たな目撃者と騒いでいる様子はないが店主が指名手配の男と別人を見たと気付かれたら厄介だ。
暗くてよく見えなかったとはいえ、不安要素は早々に取り除いた方がいいだろう。

僕は頷いて、あの薬をローベルト卿にお願いした。
なんか、切れてしまったみたいで普通の腕力になってしまった。
普通の人間なんて嫌だ、僕は特別じゃなくてはいけないんだ!!

ローベルト卿は、僕を真っ直ぐ見つめてあの薬をもらった。
これだ、これがあれば僕に勝てる奴はいなくなる。

すぐに錠剤を口に入れて、噛み砕いた。

飲み込むとあの気持ちいい感覚を感じて、微笑む。

ライムさんのところに向かい、ライムさんにもチャンスをあげる事にした。
ローベルト卿にはこの話はしていない、絶対に反対されると思うから…

でも、僕はもうライムさんの力はいらないのではないかと感じている。
だってこの僕がいるんだから、第二の悪魔の子になってあげる。
でもライムさんがこのまま何もしないで一生を終えるのは可哀想だ。
だから僕はライムさんに、最後の出番を与える事にした…僕の役に立つという、ね。

僕は真夜中に実行するために、ライムさんと出かけた。
周りの奴らは任務だと思って何も言わなかった。
任務なのは僕だけだけどね。

昨日と同じように真っ暗な道を歩き出す、ライムさんには事前に誰を殺すか言っていない……先回りされたら迷惑だ。

それに今日は他に用事があるから邪魔をされたくない。

ライムさんは昨日の今日でかなり警戒しながら歩いていた、何処かで離れないと自由に動けないな。

すぐ近くに曲がり角があり、そこに向かって走り出して当然ライムさんも追いかけてきた。
あの曲がり角の先はT字になっていて、暗い場所では気付かないだろう。

曲がり角を曲がり、更に曲がり物陰に身を潜める。

ライムさんは「あれ!」と声を出して、周りを見渡しながら真っ直ぐ歩いていった。
暗殺をするから灯りを持っていないから気付かないのは当然だ。

ライムさんが奥に行くのを見届けて、元の場所に戻ってきた。

さてと、さっさと目撃者を殺そう….そして全ての罪をライムさんが被り処刑されたら僕を疑う奴はひとりもいなくなる。
そうしたら、僕が悪魔の子になれる…僕が一番なんだ…あんな弱い男なんかじゃない。

酒場に向かおうとしたが、騎士団の奴らが数人ウロウロしていて近付けない。

どうするか、先に騎士団をどうにかしなくては酒場に近付けない。

時間が勿体ない、先にライムさんの事を騎士団に売った方がいいかな。
ライムさんを引き渡してから早く酒場に向かい店主を殺せばライムさんがやったと思わせられるかな?

スピードが大事になるが、大丈夫だ…今の僕にはあの薬の力があるんだから…

騎士達が一人一人いなくなり、酒場の近くに一人しかいなかった。
残ったのはよりにもよってアイツか……まぁアイツが捕まえたら疑いようがなくなるな。

「あ、あのっ」

「…ん?君は…」

「僕っ、あの指名手配の犯人を知ってるんです!」

「本当か?」

「はい!この目でちゃんと見ました!」

「分かった、案内してくれ」

僕はさっき別れたT字の道に案内しようと走り出した。

「名前はライム・ローベルトです!あの悪魔の力で殺したんです!」と嘘を言うと、バカは信じて「実は騎士団の中でもローベルト一族の犯行は問答無用で処刑対象になるんだ」と教えてくれた。

確かに処刑されるような事をしているから、自然といえば自然だろう。
まぁ、もういらなくなったゴミを掃除してくれるなら願ったり叶ったりだけど…

そろそろT字がある道が近付いてくる、アイツ…あまり遠くに行ってないといいけど…
帰ってはいないはずだ、アイツの性格からして殺される人を見過ごすわけがない。
僕だって気付いてる、なんでアイツが着いてきたのか……本当に反吐が出る。

「この辺でいいか」

「えっ、いや…もっと先…」

まだT字に入っていないから、真っ直ぐを指差すと突然肩を掴まれた。

後ろを振り返る、さっきの仕事に一生懸命な顔とは違い冷めた瞳で僕を見ていた。

その顔はこの帝国の英雄と崇められるような顔ではなく…どちらかと言うとこちら側の…

ドキドキと心臓が高鳴る、僕が求めていた悪役はこういう顔なんだ。
何も感情がない、冷徹な瞳…まるでローベルト卿のようだ。

抵抗出来ない、僕の薬の力なんて全然効かない。
これが、薬で強くなった力ではなく本物の力…

「お前がやった事は分かってる、さっきも言ったよな…ローベルト一族は誰であろうと殺すと…」

「…僕じゃなっ…あ、アイツ…ライムが…」

「お前ごときがライムの名を呼べると思っているのか?下等生物の分際で俺のライムを傷つけやがって」

下等生物?誰が?え…僕が…?あんな奴に劣ると言うのか?

僕は強いんだ、コイツは知ったような事を言っているが僕やライムの事を何も知らない!

「お前なんかより僕の方が知ってる!あんなゴミより僕の方が強いんだ!それを忘れるな!」とカイウスに怒鳴った。
カイウスは眉一つも動かさず、僕の言葉が全く響いていなかった。

でも、僕の頬に触れて唇にカイウスの指が撫でる。
鼻がくっつきそうなほど至近距離で顔を近付けてきて、敵とはいえ頬が赤くなる。

さすが神に与えられた容姿だ、ローベルト卿の娘が夢中になるのも分かる。
それに今の彼は悪役としても魅力的で、男には興味はなかったが彼に興味が出てきた。

口を開けてと言われたら、その甘い誘惑に抵抗出来ずに口を開いた。
すぐにカイウスの形のいい唇が入ったと思ったら何かを口の奥底に入れられた。
何だかよく分からないまま、鈍い音がすぐ近くで聞こえた。

声にならないと叫びを上げて、地面に座り込んだ。
ぶらんと力が出ない右腕が下がっていた。
腕を折られたと気付くのに少し時間が掛かった。

「俺よりライムを知ってる?自惚れるなよ、俺にとってはお前はゴミ以下だ」

頭を掴まれて、口の中に入れられたものを外す前に抵抗した。
折られていない方の手でカイウスの腕を掴もうとしたら、腕を斬られた。
大量の血が吹き出て、痛くて痛くて気が遠くなりそうだった。

でもここで気絶したらきっと永遠に覚めないだろう。

涙目で命乞いをしても上手く喋れなくて、カイウスが少しだけ見えた。
死神のようなその人は殺される状況であっても美しいと思った。

「ライムの事を教えてくれてありがとう、お礼に君は火葬してあげるよ」
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