冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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不穏な予感

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身体が揺れたり浮いたりしていて、変な気分だった。

近くで変な音も聞こえる、なんだろう…うるさい。
それに肌寒い、布団を探そうと手を伸ばすが硬いものしか手が当たらない。

不思議に思い、ゆっくりと目を開けると目の前になにかが広がっていた。
黒いなにかが見える、そしてその先には薄暗いけど人のようなものが見える。

そこで驚いて、慌てて起き上がりよく見てみる。

やっぱり人だ…しかもこの黒いの…もしかして血?

暗くてよく見えなくて、遠くにある外灯でかろうじて見えるくらいの薄暗さだ。
死んでるのか、分からないけど倒れている人に触れてみた。
顔に手を近付けると、息はしていてとりあえず安堵する。

ここは何処なんだろう、外だけど知らない場所だ。

近くに店も何もない場所で、俺はポツンと立っていた。
近くには倒れている人と変なものが落ちていた。
何なのか分からないが、倒れている人を介抱しようと肩を軽く揺すってみる。

医者に知らせた方がいいけど、この人をここに放置するのも心配だ。

「あの、大丈夫ですか?」

「ん、うっ…」

男の人のようで、低い声で唸っていて抱き寄せる。
男の人は目を開いて俺を見ていた、良かった…目が覚めた。

大丈夫ですか?と聞くと頭が痛いと言っていた。

そういえば血が出ていたんだよな、頭からだったのか。
すぐに医者を呼ぶと言って、男の人に言ってその場から出た。

確か病院は噴水広場の傍にあり年中無休でやっていた気がする。

ここが何処か分からないから、ちょっと迷ってしまった。
他の店は酒屋と病院以外電気が消えていて、すぐに見つける事が出来た。

「先生いませんか!?」

「どうかしましたか?」

慌てて病院に入ると先生がすぐに見つかり、俺は先生に説明した。

突然寝ていて起きたら知らない人が倒れていたなんて簡単に信用出来るものじゃないよな。
しかし、倒れている人がいるならと着いてきてくれた。

「………これは、どういう事なんだ」

「そ…んな」

俺は覚えた道を通り、倒れている人のところにやってきた。
灯りを持ってきた人がその道を照らしたら、目を覆いたくなる光景がそこにはあった。

血が飛び散り、壁も地面も真っ赤に染まっていた。
そして、倒れている人はもうピクリとも動かない。

頭が痛いと言っていたのに、身体には無数の刺し傷があった。

医者は確認するために近付き、いろいろと調べていた。
そして、医者は俺の方を向いて「これは君が?」と言っていた。

俺は本当に何も知らないから必死に首を横に振った。

俺がなんて言っても、この状況の犯人は俺しか考えられないのだろう。
犯人である証拠より、犯人ではない証拠の方が説明に難しい。
それに俺の今の状況を考えると、俺が嘘を言っているように感じるのだろう。

……正直、俺はやってはいないが罪悪感はある。

俺がこの場から離れなければ、この人は死なずに済んだかもしれない。

何も言えなくなり、医者が俺の腕を強く掴んだ。

「騎士団に突き出してやる、来い!」

「俺、本当に何も…」

「言い訳は見苦しいぞっ…さっさと…ぐっ!?」

騎士団に行ったら、どうなるか分からず怖くて抵抗した。
カイウスに会える保証もなく、そのまま冤罪で処刑されるかもしれない。

なかなか歩こうとしない俺に医者は苛立っていたが、すぐに俺の腕を引く手に力がなくなった。
そのまま俺の前に倒れてきて、大の大人を支えきれずに俺も倒れた。

医者は動かなくなり、医者の後ろに誰かが居るのが見えた。
まさか、犯人がまだいたのか……心臓の音がうるさく響き緊張が走る。

医者が持っていた、灯りを持って後ろを照らしてその人物が露になる。

「……み、ミロ?」

「何やってんですかライム様」

ミロがそこに居て、見知った顔に安心より恐怖が勝った。

ミロの服が真っ赤に染まっている、元々ある服の色とは違うように感じた。
なにかが飛び散ったようで、ミロが犯人なのではないかと思ってしまう。

ミロの手を見ると、小さなナイフが握られている。
これはもう言い訳出来ないほどの証拠がそこにあった。
俺は医者の肩を押してなんとか脱出する事が出来た。

気絶しているみたいだから、きっとミロの手袋でだろう?

「ミロ、なんでこんな事…」

「これはローベルト一族の仕事ですよ」

「……えっ」

「この男は元ローベルトのスパイです、抜けたいと言っていたので抜けさせたんです」

「…じゃあ、なんでこんな事…」

「泳がせていたんですよ、騎士団にローベルトの事を話すのを」

ミロの言っている話は、ローベルトのスパイで帝国に出入りしていた業者でもあった。

でもローベルトに情報を流していた自分に恐怖して、やめたいと言っていた。
簡単に辞められるとは思っていなかったが、呆気なく父は了承した。

ローベルトがそんな簡単に逃がしてくれると思っていなかったから、騎士団にローベルトの情報を話す代わりに匿ってもらおうと思っていたらしい。

しかし、その日の夜…こんな事になるなんて…

騎士団は守ってくれなかったのか?それをミロに言うと笑われた。

「はははっ、スパイだったからローベルトの内情を知らなかったのでしょうね…騎士団の中にも我らの仲間がいる事を…」

そうか、騎士団にはカイウスの兄がいる…ローベルトと繋がっている事を知らなかったのか。

ユリウスに話したのか、運が悪かったのか…ユリウスに誘導されたのか…そこは話してくれなかったから分からない。
ユリウスが守ってくれる筈はなく、ローベルト一族に彼の行動は筒抜けだったみたいだ。

ミロは「あのユリウス様でも分からなかった騎士団の抜け道をあの男が知っていたから泳がせただけなのに、明日に希望を抱いていたなんて哀れな男だ」と笑って見下していた。

酷い、なんでこんな事をするんだ…死ぬまで利用され続けるなんて…

ミロは視線を医者に向けていた、嫌な予感しかしない。

「あまり騒がれるのは困るな、口止めで殺しとくか」

ミロが医者に向かってナイフを向けるから、俺は両手を広げた。
もう俺の前で殺させない、こんな事絶対許さない。

ミロはまだ笑っていて、それが不気味に思えた。
「ライム様が離れなければ、その男も死ななかったのに…」と呟かれて、俺は身体を震わせた。

ローベルト一族の事だから今日殺せなくても明日殺されていただろう。

でも今の俺にはそこまで考えられなくて、俺が殺したと錯覚までしてしまう。

固まる俺に向かってミロは離れろと目で訴えていた。
でもここで離れたら、もう一人の犠牲者が出る。

ここだけは絶対に離れるわけにはいかないんだ。

ミロを睨んで、俺は医者の前に立つとミロはため息を吐いた。

「まぁいいや、コイツは殺しのリストに入ってないから見逃します」

「…本当に?」

「僕の顔は見られてないし、犯人にするならライム様ですから…ライム様の悪名が上がるのなら今は見逃します」

確かに俺の顔は見られているが、今となっては別に変わらない。
どうせもう、昔のように街を自由に歩く事が出来ないから…

ミロに「帰りましょう」と言われて、俺の腕を掴んで引っ張られた。

俺を気絶させて運んだのはミロで、最初から俺を犯人にしようとしていたんだなと思っていた。

部屋に戻ってきて、真っ先にリーズナを探したがリーズナは何処にもいなかった。

まさか、リーズナも……顔が青くなり血の気が引いた。
ミロは俺がまだあの人が死んだ事を考えていると思っていて「夕食を持ってきます」と言っていた。

もう夕飯の時間ではないけど、夕飯を食べていないからだろう。

ミロがいなくなり、部屋の隅から隅まで見てみたがやっぱりリーズナはいない。
……電気だけとはいえ、無事かどうか分からない。

リーズナまで居なくなったら……俺、どうしたら…
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