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天国と地獄

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カイウスに出会う前、俺が過ごした時間は息苦しかった。

何をしても、誰かの監視が精神を蝕んでいく。

まるで鳥籠の鳥のように、外の世界は窓の外しか知らない。
数時間ごとにやってくる家庭教師達は、俺を見るなり怯えた顔をする。

その度にミロが「なにかしたら僕がお仕置きしますので、自由にやって下さい」と言っていた。
あの痛みを思い出して、顔を青くすると…それを見た家庭教師の顔から怯えが消えた。

いくら猛獣でも首輪を付けていれば、自分より下の立場なのだと思ったのだろう。

実際俺は何の力もないから、首輪をしなくても猛獣にはなれない。

「違うっ!!」

「いっ…」

間違える度に細い棒で手を叩かれた。
痛みに耐えてペンを必死に握る。
勉強しなくても殴られるから必死に問題を解いていく。

恐怖に支配されている状態でまともに頭が働かない。
でも間違えると殴られて、ペンを上手く握らなくても殴られた。

剣術の授業は、カイウスに教えられて強くなり先生の攻撃を避ける事が出来る。
授業なら反撃しても怒られない、足を踏み出して木刀を振り上げた。
すると後ろから衝撃があり、バランスを崩して床に倒れた。

驚いて後ろを見ると、もう一人先生がいた。
じくじくと背中が痛み、驚いて固まっていた。

それからの記憶はあまり覚えていない、気絶するほどの痛みを与えられた事ぐらいしか…

部屋のベッドで目を開けて、ミロが食事を持ってやって来た。

「目が覚めましたか?ここまで運ぶの大変だったんですよ」

「………」

「これ、お昼です」

そう言って差し出された料理は、お世辞でも美味しいと言えない料理だった。
こんな状態で食べる気にもならない。

でも食べないとまた痛い事をされる。

だから無理に料理を詰め込んで食べたフリをした。
完食したのを確認して、ミロは部屋を出て行った。

こっそり料理をゴミ袋の中に吐き出した、飲み込むのを身体が受け付けなかった。

バレないように隠して、トイレに行くフリをしてこっそり捨てようと思った。

そして夜遅くになり、ミロが寝ているベッドから抜き出す。
一日でこんなに疲れるのに毎日毎日こんな事があったら、精神が病みそうだ。

「……カイウス」

いつもなら窓の外を見たら、カイウスの部屋が見えた。
この部屋の窓からは何も見えない、何もいない。

会いたい…どうやってカイウスに会えるのかな。
窓から逃げ出せたら会えるだろうが、骨の一本は折れるだろう。

でも、こんなところにいるよりはマシかもしれない…もしかしてカイウスに会えるかもしれない。

窓を開けて身を乗り出してみる、二階だからそれなりに高い。
カイウス…カイウス…俺…カイウスと…

「何やってるんですか!?」

突然後ろに引き寄せられて、床に倒れた。

ミロにバレてしまった、窓を閉められて電流の手袋をはめている。

部屋の隅に逃げるが、すぐに捕まるだろう。

ミロに肩を掴まれて、ビリビリ電流が流れてきた。
俺はその時、強くカイウスを想い…ここから出たいと思った。

すると、目の前に精霊が見えた…なんでこんなところに…

次の瞬間、視界が変わった。

桜が綺麗な宮殿に佇んでいた。

ここは俺とカイウスの秘密の場所。
美しい光景に、安心感で力が抜けた。

カイウスはいないけど、ここにいたらいつかカイウスが来る事を信じて入り口で座った。

現実に戻りたくない、ここで永遠に暮らしたい。
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