冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

文字の大きさ
上 下
105 / 299

カイウスの話23

しおりを挟む
剣を引き抜き、剣が炎をまとい…神に向かって走り出した。

神は袖をはためかせて、腕で俺の剣を止めた。
やはり、まだ力が弱いか……いや、でも勝てない相手ではない。
この前は余裕そうだったのに、眉を寄せて少し苦しそうだ。

俺だってまだ本気ではない、剣を離して神に押し付けた。
それを見て、神は驚いた顔をしていた…その間抜けな顔が笑える。
剣に足を掛けて神に向かって、手を伸ばした。

神はすぐに俺から離れて、俺も空中を蹴り上げて地面に着地した。

「なるほど、気配のわりに剣がまとっている力が弱いと思ったが囮だったわけか」

「力が強いからといって、絶対に勝てるわけではない…力が弱くても戦い方一つで強くなれる……神のくせにそんな事も知らないのか?」

「………ならば、お前に教えてやる、力こそ戦いの全てだと」

そう言った神は、物凄い力を手のひらに集中させていた。

こんなもの、こんなところで放ったら…全員無事では済まないだろう。
それほどまでに強大な力だ、向こうも本気という事か。

精霊達は危険を察して遠くに逃げていっていた。

でも、この宮殿にはまだライムがいる…ライムを守らなくては…

「お前がライムを殺すと言うなら、この場所は破壊しないでおいてやる」とか戯言を言っていた。
ふざけるな、俺はなにがあってもライムを必ず守る。

俺の傍が、ライムにとっての安全になるように…
ずっと、この先も永遠にあの子の隣で笑顔を見ていたい。

何を恐れることがある、俺が恐れるのはただ一つ…あの子に笑顔が消えてしまう事だ。

俺は逃げる事はせず、神に向かって走り出した。

神の腕を掴むと、驚いた顔をして俺を見ていた。

俺が逃げ出すと思っていたのか、甘く見られたものだな。

「おい、そんな近くにいたらただじゃすまないぞ」

「へぇ、そうかよ」

「バカか!よく考えろ!あんな奴のために犠牲になるのか!?お前は国を守る騎士だろ!!」

「………お前、誰の話をしているんだ?」

「…!?」

「俺は騎士団長のカイウスじゃないぞ、よく見てみろよ…アホな神様」

神の力のオーラを放つ手に手を重ねて握りしめる。
焼けるように熱い、冷や汗もかいてきた…でもこのくらいなんて事はない。

力比べをしようじゃないか、どちらが一番強いのか。

俺も手のひらに力を込めた、さっきのお遊びよりもキツイやつだ。

俺は騎士団長のカイウスではない、国民がどうだが知らない。
俺がいなくても、誰かが守っていくのが国だろ?
騎士団長に任命されたからやっているだけに過ぎない。

ライムが守るべき国民じゃないという考えが気に入らない。

「うっ、ぐっ…急に…力が、強く…」

「ライムが守るべき国民じゃないって言うなら、俺はライムだけを守る……覚えとけ、俺はライムのためなら悪の道に染まっても構わない」

神は目を見開いて俺を見つめていた、俺はライムのために悪魔になる。

ライムの敵は俺の敵だ、逃げ腰になっている手を強く掴み逃がさない。

俺の力が真っ黒に変わっていく、背中が熱くなる。
なんだろう、と後ろを見ると真っ黒な羽根が生えていた。
なんだこれ、と思いつつ…どうでもいいかと思った。

しかし、神の方はそうはいかないようで眉を寄せていた。

「…お前、それは…今すぐ沈めろ!!宮殿を壊すのはやめるから!!」

「何を言ってるんだ?今更止められない、お前にはイラついているんだ」

コイツのせいでライムがどんな目に合ったのか、コイツはきっと知らない。
ライムが苦痛に感じるものは全て排除する、俺が消してやる!

羽根が大きく広がり、精霊の宮殿や周辺が俺の力で真っ黒に染まる。
大きく息を吐いた……神の首を掴んで周りよりも強い力で覆った。

『俺の大切な子を殺すと言うなら、その前に俺がお前を殺す』

その声は俺の声だったのか、何だったのか分からない。
ただ、俺はライムを守りたかった…それだけだった。

ホタルのようにキラキラと崩れていく、神の姿を見つめていた。
あれはただの幻覚か使い魔だろう、本物はまだ生きている。

またここに来るだろう、絶対にライムには会わせない……ここは俺とライムの安息の場所なんだ。
誰にも、穢させない…だから安心して…俺が絶対に守るから…

羽根が消えて、意識がゆらゆらと薄れていく。
…ライムが、起きたら…美味しいご飯を…作らなきゃ…いけないの、に…

そのままプツンと糸が切れたように意識がなくなった。
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...