冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

文字の大きさ
上 下
76 / 299

背中の怪我

しおりを挟む
「これ、奥のテーブルに運んでくれ!」

「はい!」

クマさんに言われて美味しそうな料理を乗せたトレイで運ぶ。
今日は特に忙しくて、いつもより動き回っていた。

ズキッと背中に鋭い痛みが走ったが、我慢して仕事を続けた。

そして、ピークは過ぎ去り…誰も居なくなった食堂のテーブルを拭いていた。
クマさんが「今日はもう上がっていいぞ」と言われて、後ろを振り返った。

気が緩んでいたのか、背中の痛みに思わず体がよろけた。

もう帰るだけだし、心配掛けないように笑いたかったが苦笑いになってしまった。

「おい大丈夫か?凄い汗じゃないか」

「へ、いき…で…」

「ちょっとすまんな」

クマさんが申し訳なさそうにそう言って、服を掴まれてたくし上げられた。
俺は見ていないから分からないが、背中を見たクマさんは一言も喋らない。

なにか言ってくれないと不安なんだけど、どうなってるんだ?

背中を見ようとすると、背中が痛くなるから見れない。

クマさんに無言で担がれて、そのまま食堂を後にした。
外は暗いけど、外灯が明るいからかなり恥ずかしい格好だ。

クマさんは騎士団の兵舎の前までやって来た。
兵舎の入り口は普通の騎士団員用に作られているからクマさんの身長では入れない。

「誰かいないか!!」

「あれクマじゃん、珍しい…何の用?」

「彼の手当を頼みたい、凄い怪我なんだ」

クマさんの声に出てきた騎士に、そう言った。
そこまで酷い状態なのか、カイウスに知られたらまた力が暴走してしまうかもしれない。

クマさんにカイウスには言わないでとお願いしてみたが、カイウスに言わないなら俺の家族に連絡すると言ってきた。
クマさんからしたら当然だと思うが、どちらも嫌だ。

家族になんて言ったら、俺がローベルトの子供だとバレてしまう。
そしたら、バイトも辞めなくてはならなくなる。

困って、黙っているとクマさんに降ろされた。

「ライム、お前は見ていないからそんな事を言えるんだ…とりあえずカイ様には言わなくてはいけない、それは分かってくれ」

「……はい、心配掛けてごめんなさい」

「謝る必要はない、ライム…俺はお前を息子のように思ってるんだから」

クマさんにポンポンと頭を撫でられて、その優しさに微笑んだ。

クマさんが本当のお父さんだったらよかったのにな。

騎士団員が「医務室に案内するから、ついてこい」と言われた。

クマさんにお礼を言って頭を下げて、兵舎の中に入った。

よく見たらこの騎士団員…ハイドレイだ、まさかまた会うなんて思わなかった。

クマさんが内緒に出来ないほどの怪我か…気になる。

医務室のドアを叩いて、ハイドレイが先に入って俺も後から医務室に入る。

独特な薬品のにおいに頭がクラクラしながら椅子に座る白衣の男の人を見た。

メガネを掛けていて、腰まで長い髪を一つに束ねているとても色気がある先生だ。

攻略キャラクターではないが、この先生はマリーが怪我をしてここの医務室に運ばれた時に知り合うんだっけ。
ヒロインにセクハラをして、カイウスやハイドレイに危険人物だと思われている。

攻略キャラクターじゃないのに存在感があり、覚えていた。

「今日はもう営業時間外だよ」

「そんなのねぇだろ!友達が怪我したんだよ、見てくれ先生!お願いだ!」

「うるせぇ!帰れ!…はぁ、女の子ならまだしも野郎に時間取られるなんてゴメンだ!」

「カイ様の知り合いみたいなんだよ、頼む先生!!」

その言葉を聞いてため息を吐いて、俺を不満そうに睨んでいた。

不真面目だけは、腕だけは確かで街からスカウトして騎士団専用の医師となったフレイ先生だ。

女好きだからなのか、営業時間は真面目だけど時間外に怪我をするとこうして断られてしまう事がある。

だから営業時間外に重症にならないように皆気を付けている。
夜に見回りもするのに、それでいいのかと思ったが騎士団員が医者がいるからとあまり無茶しなくなったからとハイドレイが説明していた。

自分で治せるカイウスは無茶ばかりしてしまうんだけどね。

椅子に座り、怪我がある背中が見えるように服をたくし上げた。

「………」

「うわっ、なんだこれ…ひでぇ」

フレイ先生とハイドレイの顔が歪むほど酷いらしい。

怖いけど「どうなってるんだ?」と聞いてみた。

背中に刺激を与えないように見る事は出来ないか確認していたらハイドレイに見ない方がいいと言われた。

そんなにグロいのか、フレイ先生に消毒液を染み込ませた清潔な布で傷口に触れられる。

「ひっ!んんっ、いたっ…あぐっ」

「おい!男のくせに変な声を出すな!」

フレイ先生に怒られても、痛くて声が我慢出来ない。

口元を押さえながら、涙を流して痛みに我慢する。

何故か目の前にいるハイドレイがジッと俺の顔を見ているのが気まずいんだけど…

フレイ先生は「弱いくせに営業時間外に無茶をするからこうなるんだ!今日は特別に見てやるが今後はないと思えよ!」と言った。

フレイ先生は男に厳しいと思っていたが、意外と優しいんだな。
痛みから目を背くためにそんな事を考えていた。

やっと激痛の消毒を終えて、包帯を巻かれる。

「騎士のくせに、女みたいに細い体してるからこんな怪我をするんだ!」と怒られてしまった。

騎士じゃないけど、怪我の理由を言いたくなくて黙っている事にした。

ぐっと腰を引かれて、顔が至近距離で近付く。
手当のためでお互いそういうつもりはないが、ビックリして顔を逸らす。

その時、ドアが叩かれて中にカイウスが入ってきた。
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...