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反撃

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「騎士が何の罪もない一般人に手を出すのは禁止されている筈だ、ユリウス…知らないとは言わせないぞ」

「ふん、お前には関係ない…引っ込んでろカイウス」

「そうはいかない」

カイウスはユリウスを睨んでいて、俺に手出ししないように後ろで庇っていた。
それを見ていたユリウスは、嫌な笑みを俺達に向けていた。

その笑みの意味が分からなかったが、ユリウスが「もうカイウスに取り入ったのか…嫌だと言ったお前の演技に騙された」と言っていた。

カイウスは来たばかりだからか、何の話かさっぱり分からずユリウスに聞こうとしていたがユリウスは後ろを振り返り歩いていってしまった。

ユリウスのあの言葉はきっと俺がカイウスを殺すために仲良くしてる…ユリウスに反抗したのもカイウスの目を欺くためとか何とか思っているように感じた。

俺がそんな演技が出来ると思っているのか?それにもしカイウスに演技で近付いてもすぐに見破られるだろう。
いくら兄であってもカイウスを馬鹿にしすぎだ、と再び怒りが湧いてきた。

でも、カイウスに優しく抱きしめられて…怒りが治まっていく。

「ライム、アイツになにかされたか?」

「…先に手を出したのは俺だから、ごめんなさい」

「ライムが?」

「俺の嫌がる事を言ったから、殴っちゃいました」

カイウスが死ぬとか、考えるだけで嫌なのにユリウスは平気な顔をして言ったんだ。
俺の事を言うならいい、ユリウスに言われても気にしないから……でもカイウスの事は許せなかった。

カイウスの悪口を言われたなんて本人に言ったら、いい気分にはならないだろうから黙った。
自分のせいで俺が兄を殴ったなんて知ったらカイウスは罪悪感でいっぱいになるかもしれない、それは嫌だ。

カイウスは俺の頭を撫でて「ライムが手を出すなんて、アイツの自業自得だろ」と言った。

でも俺は人を殴ったから暴行罪とかなるのかな、ユリウスは一応貴族だし…

「カイウス、俺…牢屋に入れられる?」

「何故だ?」

「だって俺、人を殴ったし…貴族だし…」

「ライムの家も貴族だろ?」とカイウスは不思議そうな顔をしていた。
確かにローベルト家は伯爵だけど、位はカイウスのところより低いからな。

カイウスは大丈夫だと俺の手を優しくキュッと握ってくれた。

カイウスの話によれば、俺が殴ったのは勿論悪い事だが先に煽ったのはユリウスだと言った。
煽らなかったら俺は殴らなかったから、ユリウスにも問題があると説明してくれた。

それに俺は一発しか殴っていないから牢獄行きのような重罪ではないと言った。

「むしろ牢獄行きはユリウスの方だろうな」

「…え?どうして?」

「ユリウスはライムに武器を向けた、人を殺す意思があれば殺人罪と同罪だ」

「そう、なんだ…」

「まぁ騎士団の敷地内で起こった事だ、ライムも何もないってわけにはいかない…反省文くらいだな、いいか?」

「うん、分かった」

殺す意思があったら殺人罪なのか、じゃあカイウスが殺した人ってもしかして罪に問われる人達だったのか?

やり方はアレだけど、カイウスは騎士として断罪した…優しいカイウスが罪人にならなくて良かった。

今後ユリウスが俺に反撃をしてくる危険がないとは限らないから送り迎えをカイウスがしてくれると言ってくれた。
そして、反省文の用紙をもらい家で書く事になりカイウスの学校前まで連れて行ってもらった。

本当は寮前まで送ると言われたが、皆の憧れのカイウスに送ってもらったら大変だから断った。
でも、心配性のカイウスはせめて学校の前までと言って学校前なら今日は休みだしもう夜遅いから誰もいないだろうと頷いた。

「騎士の事、よく知らなかったけど…カイウスが罪に問われなくて良かった」

「……」

「ご、ごめんなさい…思い出したくないよね」

「俺が暴走していた時に罪がどうとかは考えていなかった、この世で一番愛しい相手が傷付けられて黙って見ている事なんて出来ない」

「…そうだね、俺もカイウスの気持ちよく分かるよ」

「やっぱり悪口は俺の悪口か、ユリウスなら言いそうだな」

俺の短い言葉に察してしまい、遅いが口を手で覆った。
カイウス、気分悪くなってるかな…と不安だったがそれとは真逆に俺の頭を優しく撫でて「俺のために怒ってくれて、ありがとう」と微笑んでいた。
あまりの美しい笑みに、ボーッと見惚れていた。

学校前まで到着して、名残惜しいがカイウスとはお別れだ。
またベランダを覗けばカイウスがいるって分かっているが、やっぱり寂しいものは寂しい。

俺は精一杯背伸びして、カイウスとの身長の差が縮まる。

「ライム?」と俺が何をしているのか分かっていないカイウスが言った口を塞いだ。
俺は照れ隠しで、早口で別れの言葉を伝えて寮に向かって走った。

カイウスがどんな顔をしていたかは分からないが、俺の顔は面白いほど真っ赤に染まっているだろう。

「…ライムは俺を煽る天才だな」

そう呟いたカイウスを見た者は誰一人としていなかった。






俺の毎日の中にアルバイトが入り、大忙しだった。

部活がある日は部活終わりに騎士団の兵舎に向かい、ウェイターをする。
少し慣れてきたからか、料理も少しずつ教えてもらえるようになった。

カイウスも食べに来てくれて、仕事中だから接客しかしないがカイウスが「頑張れ」と言ってくれるだけでやる気が出てくる。

帰り、カイウスと一緒に夜道を歩いている時だった。

小さな爆発音と、人の悲鳴が聞こえてカイウスはすぐにその声の場所に向かった。
俺もカイウスの後を付いて行くと、暗い外灯もない夜道が光っていた。

俺達が近付くと悲鳴を上げていた本人がカイウスに気付いてすがり付いた。

「かっ、カイ様!助けて下さい!悪魔が、悪魔がぁ!!」

パニックを起こしていて、まともに会話が出来る状態ではなかった。
中年の男が何処かを指差していて、そこを見ると木箱が燃えていた。
ゆらゆらと揺れる火の真ん中になにか小さなものが見えた。

カイウスは中年の男に被害が及ばぬように早く家に帰れと言った。
この木箱がある建物は中年の男が経営している店だから、家は別にある。
よろよろと転けながら男は走り去っていき、カイウスは燃える木箱を睨んだ。

「…やはりお前が正体か」

「カイウス、もしかして…」

「ライムも見えるだろ?最近異常な現象の報告が多くてな、ただの人間にこんな事出来ない」

そう言ったカイウスは火に向かって、手をかざすと触れた部分が一瞬の間に凍った。
火が消えて、小さなものの正体がはっきりと見えた。

精霊だ、精霊が火を起こして人々を怖がらせていたのか?
でも俺の知る精霊はそんな事をする子だとは思えなかった。
なにか事情があるのかもしれない、カイウスも同じ気持ちだったのか精霊を拘束する事はせずしゃがんで目線を合わせた。

まるで小さな子供にするような感じがした。

「ここ最近の放火はお前だな」

「……」

「何故こんな事をしたんだ?」
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