冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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カイウス先生

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「武器は騎士の命と同じくらい大切なものだ、敵にそれを取られるような戦い方をするな」

それからカイウスに向かっていろんな武器を向けていたが、カイウスは素手と足だけで相手を倒していた。

それを見て怖気づく生徒もいて、数分で誰もカイウスに挑まなくなっていた。
カイウスはため息を吐いて「もういないのか?」と聞いてきた。

さっきまで準備運動を念入りにしていた俺は、カイウスの前に立った。

誰が行くのかと騒ついていたその場の空気が一気に静まった。
俺が何も武器を持っていないから、周りは馬鹿にした様子で笑っていた。

「武器は?」

「体術でやります」

「そうか」

カイウスは近くにいる俺しか分からないくらい小さく笑い構えた。
他の人よりカイウスに稽古をつけてもらった時間は長い、奇襲しなくても少しはいいところまでいけるだろ。
じゃないと、カイウスに失礼だ。

カイウスが動いた一瞬の隙を狙って攻撃したいが、カイウスは隙なんて一つもない。
俺が仕掛けて隙を作るしかない、ギュッと拳を握る。

一歩踏み出して、手を前に出すと当然カイウスに腕を掴まれて止められる。
それは分かってる、だから落ち着いて次の行動を素早く取る!

膝を曲げて蹴り上げようとしたら、もう片方の手で止められた。
俺が望んでいたのはカイウスの両手を塞ぐ事だ。

もう片方の足を思いっきり振り回してカイウスの顔目掛けて逆立ちした。
両足を離してしまうが、まだ自由な片手がある…それでバランスを取れれば転ける事はないだろう。

カイウスが教えてくれた技だ、身軽な俺ならではの攻撃。

残念ながら片手を掴んでいた手を離して、蹴りは防がれてしまった。
もっと早くやれば対応が追いつかないかもしれないな、とカイウスに起こされながらそう思った。

「アドバイスいるか?」

「大丈夫、次は絶対に負けません」

俺がそう言うと、カイウスは一瞬だけ優しげな瞳を見せて前を向いてしまった。

次は動きをもっと早くしよう、同じ手はもう使えないから別の作戦を考えて…

なんだか楽しくなってきて、周りを見ると…皆何も喋らず固まっていた。
どうかしたんだろうか、もしかしてカイウスと他人を装うためにした敬語が変だったのかな?

もう誰もカイウスに挑む人がいなくなり、次は武器の扱いの練習が始まった。
俺をチラチラ見ている人が何人かいたが、授業に集中していて俺を見る人が居なくなった。

俺は武器を武術にしたから、突きや蹴りの練習をした。
相手はいないから風に向かって手を突き出して息が切れる。


「今日はそのくらいでいいだろう、次は自分に合った武器を見つける事だ…一人でも俺に傷を付ける事がこの授業の目標だ」

『ありがとうございました!』と全員カイウスに頭を下げて、カイウスの今日の授業は終わった。
訓練所に備え付けられているシャワー室で汗を流して、制服を着て次の授業に行く。

俺は最後にシャワー室に入ったからほとんどの生徒はいなかった。
授業に遅れる前に早く済ませようと、服を脱いで個室に入る。

暖かいお湯を出して、汗を流してさっぱりする。
髪まで汗でパサパサになってしまった、常備されているシャンプーで髪を洗う。

その時、誰かがシャワー室に入ってきて…最後は俺だと思っていたから驚いた。
入ってきた人物も驚いた声を出して「誰かいるのか?」と聞いてきた。

慌てて「います!」と言うと、次に聞こえた声が「ライム?」だった。

カイウスがシャワー室にやってきた。

個室から顔を出すと、カイウスの逞しい裸が見えてすぐに顔を引っ込めた。

見慣れている筈なのに、顔が熱くなってしまう。

俺も裸だったからタオルを腰に巻いて、とりあえず隠すと個室のドアが開かれた。

「何故逃げる?」と首を傾げているが、そりゃあいきなりカイウスの裸を見たらびっくりして逃げ出したくもなる。

男らしく堂々としているが、前は隠してください!
シャワー室に俺しかいないとはいえ目のやり場に困る。

カイウスに背中を向けて、精一杯見ないように努力している。

「もう誰もいないと思っていたが、ライムで最後だったのか」

「あ、うん……そのカイウス、なんで狭い個室に入ってくるの?」

「ダメか?」

後ろから抱きしめられて、心臓がうるさいほど高鳴っていく。

ダメ…じゃないけど、ここは学校だし…って別にカイウスは変な事をしようとしてるわけではなくて…

頭がぐるぐるとパニックを起こして、カイウスの方に振り返り抱きしめた。

自分が何をしたのか気付くのはすぐの事だった。

上を向くとカイウスの顔が近くにあり、口をパクパクさせていた。
「ライム…」と呼ぶ声に甘さが混じる。

「カイ…ウス」

「キスだけ、したい」

「んっ…」

カイウスの顔が近付いて、ゆっくりと唇を重ねた。
裸でキスなんて普通のキスよりもエッチな事だって思うが、カイウスは言った通りキスだけで離れてしまった。

俺の事を気遣ってくれたんだって分かるが、俺の方が物足りなく感じた。

隣を使ってるとカイウスは個室を出ようとしていたから、とっさに腕を掴んだ。
カイウスは驚いて俺の方を見ていた、俺も何故か驚いていた。

カイウスを引き止めてどうするんだ?自分の行動が理解出来ない。

「…もう、少し…一緒に…」

小さな声だったが、カイウスには届いたみたいで俺の頭を撫でて個室の中に戻ってきてくれた。

カイウスもシャワーを浴びにきたから、引き止めたお詫びとして俺がカイウスの体を洗うお手伝いをする事にした。

背中をシャンプーで泡立てたスポンジでなぞるように洗う。

カイウスの背中は広くて抱きしめたい衝動を抑えてなんとか背中を洗い流す。
俺の方が変態だよな…腰にタオル巻いてて良かった。

前はカイウスが自分で洗い、さっぱりして俺達は個室を出た。

俺は湯冷めしている筈なのに、体がまだ熱くなっている。

「ライム、今夜…触れたい…いいか?」

「俺が、断ると思うのか?」

カイウスがフッと笑い、二回目のキスをした。

脱衣室で制服に着替えている時、カイウスはシャツのボタンを付けながら俺に「ライム、本当にアドバイスいらないのか?」と聞いてきた。
アドバイスって授業のアドバイスの事だよな。

俺は自分悪いところが分かっているから、それを直してまたリベンジしたいと伝えた。

もしそれでもダメだったら、カイウスのアドバイスを聞きたい。
自分で出来る事は、自分でやりたい…カイウスを守れる自分になるために…
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