上 下
61 / 299

悪役ライム

しおりを挟む
「ん、ぅ…」

「目が覚めたのか?」

意識がだんだんと浮上してきて、目の前にいるものを見つめる。
黒猫?なんで俺の部屋に黒猫がいるんだろう。

手を伸ばすと触れる前に黒猫がベッドから降りていった。

あれ?さっきこの黒猫喋ってなかった?

上半身を起こすと、そこは俺の部屋ではなかった。

見た事がある部屋だが、部屋の持ち主はいなかった。
服はサイズに合っていないぶかぶかのシャツで、俺のではない。

黒猫は「なんで俺が男のおもりなんてしなきゃならねぇんだよ」とぶつぶつと文句を言っていた。
きっと聞こえていないと思ってるんだろう、でも俺にはバッチリ聞こえてる。

俺は精霊が見えるからなのかもしれない、リーズナは普通の猫ではなく精霊の化身だし…

落ち着きなく部屋をぐるぐる回っていると、ドアが開いてリーズナが飛んでいった。

「リーズナ、ライムは…」

「カイウス」

「おはようライム」

カイウスが朝食が乗ったトレイを持ってきて、部屋に入ってきた。
テーブルにトレイを置いて、ベッドに腰を下ろす。

痛いところはないかと心配しているカイウスに大丈夫だと笑う。
俺達を遠くからリーズナが見つめていた。

俺のためにカイウスが朝食を作ってくれたそうで「今日だけ俺の飯を食べてくれるか?」と俺の唇に触れてそう言ってきた。
久々にカイウスの料理が食べたかったから頷いて、ゆっくりと起き上がる。

「…カイ、ソイツって確かローズちゃんが言ってたローベルトのガキじゃないのか?手に悪魔の紋様があるし」

リーズナは俺を警戒しながら、カイウスに言っていて俺はとっさに布団で手を隠した。
カイウスだけだと思っていたから部屋では手袋をしていなかった。

この力はカイウスの暴走を止めるため以外は何の力もないが、普通の人(?)からしたら怖いよな。
この紋様は消える事はないから、見て見ぬフリは出来ない…生まれたからには向き合わないといけないんだ。

もう見られたから誤魔化す事は出来ないから、リーズナに「ごめんね」と言うしかなかった。
カイウスはリーズナを持ち上げて部屋の外に追い出した。

「カイウスッ」

「ライムは何もしていないんだから堂々としていろ」

カイウスが布団の中に手を入れて、俺の手を握り紋様の手の甲に口付けた。
すると、紋様が反応して久々に体が熱くなってきた。
顔に熱が集まっているのが何となく分かり、自分の顔が見えなくても真っ赤になっているだろう。

カイウスなりの慰めなんだと分かる、それに俺がどれだけ救われたか…

紋様はまだ見せられないけど、堂々としている事も大事だよな。
何も後ろめたい事がないんだから、カイウスの自慢の恋人になるために…

そこで、ふと不思議な夢の事を思い出した。
普段ならボーッとしか思い出せない夢なのに、その夢はとても鮮明に覚えている。

「…イム、ライム?」

「えっ、な…何?」

「急に真剣な顔をして口を閉ざすからどうしたのかと心配した」

「ごめん、何でもないんだ…朝ごはん食べていい?」

「……あぁ」

カイウスは気になっているみたいだが、俺が話したくない顔をしていたから無理には聞かなかった。
ゲームの話なんてしたら変人扱いだ、出来るわけがなくてカイウスの優しさに感謝した。

ゲームでのカイウスのハッピーエンドはローベルト家の人間の壊滅を意味している。
悪の片棒を担いでいる俺も当然例外ではない。

でも今の俺はカイウスと恋人同士だし、悪い事はしていない。

でも俺はライム・ローベルト、悪魔の紋様を宿して俺は何もしなくても周りから忌み嫌われてる。
ヒロインのマリーは、カイウスに想いを寄せている女性達に嫌われていたが俺より酷くはない。
悪魔の紋様で周りの目が痛い時もあったが、カイウスと契約した事によってその認識は変わっていった。

どういう仕掛けかは分からないが、俺はカイウスと契約しても変わらず悪だと言われている。
もしかしたら、俺はマリーにはなれない…あくまで悪役だからなのかもしれない。

だとしたら俺が死ぬフラグは…

「ライム」

「…へ?」

「こぼしてる」

「ご、ごめん!服が…すぐに洗って返すから!」

「いや、気にしないが…大丈夫か?」

カイウスに心配掛けてしまった、堂々とするって決めたのに…

確かゲームでも似たような事があったと思い出す。
マリーが妹のサクヤに虐められていた時、誰にも相談出来ず落ち込んでいた。
そんな時もカイウスが心配してくれていた。
マリーはカイウスに全て話して助けを求めていたっけ、それでサクヤとライムのマリーにしてきた悪事をカイウスが知ったんだ。

ゲームでは悪役に天罰を与えてハッピーエンドだった。

カイウスに「俺、死ぬかもしれない」なんて言えるわけない…カイウスのストレスにはなりたくない。
恋人同士なのに一人で抱えて、自分勝手だって思われても俺はカイウスの前で笑う事しか出来なかった。

カイウスと一緒に学校に登校するといろいろと騒ぎになるので、俺が先に行って時間差でカイウスが学校に向かった。

親しい友人はいないので、一人のんびり歩いていたら後ろが急に騒がしくなった。
後ろを振り返るとカイウスがいろんな生徒に囲まれていた。

群れをずるずると引きずりながら歩いていて、カイウスは強いなぁと眺めていた。

ボーッと見ていたら、チャイムが鳴り響いて慌てて俺も走り出した。

今日から剣術の本格的な授業が始まるから皆楽しみにしていて、朝からそわそわと早くカイウスが来ないかと皆教室のドアを眺めていた。
女子は別室で俺達とは違う授業だから不満そうにしていた。
女騎士はいるが、基本女の子にそんな危険な授業受けさせるわけにはいかないもんな。

カイウスが教室にやってきて、動きやすい服装に着替えてから学校の裏手にある施設の訓練所に集合と伝えて教室を出た。
皆運動するために着るシャツにズボンというラフな体操着みたいな格好になった。
士官学校だから騎士を目指している者が多くて、体が出来上がっていた。

俺のような筋肉がない生徒もいない事はないが、男として落ち込んだ。
この授業でもっと鍛えないとな、俺の手でカイウスを守れるくらい強く!

皆、訓練所に向かい…今まで使いたい生徒だけ使っていたので俺は初めて来た。
鉄の壁に転んでも痛みが和らぐようにマットが床に敷き詰められていた。
壁にはいろんな種類の武器が飾られていて、ちょっと怖かった。

「準備運動を怠ると実戦では命取りになる、終わった者から好きな武器を使って俺に一度でも傷を負わせられたら騎士団に推薦してやってもいい」

「…で、でももし間違えて殺してしまったら」

「誤って殺されるほど弱くはないが、自信があるならお前から来い…俺を敵国の騎士だと思って本気で来い!」

カイウスに挑発された生徒は壁に飾られたハンマーを手に取り、突撃していた。
カイウスに稽古をつけてもらったから俺にはカイウスの強さが分かる。

カイウスは武器を持たず、素手で全員相手をするつもりだ。
しかもカイウスに傷を負わせたら騎士団に推薦だと知り目の色を変えていた。
その発言でカイウスは尊敬しているが、誰も手加減はしなくなっていた。
カイウスに加減は無用だと、すぐに分かった。

ハンマーを持っていた生徒は大きなハンマーを振り上げると、振り下ろす前にカイウスが腹に蹴りを入れて軽く吹き飛んだ。
ハンマーの重さで立ち上がれない生徒のハンマーを取り上げて起こしてあげる。

「隙があり過ぎる、あれじゃあ殺してくれと言っているようなものだ…この武器はお前より重い、もっと自分に合った武器を…」

カイウスが生徒にアドバイスをしていたら、別の生徒が後ろから槍で突こうと襲撃してきた。
しかし、体を少しずらして槍を掴んでから槍を引っ張ると生徒は前のめりになり、床に倒れた。
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

処理中です...