上 下
53 / 299

カイウスの話12

しおりを挟む
ローズはそれから口を閉ざしたままで、俺がそんな事を言うとは思っていなかったのだろう。

別にエーデルハイドを離れても、任命された騎士団長の仕事はちゃんとやる。
ただのカイウスになって、ライムとのんびり過ごすのもいいだろう。

そして、やはり俺が信じていた通りライムは何も悪くはなかった。

ローズは真相を知っても、ローベルトの兵士を屋敷に招き入れたという疑いは晴れていないと完全に白になるまで謝る気はないそうだ。
ローズはライムを傷付けたんだから謝らせたいが、ライムが何処にいるのか探すのが先だ。

ライムが落ちた筈の地面をくまなく探す、この高さから落ちてすぐに動けるなんて考えにくい。

草を掻き分けてライムに繋がる証拠が一つでもないかと探していたら、なにかが飛び出してきた。
それを目で追い、手を伸ばしてキャッチすると飛び出してきたものの正体が分かり手を離した。

精霊が隠れていたようで、悪かったと詫びを入れていたら俺の服の袖を掴んで引っ張っていた。
俺を何処かに連れて行こうとしているのか?ここにいたのならライムの居場所を知っているかもしれない。

「君はライムを知っているのか?」

精霊は一瞬だけ俺の方を振り返り、引っ張る事に専念していた。

来れば分かる、そう言われているようで大人しく精霊の後を付いて行った。

結構な距離を歩いて、ライムは本当にこの先にいるのか不安になっていく。
そこで、俺は見慣れた森の前にいる事に気付き精霊が森の中に入っていくのを眺めていた。

ここは俺とあの子の思い出の場所だ、ライムとは関係ない筈なのに何故心がこんなにざわつくのだろうか。
一歩踏み出すと、弾かれたように歩き続けて森の中に入った。

精霊は森の前まで道案内してくれたが、もう何処に行ったのか分からなくなる。
でも俺は惹かれるように、行く道に迷いは一切なくそこにむかった。

目指すは俺の人生を変えた、あの出会いの場所…今更あの子とどうかなるつもりはない。
ただ、一言だけ…感謝の言葉を伝えたい…ライムと出会うまでの間、俺の心の支えになってくれてありがとうと…

近くまで行くと、歌が聞こえた…あの子の歌だ…俺が間違える筈はない。

そして、俺はあの子を見つけてとても驚いていたがすぐに納得した。

俺は、最初から今までずっと気持ちは変わらなかったんだな。
俺が好きだったあの子は、今は俺が全てを捨てても守りたい存在だ。

美しい歌を奏でるライムに、心を奪われて愛しげに見つめた。
でも、何故だか悲しい感じがする歌だ…今のライムの心を歌っているのか?

歌い終わると、ライムは精霊と話していたから俺もライムのところに向かった。

「ありがとう、俺は大丈夫だよ…ただ一つだけお願いを聞いてくれる?カイウスのところに行ってマリーがどうなったか教えてくれる?」

「その必要はない」

ライムはメイドの事が心配で精霊に伝言を頼んでいた、伝言なんてしなくても俺はここにいる。

俺と目が合ったライムは、俺がここにいるのが不思議なのか呆然としていた。
精霊達がライムをここまで運んだのだろう、服に地面に当たった時の土が付いていない。

ライムに会えた喜びで、少しだけ足を速めて包み込むように抱きしめた。
もう離さない気でいたが、すぐにライムに肩を押されて簡単に距離が出来る。

何故ライムは俺を拒絶するんだ?ライムがいなくなる前にも腕を伸ばしたが掴んではくれなかった。
悲しい歌が関係しているのだろう、ライムの悲しみを俺が取り除きたい。

「カイウス、俺はマリーさんを傷付けたんだ…優しくしないでくれ」

「何をしたんだ?」

「…ぺ、ペンで刺したんだ…マリーさんの肩を…」

ライムの手が震えている、とても怖かったんだな…傍にいてやれなくてごめん。
またライムが逃げそうだったからしっかりと手を掴んで、指を絡めた。

あれは事故だと言うとライムは机からペンを掴んで刺したんだと言った。
握っていない方の手に視線を向けると、いろいろと納得した。

ライムが持っているものは俺が幼少期の頃に作った花のブレスレットだった。
あの子のために作ったものだ、ライムのものだから持っていっても構わないがこれのせいで勘違いしているんだな。

俺はパニックを起こしてまだ気付いていないライムの前にブレスレットをずっと握っている手を見せた。

「あのペンは机に置いていない、机にあったのはこれだ」

ライムはやっと自分が何を持っていたのか気付いたみたいだった。

でも気持ちが晴れていないライムに、自分のせいじゃなくてもメイドが心配なのだろう。
それは分かるし、ライムの優しさでいいところだが…ライムの頬に触れる。

少しでも早くライムが他の奴を気にしないように、真実を話した。
やっとライムから緊張が少し解けて、安心していた…俺も別の意味で安心した。

ローズの話もして、俺はやっぱりローズはライムを傷付けたとライムが許すなら代わりに俺が殴ろうか聞いてみた。
ライムは俺をギュッと抱きしめて止めるから、ローズへの怒りが吹き飛んだ。
あんな事をして謝らないローズを許すなんて、ライムは天使か?…いや、俺の嫁だ。

ローズの事はほっといて、俺はライムから花のブレスレットを取りライムの腕を掴んだ。
昔ライムが俺を手当てしてくれた、この手に今…贈り物をしよう。

「これ…」

「ライムのために作ったんだ、渡しそびれたものだ」

悪魔の紋様に口付けをすると、ライムはまだちょっと気にしているのかびっくりしていた。
俺は暴走しない、だってライムと過ごすこの幸せなひと時を自ら壊すわけないだろ?
俺はライムの全てを受け入れる、だからライムも俺の全てを知ってくれ。

自然と引き寄せられていき、口付けを交わす…遠回りだったけどやっと俺達は結ばれるんだ。
言葉ではまだ好きだと言われた事はないが、拒まない事がライムの答えだろう。

深い口付けを終わり、名残惜しそうに少し離れるとライムの腰を軽く引き寄せた。

「ライム、今からお前を抱く…最後までするけどいいか?」

「…うん、これが俺の気持ちだから」

そして俺はライムと最高な時間を共に過ごして、想いをより深めた。
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...